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街角で突然「こんにちわ!」と声をかけられることでおなじみの、地域警察官による市民への挨拶運動。
出だしが多くの場合、『こんにちわ』『こんばんわ』など軽い挨拶程度から入ることが常なので、俗にバンカケとも言うが、つまり職務質問である。
地域警察官は事件・事故の発生を未然に防ぐ犯罪抑止活動が任務だ。犯罪の多発する時間帯・地域に重点を置いた警ら活動に日々従事する。その際は危険箇所の把握、犯罪多発地域の家庭や事業者に対しては防犯指導を、そして不審者に対しては職務質問をというわけである。
実際、街頭警ら中の地域警察官による職務質問から発覚する犯罪は少なくなく、対象者の違法行為が露見して検挙に至れば、検挙した警察官の勤務評定も上がるから熱をいれるわけ。
職務質問では免許証の提示、さらに氏名と生年月日、住所、職業などを聞かれプライバシーが丸裸にされるのと同時に所持品検査となるのが一般的なパターンだ。とくに夜間、自転車に乗っていると職務質問に遭いやすく、その際は身元確認とセットで防犯登録の確認をされるのがセオリーだ。
ヤマシイことがないならば、職務質問を受けてカバンの中を探られて、署活系無線で照会(通称 123)をかけられても『該当ナシ』が即返ってきて、数分で終わり、最後には『街頭防犯活動へ協力してくれた証』として所轄署の名称が入った反射素材の交通安全キーホルダーなどをお土産に手渡されこともあり『ご協力ありがとうございました。お気をつけて……』で放免となることが大半だ。
しかし、そもそも何も悪いことをしていないのに何故自分が警察に呼び止められて職務質問をされるのかという観点から『不審者扱い』されること自体に不愉快さを感じる人もの声は少なくない。
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職質は任意であるにもかかわらず、半ば強制的だとして反感を抱き、拒否をする人も多い。職質の実情とは。
『オタク狩り』の正当性と主な職質対象者……現場の合言葉は『ミリタリールックを狙え』
一時期、オタクの聖地である秋葉原界隈でオタク青年らが不良少年らに恐喝されるという、いわゆる『オタク狩り』が相次いだ。さらには、より局所的にオタク青年らが集まるコミケを狙った『コミケ狩り』も起きた。
買い物のために秋葉原へやってきた彼らは多額の現金を持ち歩いていることが主に狙われた要因となったが、オタク青年らの一部はオタク狩りに対抗するため、ナイフなどを護身用に携行し始めた。
実際、2007年6月5日付けの朝日新聞報道を典拠の一例とすれば、『オタク狩りに対抗?「アキバ」で銃刀法違反の摘発急増』というタイトルでこの騒動を報じ、その中で秋葉原を管轄する万世橋警察署が摘発した銃刀法違反事件は3年間で28倍も増えていると伝えている。
記事によれば、警視庁が改めて調べると『秋葉原では最近、「オタク」と言われる若者を狙った強盗や恐喝事件が頻発していたこと』が分かったという。しかも、警視庁幹部によれば、ナイフの所持で摘発された者たちはいわゆる不良少年ではなく『真面目でおとなしそうな若者たちだ』という。そのうえで朝日新聞は『秋葉原での摘発例は、こうした被害に備えて法律違反になることを知らずに刃物を携帯していたケースがほとんど』と指摘している。
つまり、ナイフを持ち歩いていた一部のオタク青年らは今度は警視庁万世橋署員による『オタク狩り』によって、片っ端から声をかけられ、所持品検査をされ、不法に護身具を所持していた一部のオタク青年らは次々に『狩られて』いった。
彼らの中でも目をつけられたのは、迷彩パターンのミリタリーパーカーなどを着用し、ミリタリーリュックをかついだ特定の者たちだった。それもそのはず、ラジオライフの記事を典拠とすれば『見た目がミリタリー系のやつは怪しいので徹底的にバンかけろ』という主旨の指示を実際に警視庁がマニュアルおよびルールとして、千代田区エリアを管轄する所轄の地域警察官に行っているという。
当然、護身名目でナイフを持ち歩くことなど許されない。警察はナイフの持ち歩きには強く敵意をむき出しにしており、刃長が銃刀法に違反するナイフであれば、銃刀法違反で必ず逮捕、銃刀法に触れない6センチ未満のビクトリノックスなどのアーミーナイフ、ナイフつきマルチツールであっても、軽犯罪法違反でほぼ逮捕、または署長宛の上申書(反省文である)を出し、ナイフ没収で身受け人にママを呼ばれてようやく放免という厳しい対応を取っているのが実情だ。
