交通取締用覆面パトカーの特徴と装備品

「交通取締用四輪車」とは、各都道府県警察本部交通部の執行隊である交通機動隊や高速道路交通警察隊、それに所轄署の交通課がもっぱら交通取締用に使用するパトカーの総称だ。

そして「交通取締用四輪車(反転警光灯」が、警察庁が入札説明書および仕様書で公表している交通取締り用覆面パトカーの正式名称となる。

なお、捜査用覆面パトカー「私服用セダン型無線車」が同じく警察庁が入札説明書および仕様書で公表している正式名称である。

”無線警ら車”と呼ばれる地域部の白黒パトカー同様「交通取締用四輪車(反転警光灯)にも都道府県警ごとに県費購入車両があり、特色ある車種が配備されている。

やはり、その特徴は軽自動車からコンパクトカー、ミニバンまで採用されている捜査用覆面パトカーと違い、交通取り締まり用覆面パトカーでは速度違反車両に対抗する目的から、警察庁が「交通取締用四輪車」の入札条件を2.5L以上の高排気量車両と定めているところだ。そして車種は4ドア型セダンが基本となる。

クラウンの交通覆面

しかし、世の中ではクルマの流行りがセダンからミニバン、ハッチバックになり、セダンはとうに廃っている。ただ、セダンタイプの覆面パトカーでの取り締まりを今なお続ける警察でも、一部ではステーションワゴンの覆面パトカーも導入しており、セダンの配備が今後も続くのか、興味深い。アメリカのメーカーの場合だが、2018年にフォードがSUVなどに集中したため、セダンの販売をやめてしまった

それでは交通取締り用覆面パトカーの代表的な車種、搭載装備、取り締り方法を順を追って解説していきたい。

最新型210系アスリートの交通取り締まり用パトカー登場!警視庁では800万円超えのマークXプラスMスーパーチャージャーも配備。高級車路線はなお継続。

2017年ごろ、交通覆面の車種は多くの都道府県警察で200系クラウンが優勢だったが、白黒交通用パトカーにも3.5Lエンジンを搭載した210系アスリート・ベースが採用されたことから、ついに交通取り締まり用覆面にも同ベースが採用された。

また一方、トヨタ・マークXが全国で増えている中、警視庁が都費購入した『ご当地パトカー』とも言えるマークX +M SUPER CHARGERは360馬力を誇る高性能怪物覆面パトカーだ。納入価格は1台あたり838万円。秘匿性とその車両価格は捜査覆面のキザシのように伝説に名を残すか。

長らく第一線で活躍してきた交通用覆面のトヨタ・180クラウン。写真の個体は外部アンテナレスだが、 グレードエンブレムを装着しない覆面クラウンの王道を歩む。

一方、高知県警交通部交通指導課に所属するスバルWRX S4も話題だ。WRX S4は主に暴走族対策車として運用されており、県内での初日の出暴走の取り締まりなどでは『WRX S4族対車』と暴走族の緊迫のカーチェイスが目撃されているという。

警視庁のガチャピンハイエースは『覆面パトカー』か?

一方、警視庁交通総務課では交通安全をイメージしたグリーンの特別色をした『安全教育兼交通広報車』を交通取り締まり用覆面パトカーとして運用し、もっぱら携帯使用やシーベル未着などを対象とした交通取締りに従事させている例もある。

この安全教育兼交通広報車はトヨタ・ハイエース・スーパーロングに特装を施した車両で、本来は交通安全イベントなどで交通安全教育を行うための資機材を搭載した警察車両だ。

そのため、正式な交通取締用覆面パトカーではないが、警視庁では緊急車両として、交通部による交通取り締まり運用をはじめから想定していたのか、グリル内に前面秘匿式赤色灯を備えるほか、着脱式の赤色灯を車両の前後に常時露出させて装着しており、交通覆面としては珍しく反転式赤色灯ではない。

なお、車内には簡易机もあるほか、窓はカーテンで目張りされ、違反者のプライバシー確保もばっちりだ。

一般道の指導取り締まりを専門とする執行隊『交通機動隊』と『高速道路交通警察隊』

交通機動隊、通称”交機(コーキ)”は全国の警察本部に編成されている交通取り締まり専従の執行隊。取り締まりを行う狩り場は高速道路以外の一般道のみで、高速道路交通警察隊とはテリトリーで競合せず、棲み分けができている。ただ、交機のパトカーも移動のために高速道路を使うことがある。ただ、近年では北海道札幌市近郊の高速道路において、交通機動隊が高速隊と並行して取締りを行っている例も見られる。

