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地域警察官と交番の役割
昼夜の区別なく初動捜査の即応体制を維持するための交番は地域警察活動の要(かなめ)である。
交番勤務員は基本的に交代制でハコヅメしており、24時間、近隣住民との協力を第一に勤務している。
警察庁の公式データによれば、平成27年4月1日現在で、全国に交番は6,250カ所、警察官の住居を兼ねる駐在所は6,474カ所設置されている。
交番勤務員の主な業務のひとつに『巡回連絡』がある。担当する地域の家庭や事業所などに訪問し、地域住民の安全で平穏な生活を確保するために住民の生活、職業など身の上の把握調査、住民からの相談や要望の聴取を行う業務だ。
その際、住民に対して作成を依頼するのが『巡回連絡カード』である。
巡回連絡カードは『世帯別案内簿』とも呼ばれるが、交番の地域警察官が各管内の世帯一軒ごとに出向いて相談や困りごとがないかを尋ねる『巡回連絡』を行う際、住民に記入をお願いするものである。本籍、勤め先、通学先、電話番号など、世帯の全員の個人情報を記載する。作成目的は事件事故、火災、災害時の安否確認のためだが、近年ではプライバシーが丸裸にされることや、巡回カードを悪用して女児を誘拐しようとした警察官がいたことから、記入に抵抗があるとして拒否をする人も多いことが表面化してきている。ただ、巡回連絡カードへの記入は任意であり、拒否すること自体に罰則はない。巡回連絡カードは通常交番で管理され、緊急時の安否確認時に個人情報が警察内部で照会されるが、部外者に見せることはしていないという。
また、交番勤務員はミニ広報紙の作成と配布も業務となっており、これらの活動を通して地域警察官は住民との良好な信頼関係の醸成に努めている。
もともと『派出所』が正式名称で、交番は俗称だった。しかし交番の方が親しみ易くなじみ易いという理由から、平成6年の警察法改正で『交番』が正式名称となった。ただし、『派出所』はなくなったのではなく、警備派出所という形で現在も制度が存続する。
空港、公的な企業、大規模なスポーツ施設、あるいは外国の大使館や公邸のほか、政治家や重要企業社長など要人の私邸や公邸の門に警備のため設置される。警察官が主に立哨を行うための簡易なポリスボックスから、本格的な交番まで幅ひろく、現在では東京ドーム、日本銀行、東京証券取引所などに警備派出所が置かれている。2011年3月以降、東京電力本社と社長・会長の私邸前に設置されていた警察官詰所も臨時の『警備派出所』である。邸宅などの場合は上級国民の場合が大半だが、企業や富豪が金員を支払って警察に常駐してもらうという戦前の『請願巡査』ではない。
警部交番、警視派出所、幹部交番、幹部派出所とは?
交番と一言で言っても、その規模、人員配置のありさまは地域によって全く違う。
交番には階級が警部や警視たる幹部警察官が交番所長に就く「警部/警視交番(派出所)」や「幹部交番」といった規模の大きい特別な交番もある。警視庁では地区交番と呼称する。
警察署を統合したことで地域に警察力の空白地帯が生じぬように、大規模な交番を設置して逆に治安維持能力を高める運用だ。
とくに新宿歌舞伎町に設置されている警視庁新宿署歌舞伎町交番は国内でも最大規模となる地上4階、地下1階の大型交番であり、警視庁警察官が最前線の勤務地として憧れを抱く場所でもある。また同じく新宿警察署の大久保交番も同様に大きな交番である。
一方、『駐在所』も交番と役割は同じだが、駐在所に警察官が家族と一緒に居住する点が交番と異なる。
なお、全国の警察では15000もの交番と駐在所があり、それぞれの勤務員である地域警察官が地域の治安維持に貢献している。
『交番相談員』制度とは
交番相談員制度は空き交番が問題になった80年代から導入された制度である。大多数が『経験および知識を有する退職警察官』が雇用されており、身分は各警察本部嘱託職員で公務員だが、司法警察権はない。