東日本大震災の直後ですら、被災地でボランティアがツールナイフを持っていたという理由で警視庁から派遣された警察官は「運が悪いと思ってあきらめて」と言って検挙しようとしたが、弁護士の猛烈抗議で検挙に至らなかった話は有名だ。
職質の過程で対象者の趣味がわかればしめたものだ。例えばサバゲー帰り、車の中にエアガンや迷彩服を積んだミリオタなんかはそのまま「特異人物リスト」に適宜(てきぎ)リストアップされ、後日、近隣でエアガンやナイフによる事件でも起きれば、刑事が真っ先に事情聴取にやってくるという(典拠元・SATマガジン)。
自家用車を覆面モドキにしている人の場合も同様だ。警察官を装った事件があった際、実際に聴取を受けたマニアもいる。
それでなくとも、秋葉原はナイフによる悲劇が発生した街かつ、若者使い捨て型派遣労働の議論にまで及んだ街だ。さらにはダガーナイフ所持の全面禁止へとつながったあの事件を鑑みれば、当局も熱を入れるというわけ。
職務質問の例……疑念を抱いたらとりあえずバンカケで解決するスタイル
『この頃はこんな風に職務質問をするのですか。何を根拠にしているのですか』と職質対象者が喚けば、警察官は警察官職務執行法を何も見ずにソラで述べ、黙らせるため、警察学校で何度も暗記するという。これがアクティブ・コミニュケーションの一例だ。
自ら隊員のお家芸はもっと評価されていい
街中をパトカーで警らし、不審な人物がいたら即、職質を行うのが、各警察本部の自動車警ら隊。その”自ら隊員”のお家芸とも言えるのが、職務質問なのである。
パトカーの姿を見て小道にそそくさと車で逃げ込む者がいれば、即Uターンして御声がけ。「前の運転手さーん。左に寄せて止まってください。ハイ、そちらで結構です」
「こんにちは。ダンナさん、なんかねえ、パトカー見てスーッと行っちゃったもんだからさ、声掛けさせてもらったんだけど。目、そらさなかった?私、見たよ」と言いながら下手に出て、職務質問が開始される。
免許証の照会で何がわかる?
職務質問では警察官から必ず免許証などの身分証の提示を求められ、身元を明らかにしなければ解放は難しい。
警察官は署活系無線や、パトカー搭載のパトカー緊急照会指令システム(PAT)によるデータ通信などで免許証に記載された氏名や本籍地などを各都道府県ごとの照会センターなどで照らし合わせるその名も『照会』を行う。すると職質対象者の身元はおろか、過去の犯歴などもすべて明らかになる。この『照会』だが、警視庁の場合は照会センターを「ひゃくにじゅうさん」と通話コードで呼んでいる。
コードは各警察本部で異なるが、この通話コードや隠語といった照会時に使う独特の用語は目の前の職質対象者への配慮でもある。例えば「U号照会一件願いたい」と警察官が言った場合、車両所有者の照会だ。ほかにも前歴、つまり逮捕歴や指名手配の有無、さらには家族からの捜索願いが出されていないかなど、すべてひっくるめて照会をかけたい場合は『総合』で照会をかける。一般に逮捕歴を『前歴』と呼び、起訴されて有罪になれば『前科』がつく。前歴も前科も警察の照会センターにバッチリ記録されるので、すべて判明する。
自動車警ら隊などは、パトカー照会指令システム(通称・PATシステム)のデータ通信を使って、免許証などの身分証から対象者の身元照会を行うこともある。
対象者の身体から酒や違法薬物の臭いがしないか鼻を使って警察官が確認する
対象者の身元の照会と並行し、車検証や車内を確認される。
「車検証いいかい。あと後ろも見ていいかい」、「このデジカメで何撮るのさおたくさん(笑)なんかヤバイもん撮ってるのかい」「ヤバイっていうのは、例えばまあ、道で高校生の女の子撮ったりさ」「パトカーの写真撮ってるって?アンタ……」「普通は職質されたら怒鳴ったりする人が多いけどアンタは怒らないね。なぜなんだい?警察が好きなのかい?ヒヒッ」「おたくさん、仕事中かい?働いてんのかい?(笑)」とか「なんか、見せられないものとか持ってないよね?あるなら……最初に出しなよ」「見せられないものってのは光(ヒカリ)ものとかポンプとか、変なハーブとかさ、ダンナさん」と言って、車内検索のための了承を取ってくる。所持品検査にはパトカーの後部座席に置いてあるコクヨの書類トレイが使われ、そこへ所持品を攫われる。
特に重要なのは対象者の手の動きだ。ポケットから何かを捨てるのを警察官は見逃さない。
また、同じ質問を二人の隊員が何度も繰り返すことで矛盾点をついてくる。
もし矛盾があれば「あれ……ダンナさん、ワタシとあっちのお巡りさんに対して、さっきと言ってること違うねぇ。なーんで嘘つくのさ」などと自ら隊員の目の色がキラッと変わる。
同じ質問を二人の警察官が何度も繰り返すことで矛盾点を追求するのはセオリーだ。
職質は見た目が9割!警察官が怪しむ対象者の特徴とは