隊員は両足のサイドに白ラインの入ったライダースジャケット型のスカイブルーの制服を着用し、ヘルメットを着用。一方、ショカツの交通課の警察官は、いわゆる通常の警察官の制服に白のベルトを着用するが、交通機動隊でもパトカーに乗車する隊員は通常の制服で取り締まりを行う場合もある。2015年3月18日にTBSで放映された『水トク! 激撮! 密着警察24時!』によれば、北海道警察本部交通機動隊では夜間取り締まり時、覆面パトカーの乗務員は白いヘルメットの上に黒いカバーをかけて覆い、目立たなくさせる工夫も見られた。

警視庁交通機動隊ではパトカーを使わず、隊員が本線の脇にレーダー測定器を設置し、車両の速度を測定し取り締まりを行う場合もある。この方式はもっぱら所轄警察署が多く行っており、交機が行うのは珍しい。

余談……交通警察官は強盗などの刑事事件に対応するか?

交通取締りは当然、交通部のもっぱらの通常業務だが、それだけに従事しているわけではない。ときに刑事事件のシーンにおいては、地域警察や刑事警察同様、交通警察も警察官としての法執行を行う。目の前でコンビニ強盗が発生して犯人が逃走しているのに、交通警察官だから「ウチら管轄違うもん」と言って無線で報告するだけということは、まずありえない。ときには、青いツナギの人たちが800万円以上するというマークX+モデリスタ覆面で追っかけて警棒でフルボッコリして逮捕しちゃう可能性だって捨てきれない。

一方、高速道路の取締りに従事するのは『高速道路交通警察隊(高速隊)』だ。高速隊員の制服も交機隊員と同じく、鮮烈なブルーカラーの制服を着用し、白いベルト、白いヘルメット、白の乗車手袋を身に着け、白黒パトカーおよび覆面パトカーや白バイを駆り、高速道路をパトロールする。隊員は通常、ヘルメットを被ってパトカーに乗務するが、宮城県警察などでは覆面パトカーの場合、秘匿性を高めるため、アポロキャップを被ることもある。

高速隊の分駐所は各高速道路のインターチェンジにある道路事業者の事務所に併設する形で設置されている。とくに首都高速道路湾岸線は普段から暴走車両が多く、厳しい取り締まりが行われているが、都内に住む上昇志向のある財力の裕福な層は高級外車やスポーツカーなどをチューンナップ・メカドックしてよろしくやっており、ときに時速230キロを超える違反など、常軌を逸した交通事件が起きる。とはいえ、高速隊の高性能パトカー”高速II型”でも、リミッターはかかっており、二次被害防止の観点からも時速180キロ以上で逃げる車を追尾することはマレ。ドラレコやオービスなどを利用して採証し、ナンバーと運転者を特定し、後日の捜査で摘発されるのが流れだ。

高速隊では高速II型(こうそくにがた)と呼ばれる高性能パトカーを配備しており、これらの車両を用いて機動的に交通取り締まりを行う。警視庁高速隊ではマークXモデリスタの覆面が配備中だ。高速隊の狩り場は高速道路のみで、比較的高排気量の高級スポーツカーをふんだんに配備する。古くは、マツダのRX-7やホンダのNSX、日産のフェアレディZ、スカイラインGTR、三菱のGTOなどなど、かなりの高級スポーツカーがごろごろ。高速隊の車両はその過酷な任務からエンジン、シャシー、ボディがすぐにユルユル、ガバガバになるため、耐用年数が警らパトカーに比べて短い。そうなると第一線を退いたこれら高速隊の高級スポーツカーは、第二の人生としてイベント会場などでの客寄せパンダに転身し、子供と警察マニア相手のアイドルになることも多い。

主な交通取締り用覆面パトカーの装備や特徴

「交通取締用四輪車(反転警光灯)」に乗務して取締りにあたる交機や高速隊員、所轄署の交通課員といった乗員は制服を着用している点が交通覆面の特徴だ。では交通用覆面パトカーにはどのような装備が積まれるのか見ていきたい。

「交通取締用四輪車(反転警光灯)」の名称通り、際立った特徴は自動でルーフ上にせり上がる「反転式警光灯」の装備

「交通取締用四輪車(反転警光灯)」はその名の通り、反転式赤色警光灯を搭載している。乗員がコンソールのプッシュスイッチを一押しすれば、ルーフ中央のフタが開き、内蔵されている赤色灯が車外に露出する。

四国スバル株式会社高知東店のスタッフブログ内における【今日のパトカー】では、スバル・レガシィB4 2.5GT交通覆面の反転式を『交通取り締まり用の覆面パトカーならではの、ボタン一つでちょこんと出てくる反転式赤色灯がとってもキュートですね!』と表現するなど、かわいらしさを表現する向きもある。

