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街頭警らを担う外勤の警察官は、日本の敗戦によってGHQに米国警察化を強要されるまで、腰にサーベルを下げていた。やがてそのサーベルは60センチ弱の木製警棒へと代わり、半世紀にもわたって『民主警察』を象徴し続けた。
そしてついには1994年の制服および装備品改正にて、制服警察官の腰に吊られた木製警棒は金属製の伸縮式特殊警棒へと変貌を遂げ、2022年の現在にいたるまで配備が続く。
警察官に貸与される特殊警棒や警戒杖は『特殊警戒用具』と部内で呼ばれるが、特殊警棒はある理由から過去2回のモデルチェンジが行われている。その理由とは何かを探ろう。
初代は3段伸縮式の53型警棒(約53cm)
94年の装備品変更で制服警察官に貸与が始まったのは、短く小型軽量で3段伸縮式の『53型(約53cm)』と呼ばれる初代モデルであった。
53型には刃物による受傷事故を防ぐため、新たに展開式の鍔が取り付けられた。普段は1文字に収まるが、十字へ展開できる。
なおラジオライフによれば、金属製の伸縮式警棒としては最も古い41型警棒は、いまだ一部の私服勤務者や交通部門で現役だそうだ。
41型警棒が最も古いタイプになりますが、私服警察官や交通機動隊ではまだ現役です。ただし1発殴っただけで曲がってしまいます。
典拠元 ラジオライフ https://www.excite.co.jp/news/article/Radiolife_21633/
3段式53型から2段式65型へ変更されたその理由は?
そして2006年、特殊警棒は新たなサイズ、仕様へとフルモデルチェンジが行われた。
新制服と共にお目見えした制服用警棒であったが、当初配備の53型は現場警察官が求める仕様には合致していなかったのだ。強度不足による折れ曲がりの多発、何よりそれまでの木製警棒が全長60cm弱であったのに対し、53型は全長53cmと短く、間合いが取りにくいという声が第一線の警察官から多数挙がっていたのだ。
もっとも、強度不足については過剰な攻撃を加えられないように敢えて数回の打撃で使用不能にさせ、米国の”ロドニー・キング事件”を誘発させない設計思想だったのかもしれない。
しかし、腰道具が単なるお飾りでは困るのが、現場で凶悪犯と真っ先に対峙する地域警察官や機動捜査隊だ。
おりしも2006年には秋葉原にて殺傷事件が発生したが、同年、47都道府県警で旧53型から65型警棒に更新が進んでいった。その更新の理由はそれまでの旧・53型警棒の強度もさることながら、公務執行妨害の多発による警察官の受傷事故の続発であった。
2003年にはナイフで刺されるなどして1か月以上の重傷を負った全国の警察官は約60人、2004年では70人以上に達し、警視庁では独自に同庁警察官の武装強化を推進。
その結果「65型警棒」採用の運びとなり、全国の警察本部もそれに習って更新されていったのだ。
つまり、現行の警棒が旧型より太くなった理由は警察官の受傷事故防止のためであったのだ。
なお、現在配備されている65型警棒のグリップエンドには『ガラスクラッシャー機能』を搭載している。
女性警察官用の軽量型特殊警棒
その一方、3段式から2段式となったことでバランスが悪くなったという意見のほか、とくに女性警察官からは53型に比べて重量が増し、扱いにくくなったという意見が出たため、女性警察官向けとして、軽量型特殊警棒も新たに調達される運びとなった。
静岡新聞 こち女ニュースの報道によれば、静岡県警などの一部県警本部では女性警察官用に軽量型特殊警棒が配備されている。
同県警で配備されている通常型特殊警棒は580グラムだが、2017年から配備された女性警察官向けのタイプでは100グラム軽い。しかも強度は通常型と変わらない。
警察官の職責の重さに男女の別はないが、警棒の重さが平等では職務に支障が出るようだ。
私服刑事用の特殊警棒
地域や交通などの制服警察官であれば、腰に着装した警棒などの装備品を秘匿する必要はない。しかし、私服警察官(私服勤務者という)ではそうもいかない。刑事の場合も犯人逮捕を行う場合には特殊警棒が必要だ。
私服用には旧53型警棒のほか、より全長が短く秘匿性に優れた、鍔(ツバ)なしの41型警棒などが配備されている。以前は鍔(ツバ)なしだったが、後付けタイプもある。
参考文献 http://www.japan-sit.com/Keibou.htm
