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ツタヤを運営するカルチュア・コンビニエンス・クラブ株式会社が顧客のビデオ貸出し履歴などを捜査機関の求めに応じて、令状なしで提供していたことが先ごろ話題になった。
当局側はその際、カルチュア・コンビニエンス・クラブ株式会社に対して捜査令状ではなく、捜査関係事項照会書に基づいて任意の捜査協力を求めていた。
いわゆる捜査令状と捜査関係事項照会書との相違を考察したい。
捜査関係事項照会書と令状
警察密着番組や刑事ドラマで、捜査当局に踏み込まれた犯罪者のお決まりの台詞といえば「令状はあるんだろうな!?」だろう。
この令状とは、すなわち裁判所が発布する各種令状のことで、一般的には捜索差し押さえ令状、逮捕状などのことだ。
令状を裁判所に請求できるのは検察官、検察事務官又は司法警察員のみ。警察の場合は離島などの一部例外を除き、巡査部長以上が司法警察員だ。
刑事訴訟法第218条によれば、検察官、検察事務官又は司法警察職員は、犯罪の捜査をするについて必要があるときは、裁判官の発する令状により、差押え、記録命令付差押え、捜索又は検証をすることができるとしている。
すなわち令状とは捜査機関が捜査を行うお墨付きを裁判所が公に与え、それを証明した公的書類と云うわけだ。
捜査関係事項照会書
一方、捜査令状が捜査機関とは別機関の裁判所の審査と許可を得て発効されるのに対して、捜査関係事項照会書は裁判所の認可を得ずとも、捜査機関自らが必要と思慮すれば、自前で発出できるので使い勝手がよいのだ。
ただし、裁判所の令状には強制権があるのに対し、捜査関係事項照会書はあくまで任意のため、捜査関係事項照会書を受けた企業側は拒否することもできる。
しかし「捜査関係事項照会」もまた刑事訴訟法第197条の「法令に基づく照会」として認められたものであり、警察が捜査関係事項照会書に基づいて個人情報を収集することは一般的には適法の範囲内であるという。
カルチュア・コンビニエンス・クラブ株式会社がTカードの個人情報を捜査令状なく捜査機関に提供していた
そして2019年1月21日に発覚したのが、ツタヤを運営しているカルチュア・コンビニエンス・クラブ株式会社による、顧客の同意を得ず、また裁判所の令状もないままに、同社のTカードに紐づけられた個人情報(顧客のレンタルビデオ貸出し履歴など)を捜査機関に提供していた事案だ。
捜査機関に提供された顧客情報は、ざっと挙げれば氏名、電話番号、ポイント履歴および店舗利用履歴。そして最も個人のプライバシーが尊重され、センシティブな情報と言えそうなのが、貸し出された作品のタイトルだ。
ただ、同社では2012年以前は捜査令状があった場合のみに提供していたとしている。それが捜査令状ではなく「捜査関係事項照会書」を当局が提示した場合にも提供し始めたのは2012年以降。
捜査関係事項照会書を拒否できない理由の有無は企業にもよるだろうが、今回の騒動で最も問題になったことは捜査令状ではなく、強制力のない捜査関係事項照会書によって、カルチュア・コンビニエンス・クラブ株式会社側が捜査機関に顧客情報を提供したことと言えるだろう。
カルチュア・コンビニエンス・クラブ株式会社自体がAV製作会社をひっそりと傘下で持つ事実や、そのような企業が公立図書館の委託運営を行うことなどにも批判や不安の声が寄せられている。
(略)をひっそりと傘下で持ち、グループ全体の収益性を維持しつつ、表向きはオサレな図書館や自治体改革を打ち出してブランドイメージを構築するという素敵な仕組みが控えていることになります。
引用元 https://news.yahoo.co.jp/byline/yamamotoichiro/20151119-00051607/
しかし、それは本稿と直接関係ないため、省きたい。
「捜査対象者の趣向を調べるために使われていた」と警察が認める
目をつけた捜査対象者のビデオレンタル履歴を入手することができれば、特定の趣向の把握ができ、どんなに捜査に役立つことだろうか。ズバリ捜査当局はそう考えたのだ。
捜査当局がツタヤのTカードに紐づけられた個人情報のうち、もっとも重要視していたと言われているのが、顧客のレンタルビデオ貸出し履歴なのである。「ツタヤで借りたビデオ」は参考情報の名のもとに、警察にしっかりと把握されていたのだ。
これを「警察が認めている」と裏付けているのはPRESIDENT誌の記事。
「捜査対象者の性癖を調べるために使われていた」
現に警察と検察の幹部が認めているが、ツタヤで借りたDVDなどのレンタル商品の内容から
捜査対象者の性的趣向を調べるための参考情報として使われているという。引用元 「ツタヤで借りたAV」は警察にモロバレ PRESIDENT https://president.jp/articles/-/28381?page=2
また、レンタルされた作品名やジャンルが知られるだけでなく、防犯ビデオの動画画像までもが捜査当局に提供されたと云うのだから『つい出来心で……』子ども立ち入り禁止コーナーにひょっこり入った時点で終了。無数に並ぶ映像作品を選んでいる無防備な姿もバッチリ当局側にはお見通しというわけだ。
選んだ作品の「ジャンル」によっては、各警察本部生活安全部において随時、人物を『女性に対する犯罪』別にリストアップできる利点があるのかもしれない。
また、一般作のレンタルでも、蟹工船など左翼思想が強い作品を好むなどした場合は、警備警察(公安)が個人の思想をある程度まで補足できるため、警察にとってはTSUTAYAの顧客情報は、のどから手が出るほど欲しいのかもしれない。
ところが、迷惑なのは捜査対象者ではない一般の顧客である。そもそも捜査対象者にならない限り、ツタヤがレンタル履歴を裁判所の令状に拠らない「捜査関係事項照会書」一枚で捜査当局に無断提供などしないはず。
ところがそれは甘い。2019年9月には検察事務官による「捜査関係事項照会書」の悪用例が発覚。報道によれば、知人が金を貸した相手の住所などを知るために同事務官が「捜査関係事項照会書」を作成し、市役所に送付し、不正に個人情報を騙し取ったとして逮捕されている。悪用される懸念は常につきまとう。
今回、カルチュア・コンビニエンス・クラブ株式会社側は強制力のある裁判所の令状に拠らないまま、捜査当局自らが発出した「捜査関係事項照会書」一枚で積極的に捜査当局へ個人情報を提供し、しかもそれを顧客側に事前に明記して周知するなどの努力義務を怠っている。
もし自分の借りた作品の履歴が捜査機関に知られたくないなら、絶対にツタヤを利用しないのが一般論だろう。ただし、同様の行為をしているのはツタヤだけなのか、同業他社は行っていないのか、今一度考えてみる必要がありそうだ。