かなり以前は「反転式」の名の通り、上下逆の状態で収まっていたが、現在は逆さまではなく、横転状態で収まる。パトライト社だけでなく、トヨタ自動車でも製造している。雨天時は雨水がたまるので、排水のためのホースも車内に装備している。

ただ、きわめてイレギュラーな方法だが、暴走族対策車などでも着脱式赤色灯で取り締まりを行う場合がある。

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また、警察24時系番組では過去、静岡県警が高速道路上で助手席の隊員が窓から手を出し、着脱式の赤色灯を載せ、取り締まりをしている場面が放送されていた。

前面赤色警光灯

ルーフ中央の反転式警光灯のほか、グリル内またはオートカバー秘匿式で前面赤色警光灯を搭載するのも交通覆面の特徴だ。オートカバーはすでに旧世代となり、現在はグリル内秘匿式が主流となっている。

以前の覆面パトカーで採用されていたオートカバーは筆箱のような長方形をしており、ナンバープレートの左右に一個ずつ装着される。元は民生用のフォグランプ用だったが、警察では覆面パトカー用として赤色レンズに換装し配備した。レンズ自体が赤いので点灯させない状態でも赤灯と確認できるが、もちろんカバーは普段閉じられている。カバーの塗色はボディの色と合わせられ、通常はバンパーの下部に『純正のオートカバー』の風体を装い搭載されるが、イレギュラーな個体では色がボディと合っておらず、目立つ。緊急走行時にはカバーが開放され、隠された赤色のランプが点滅する。とくにかつてのセドリック交通覆面で見られた装備だ。

一方、フロントグリル内部に設置される前面赤色警光灯はグリルの内側に左右2個の警光灯を秘匿したタイプで 「偽装」というよりは、やはり「秘匿型」と言える。長らく丸形ハロゲンタイプの赤バルブで、レンズ自体を無色透明にしていたため、目立ちにくかった。 近年ではLED化され長方形パネルになっている。

オートカバー偽装タイプに比べると、カバーの開閉は必要がなく、システムを単純化でき、秘匿性も高いが、光の加減や車の傾きにより、LEDパネルが光で反射し比較的目立っている。

前面赤色警光灯の知られざる使い方については別の記事にて解説した。

交通覆面で最も重要な装備『前面赤色警光灯』に見る追尾式速度違反取り締まり

上下2段式ミラー

210系アスリート・ベースなど最新の交通覆面でも上下2段式ミラーは健在だ。後方からはやはり目立つため、上段のミラーのみを取り外すなどの運用も見られる。その場合、なんだか間延びして情けないミラーの印象になり、どちらにしろ見る者の印象に深く残る。

覆面パトカー仕様

また、セドリックの交通覆面全盛期には助手席側Aピラーへのナビミラー装着がよく見られた。ナビミラーは一般車両で装着しないため非常に目立ち、正体発覚の一助となっていた。

ナビミラー。セドリック交通覆面の退役と共に去っていった。

ナビミラーは現在新規で配備される交通覆面では廃止されたが、警護車は標準装備。

車内後部に電光掲示板(パトサイン)

車内後部リアトレイに設置された電光掲示板(パトサイン)は、違反車両を誘導するための様々なメッセージが表示される装置だ。

通常、パトサインの電光表示板は倒された状態で収まっており、検挙後に起立させて後続の違反車両へ「パトカーに続け」「左により止まれ」などの指示を表示する。指示以外にも「スリップ注意!」や「積荷確認」などの注意喚起のメッセージも表示可能。助手席の乗員が操作パネルから操作を行う。

また車内後部リアトレイには警光灯が設置される交通覆面もある。

アンテナ(車外もしくは車内設置)

覆面パトカーの見分けの一助でもあるアンテナだが、セドリックや180系クラウンではトランクにTLアンテナ、レガシィや210系アスリート・ベース以後はルーフにユーロアンテナが主流となっている。最新配備の210系アスリート・ベースでもこれを後部に取り付けているが、香川、高知県警など四国地方の警察本部では以前から外部アンテナレスが主流で、車内設置による秘匿アンテナ化された例もある。覆面のアンテナについてはアンテナのページにて詳しく解説している。

覆面パトカーのアンテナを種類ごとに解説!偽装アンテナから車内アンテナの増加へ

ストップメーター

交通用覆面パトカーによる追尾式速度取り締まりで使用される装備品。交通用パトカー以外にも、所轄署地域課や本部自動車警ら隊の無線警ら車にも搭載されている。

捜査用覆面パトカーの役割と運用