ただ、制服で恒常勤務に就いている地域課や交通課などの制服警察官では、正規に貸与されている装備品しか普段着装できない一方、私服勤務員については貸与された官給品の破損や紛失を防ぐという理由で私物品を使えるなど、以前から比較的寛容だ。
代表的な私物に日本のモデルガン関連会社が私服警察官用に製造しているホルスター、薄型手錠ケースなどがある。
特殊警棒も貸与された官給品以外の市販品を所属長の許可を得た上で私物として使う刑事が多い。
上に挙げたN社や後述のメーカー製品を『一般人には販売できません』と謳う護身用品ショップから警察官限定価格で購入する場合もある。
参考として、現職警察官にしか販売を行わないと謳う「警察グッズ販売店まめたん」によれば『私服警官用小型警棒/PZ107』として、(株)エスエスボディーガードが展開するブランド『ホワイトウルフ』製スチール製特殊警棒(展張時最大40センチ・フリクション方式)を警察官のみに販売している。
(株)エスエスボディーガードでは、警棒のほか、警察手帳用カバー、私服刑事用の手錠ケースなど、実際に警察へ納入実績がある。
特殊警棒のロック方式
特殊警棒のロック方式にはいくつかあるが、もっとも一般的でシンプルな方式が振り出し式のフリクション・ロック方式だ。
振り出した勢いでシャフトの接合部を摩擦(Friction)させて固定する確実かつシンプルな方式だが、戻す場合に地面など硬い面に先端を強く打ちつける必要がある。
一方、オートロック方式やメカニカル方式、ストップピン式と呼ばれるタイプは、振り出しによる伸張が不要。
手で力をこめずにシャフトを引き出すとストップピンやカムロック機構などで固定される。
戻す際はピンを押し込む、またはグリップエンドを引くなどで解除され、固い面への打ちつけ収納は不要だ。
最近のテレビドラマでも人気シリーズの『警視庁機動捜査隊216』や『CRISIS 公安機動捜査隊特捜班』などで特殊警棒を携行する私服勤務者を描く場合が多い。
テレビドラマ『CRISIS 公安機動捜査隊特捜班』の小道具として護身用品の専門ショップ『ボディーガード』がタイアップで提供した特殊警棒『KSP-2』はオートソフトロック方式により、手でシャフトを伸張させると接合部が内部の窪みにはまることで固定される。こちらも打ちつけ収納は不要で、手で軽く押し込むだけで収納できる優れた機構だ。
役者が勢いよく特殊警棒を振り出すとシャフトが展張されるが、その際の金属音も威圧感があり、効果的な演出だが、実際の現場で警棒を使用する前の段階、すなわち実力行使を伴わない段階で、そのアクションの視覚および金属音の両方によって被疑者を畏怖させる効果は実際にある。それが市民に対して必要以上に威圧的だとして、アメリカでは伸縮式警棒の使用を推奨しない法執行機関もあるほどだ。
警備員の使う警戒棒
民間人である警備員は『警戒棒』または『警戒杖』を携行しての業務となるが、警備員が携帯する護身用具については警備業法および各公安委員会で細則が定められ、多くの制限がある。
現在の細則では警戒棒については30センチ以上90センチ以下、警戒杖については90センチ以上130センチ以下となっている。また、材質に制限はないが、重量制限は設けられている。
なお、警備員であっても、警戒棒の使用自体に無制限で免責があるわけではなく、正当防衛以外の使用(例えば警察官の行う制圧行為に類似した行為)は行えない。ほかにも、部隊を編成し、集団の力を用いて警備業務を実施する場合などにあっては警戒棒を使用してはならないなど、その使用には警備業法で細かな制限が設けられている。
警察官のように”無制限”で使えないのが、警備員の特殊警棒(警戒棒)だ。
警備会社で採用される『ジストス』
東京都大田区の『三力工業』が製造販売するジストスは、麻薬取締官、自衛隊警務隊、水産庁、法務省刑務官、検察庁検察事務官、入国警備官などで採用されているほか、大手警備会社などでは機械警備業務(機動隊)や警備輸送で使用している。
同社は1994年に行われた警察官の制服変更に伴う腰道具の一新とほぼ時を同じくして、同社初となるアルミ伸縮式警棒を開発および生産。
翌年には特許を取得した新方式の伸縮式警棒を開発し、公的機関向けに販売している。1998年には手錠も開発するなど司法警察機関向けの装備品メーカーとして頭角をあらわし、さらに2000年には民間警備会社向けアルミ製警戒棒、それにさすまたなどの製造販売を開始。現在は新会社(株)サンリキとしてさまざまな製品を製造している。
同社は自己防衛について深く考えており、その一例として、同社の特殊警棒製品の一つ『ダイハードX』の製品ページにて、危険や脅威への具体的な対処について訴えている。