前述のミリタリールックのような服装のほか「長袖」や「黒い服」など特定の服装も、非常に怪しまれているのが実情だ。「長袖」が怪しい理由は薬物中毒者なら薬物使用の痕を隠すため、組員なら刺青を隠す事が多いためだ。とくに真夏の炎天下で長袖、それも黒い服を着ていれば「ダンナさん、アンタどこの組?」とお声がけが待つ。白いシャツだと刺青が透けるからだ。
一方、仕草では「多弁」といったものも怪しまれる。多弁は脱法ハーブや薬物中毒者の症状で多いからだ。聴いてもいないことをまくしたてるように話す特徴は薬物か、別のことを隠すための行動だと思われているという。
また、職質中に用便申告する対象者には、とくに警察官は目の色を変えて警戒している。トイレに薬物などを捨てる者もいるためだ。
だから、大抵の場合は用便申告をしても警察官に「そんなのあとでいいでしょ。アンタがしたくたってウチらはしたくないもん」と言われ、泣こうが土下座しようが無慈悲に拒否される。パトカーの中で漏らしても、警察官はまったく気に留めない。汚物を拭くより、一件挙げられずに逃すほうが悔しいのである。
それを如実に表したのが三重県四日市市でのできことだ。
https://www.nikkei.com/article/DGXNASDG27016_X20C12A3000000/
パトカー乗ったら目の色変えろ。それを教え込むのは職務質問技能指導員だ。警察24時を見ていると、職務質問技能指導員というキャプションで紹介されるベテラン警察官が出てくることがある。新人警察官に職質のスキルを伝授するお目付け役が彼らである。職務質問技能の伝承体制のさらなる確立および地域警察官の職務質問技能の一層の向上を図ることを目的として任用されているのだ。
非協力的な態度だと職質の時間がさらに伸びる
このような職質は基本的に警察官職務執行法の第二条に基づいて行われるものと定められている。職質をしても許されるケースとは簡単に言えば、異常な行動、その他、疑いがあるもの……などが対象だ。ただ「警察官の主観でアヤシイと判断」することも認められていない。
つまり、あなたが何も悪いことをしていないのに職務質問されたということは、あなたは警察官に怪しいと疑いをかけられたワケだから、気分が悪くなってもおかしくはないはずだ。
また、職務質問は任意で行われるものであって強制ではないが、それにもかかわらず、半ば強制的に職務質問が行われているとしてしばしば問題になり、実際に「違法な職務質問」で警察(都道府県)が訴えられ、賠償判決が下ることもある。これらの事情から、昨今では職務質問に非協力的な人も増えているのが実情ではないだろうか。
しかし、非協力的な態度で臨むことは、より職務質問の時間が増したり、さらに怪しまれる結果を生む。積極的に協力するほうが結果的に職質による拘束時間は飛躍的に短縮化できるので、すみやかな放免を願うなら、できる限り協力したほうが得策だ。
あまりに拒否を貫くと、応援のパトカーと人員、さらには簡易薬物検査キットを持った刑事まで来かねない。
職務質問と公務中の警察官の肖像権
ネット上を見ていると「公務中の警察官に肖像権は無いという最高裁判所の判例がある」と主張をされている方が多くいる。「警察官には肖像権がないのだから、公務である職質を撮影してもかまわない」という理屈で、職務質問の際のやり取りを撮影し、動画をアップロードする例もあるようだ。
しかし、弁護士の方によれば、最高裁判所の判決で「公務中の警察官に肖像権は無い」と認めたものはないという。さらに言えば、そもそも日本では肖像権を規定した法律自体がないそうだ。ただし、個人の持つ権利としての肖像権については裁判所の判例としていくつも出ている。
また、小瀬弘典弁護士の見解によれば、職務中の警察官であっても「みだりに自己の容ぼうなどを撮影されないということについて法律上保護されるべき人格的利益を有する」とのことだ。
参考文献 http://www.bengo4.com/houmu/17/1267/b_127951/
職務質問のまとめ
職質で逃走や即座に身元を明らかにしない者は転び公妨で逮捕されるリスクがある
無理に職務質問を拒否し、逃げるように立ち去ろうとした瞬間、警察官は転倒する。文字通り転ぶ場合もあれば、押し退けようと警察官の身体を押すことも公務執行妨害と見なされる。これはオウム事件で有名になった『転び公妨』という手法だ。
任意である以上、拒むことも正しい権利の行使と言えるが、損得勘定で言った場合どちらが得か、その判断は各々に委ねられるだろうが、長引かせたくないなら、即座に免許証を出して、自らの身元を明かすことがベストな行動と言えそうだ。
いずれにせよ、職務質問は地域警察官にとって、犯罪の端緒をつかむ最大の武器となっている。