緊急走行とはサイレンを吹鳴し、さらに赤色灯(警光灯)を点灯させた状態で緊急車両が走行すること。緊急走行中は速度制限などが一部免除される。
パトカーの場合、単に緊急走行と言っても、交通事故&違反車追跡や捜査といった一般的な警察事象への対処のみならず、裁判所まで緊急に逮捕状を取りにいく場合や、薬物鑑定のために警察本部へ被疑者の尿を運んだり、果ては大学の受験会場を間違えた者の搬送までも認められている。
緊急走行と警戒走行の違い
一方、警光灯のみ点灯させ、サイレンを鳴らさずに通常走行することを警戒走行と呼ぶ。これは主に街頭犯罪抑止が目的だ。
ただし、警戒走行はサイレンを伴わないため、緊急走行扱いとはならないが、たとえサイレンを鳴らさなくても緊急走行が準用される場合もある。
例えば、警察本部によってはサイレンを鳴らして現場に駆けつけると犯人に気づかれるため、敢えて鳴らさない場合もあることを県民に理解してほしいと広報している。
この場合、たとえ制限速度を超えたとしても、軽微な違反の場合は違法性が阻却されると取り締まり当局側では解している。
また、交通取締りに限っては道路交通細則を根拠として、サイレンを鳴らさなくても緊急走行扱いとなる場合もある。これについては以下のページにて解説している。
すなわち基本的にパトカーに限らず、緊急車両が緊急走行を行うにはサイレンと赤色灯が必要となる。
当然、後方から緊急車両が近づいてきた場合は速やかに道を譲らなければならないが、一般ドライバーからすれば、例えサイレンが鳴っていなくても緊急走行なのか、警戒走行なのか、はっきりとした判断材料は乏しいので断定がままならないのが現状だ。
パトカーが緊急走行で遅刻の受験生を搬送
受験大国の韓国では毎年受験シーズンになると、国を挙げて大学受験生をバックアップするのが慣例になっている。
高卒に人権が無いのは日本以上だそうで、入試に失敗すると底辺まっしぐらなのだそうだ。
そういった理由からなのか、警察がパトカーや白バイの緊急走行で受験生を搬送したり、受験生の乗ったバスを先導したりするのが韓国では普通。だが、その光景は日本人の感覚からすると、かなり奇異に見える。
ところが、同じような騒動が2004年、日本の京都でも起きた。
ある一台のタクシーの運転手が交番に駆け込んできた。運転手は「受験に遅刻しそうな女性を助けてやってほしい」と警察官に説明。警察官がタクシーの車内で泣いていた女性に事情を聞くと、女性は泣きじゃくりながら「受験会場を間違えて間に合わない」と説明。どうやら大学受験の会場を間違えたようだ。
すると、交番の警察官は「人生を左右する緊急事態」として直属の上司に確認のうえで許可を取り、なんとパトカーによる緊急走行にて受験生を大学まで送り届けたのである。
途中、高速道路などを経由して25分の緊急走行で、正しい試験会場まで走り抜いた。結局、試験会場を間違えた女性の泣きじゃくり得だったわけ。
少なくとも受験生がオトコだったら、京都府警は「会場を間違ったあんたが悪いやん」「また来年受ければええやん」とか「これ以上泣き喚けばタクシーへの営業妨害で罪になるで」「あんた、男やん」などと、同じ対応はしなかったのではないか。
会場間違えた、受験生をパトカー急送
同大・京田辺へ間一髪
7日午前10時前、京都市南区・JR京都駅八条口近くの京都府警九条署山王交番に、大学入試の会場を間違えて試験を受けられなくなりそうな女性が駆け込んだ。事情を知った九条署はパトカーを緊急走行させ、ぎりぎりの時間に京田辺市内の試験会場まで送り届けた。
同署によると、女性はこの日行われた同志社大の受験生。試験会場は京田辺市にある京田辺キャンパスなのに、上京区の今出川キャンパスと間違えたらしい。女性はタクシーで京田辺へ急いだらしいが、間に合わないと思った運転手が同交番に連れていったという。
試験開始は午前10時で、遅刻が認められるのは30分が限度。車で普通に走れば40分以上かかる。女性は交番で泣き崩れたが、同署は「本来の業務ではないが、人生にかかわる問題だから特別に」と、署に待機していたパトカー1台を急きょ出動。パトカーは赤色灯とサイレンを鳴らしながら、自動車専用道も使い、なんとか3分前に到着した。