平成27年時点で、全国で約6,400人の交番相談員が警察官とともに交番に配置されている。警視庁では約1,200人の警視庁警察官OBが「交番相談員」として交番で勤務する。
業務内容は警察本部によって異なるが、地理案内、拾得物・遺失届の受理といった簡便な業務、市民応接、相談、そして警察官へのそれらの取次ぎである。京都府警ではいたわりテレホン活動と呼ばれる高齢者世帯への安否確認や防犯のための電話等も行う。
制服は警察本部によって異なり、警視庁では地域警察官の活動服に似た制服を着用し、受令機を使って基幹系無線を聴取、また左腰に特殊警棒を吊るなど、地域警察官の活動を積極的に補佐する例もあるが、その他の県警ではスラックスとシャツの上から市民パトロールボランティア風のベストあるいはジャンパー然とした被服を着用する場合もある。福島県警察では2007年から警察官用の活動服を『リサイクル』して交番相談員用制服として再利用している。神奈川県警察では私服の上から地域警察官用の耐刃防護衣を着用する。これらの被服には各警察本部名および交番相談員の表記およびマークが入る。
警視庁以外では交番相談員が特殊警棒を携行する例は少ない。
この交番相談員制度によって、平成16年当初は1,925 か所あった空き交番がすべて解消されたという。
モダンでオシャレな交番が多い
交番はいわば役所の支所だが、地味な外見の交番の一方で、オシャレで都会的な交番も多数。
こちらは恵比寿駅前交番。3階建て。
こちらは渋谷警察署の広尾五丁目交番。
一方で、こんな古風な交番も。角館交番。
交番の警察官に求められる特技
交番の地域警察官は地理の案内なども業務として扱う。耳の不自由な聴覚障がい者に対して道案内をする場合、もっぱら筆談だが、警視庁などの大規模な都市部の交番勤務員には、手話の特技を持つ警察官が配置されることも多い。このような交番には「手話交番」の案内表示が出ている。
交番で貸してくれる「公衆接遇弁償費」って?
財布を落としたりなどして交通費がなくなってしまった場合、交番や警察署へ行くとお金を貸してくれることは意外と知られている。これは警察官が個人的にお情けで貸してくれるポケットマネーではなく、レッキとした公費であり、公衆接遇弁償費と呼ばれるものだ。
公衆接遇弁償費は交通費として上限1000円まで借りることができるが、当然返済が必要だ。しかし、2009年度の返済率は64パーセントと低い。しかも、この制度を悪用し警察からお金をだまし取ったとして、寸借詐欺で逮捕される事例もある。
交番の自転車はもっともよく見かける警察車両……!?
ある下町の交番の警察官。警視庁では馴染みのある光景だが、チャリが一台も配備されないサムい北海道警察なども…。
とくに警視庁管内、つまり東京都内では交番の地域警察官と言えば、巡回用の白い自転車に乗った姿が一般的だろう。これらの自転車は一般に「実用車」と呼ばれている。
それに加えて近年、いわゆる「ママさん」タイプの自転車も警視庁などで配備されている。色は相変わらず白塗装で、後部には弁当箱と俗に呼ばれる書類ケースを載せる。
埼玉県警察では、クロスバイクという自転車に乗った警察官の部隊「ハイパー・サイクル・ポリス(H・C・P)」が編成され、このような部隊は全国の警察でも埼玉県警が初だ。2014年には一台3万円する高機能自転車を採用し、HCPがさらに拡充された。
一方で、巡回のための交番勤務員用自転車が一台も配備されておらず、もっぱら徒歩か、ミニパトをゲタ代わりに使う北海道警察や、ミニバイクを地域課員がゲタにする警察本部もある。
ところで「自転車に乗った警察官」を「チャリマツ」と呼ぶその理由だが、チャリ+(サツ)マッポがその理由だ。
外国にも交番がある?
この交番制度、日本が発祥だが、昨今では外国警察でも採用され、KOBANとして世界共通語になっている。ブラジルで最大の人口を擁するサンパウロ州でも交番制度が日本警察の協力により導入されており、効果絶大で治安が回復したそうでだ。