典拠元 Kyoto Shimbun 2004.02.07 News
この受験生を特別扱いで搬送するため、サイレンを鳴らしたパトカーに道を譲らなければならなかった一般車両、青で横断歩道を渡っていた歩行者。
この事件はネット上でも賛否両論が巻き起こり、女性を批判する声や警察の対応を称賛する声も上がり、実際に京都府警には全国から賛否両論の声が届いた。
さてもう一方、パトカーが受験生を送り届けた話がある。こちらは受験生を乗せた旅客バスが高速道路上で事故ってしまい、何の非もない受験生が、このままでは遅刻になって試験を受けられなくなってしまうため、警察が緊急走行のパトカーで受験会場まで受験生らを送り届けたという粋な計らいである。
05’02 広島県警 高速バスが追突、4人けが パトカーが受験生送り届ける
8日午前8時35分ごろ、広島県東広島市高屋町宮領の山陽自動車道下り線で、本四バス開発(同県尾道市)の高速路線バス=岡野一馬運転手(50)=が、同県福山市神村町の建設会社社員の男性(33)運転の大型トレーラーに追突した。バスは前部が壊れ、バスの乗客31人のうち4人が首をねんざするなど軽いけがをした。乗客の中に大学受験会場に向かう途中の受験生がいたため、県警のパトカーがサイレンを鳴らして広島市内の会場まで運んだ。
県警高速隊の調べでは、現場は下り坂の直線道路だった。バスは広島県因島市から広島市内へ向かっていた。けがをしたのは因島市と尾道市、向島町の32~76歳の女性4人。
けががなかった乗客の中に、この日広島市内であった同志社大学の「地方入試」を受験予定の男性がいた。男性の相談を受け、高速隊はサイレンを鳴らし、パトカーに男性を乗せて約三十数キロ先の県立総合体育館まで運んだ。試験開始約10分前に会場に到着したという。
高速隊は「受験生の人生を左右する事態なのでこのような措置をとった。事故の被害者対策でもある」と話している。
緊急走行できない捜査車両がある?逆転の発想で考える緊急走行
当然、緊急走行をする車両は公安委員会に認可されていなければならないが、警察の中で捜査に使用される、いわゆる「捜査車両」のうち、緊急車両登録がなされていない車両も多い。
とくに緊急走行で現場に向かうような事案が滅多に起きない地方の警察署では、デジタル無線機だけは搭載されていても、赤灯とサイレンが無い”非覆面の捜査車両”も多い。
このような事情から”捜査車両と覆面パトカーの言葉の定義”を巡って、一部ネット上で「アンテナが付いてるだけで覆面とは断定できない」とか「捜査車両=覆面パトカーじゃない」などの論戦とマウント取りが起きる場合もあり、できれば関わりあいたくないものだ。
また内偵捜査などの場合はレンタカーやリース車両が投入される場合が多い。その際はサイレンアンプや赤色灯などを積まず、デジタル無線機(およびアンテナ)のみである。
さらに大事件などの発生時、車両が足りないとなれば、署員の私有車が使用されることもある。もちろん、公費で警察官の自家用車を覆面に改造している一部のアメリカの警察組織と違って、日本では警察官の私有車に警察用緊急車両の指定はできない。
ただ、そのような場合や緊急走行ができない捜査車両であっても、必要とあらば、パトカーや白バイの先導を受ければ、緊急車両に準じた車両として扱われる道路交通法の規定を利用するので、とくに困らないのだろう。
95年3月20日に東京の営団地下鉄日比谷線構内で起きた地下鉄サリン事件では6000人以上がサリンの被害を受けたが、被害者搬送のための救急車が足りず、警察車両も使用された。さらに、民間の平型荷台トラックの荷台に多数の負傷者を乗せ、サイレンを鳴らした白バイの先導で病院まで緊急搬送するなど異例の対応も取られた。
このような現場の機転と柔軟な判断が無ければ、サリンによる死者はさらに増えていたかもしれない。
しかし、先導付きとはいえ、赤灯もサイレンもない署員の私有のヤンチャ臭いセルシオがハイビームにして赤信号の交差点をかっとんでいくのはちょっとスゴイ光景だ。
緊急走行のまとめ
このようにパトカーは警察業務に必要とあらば、さまざまな理由で緊急走行をしており、決して事件事故のための緊急走行だけではないことを知っておきたい。