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現在、制服の地域警察官は普段から「防弾チョッキ」を着装してはいない。では普段着装しているあの紺色のベストは何かといえば、制式名称「耐刃防護衣」という名の”防刃チョッキ”である。
交番勤務の警察官が襲撃される事件が相次ぐなかで、刃物から身を守る耐刃防護衣という装備品を今一度考察したい。
初期のインナータイプから外側着装タイプに全面刷新された対刃防護衣
これまで警視庁の地域警察官では制服の下に着装する白色の対刃防護衣(四国新聞社では『下着のように見えた』と表現)を導入していたが、同庁では2005年7月から制服の上から着装できる新たなタイプに全面刷新された。
色も白色から濃紺となり、左胸および背面に警視庁の文字が入るほか、ベスト前面に収納ポーチを配する工夫も見られ、使い勝手が良く、これまでの蒸れやすく、着装率が低かったインナータイプに比べ、現場の地域警察官からは士気高揚につながると評判だ。なお、警視庁のタイプはベスト前面にジッパーを配し、着装しやすい同庁独自仕様。また、対刃防護衣の左胸位置には階級章兼識別章を着装する。
参照元 http://www.shikoku-np.co.jp/national/life_topic/20050627000346
基本形状は変わらずにこの外側着装タイプが47都道府県で現行配備されている。
警察官の受傷事故が相次ぐなかでの耐刃防護衣
交番所内において地域警察官が襲撃される事件が近年相次いでいる。2018年6月には富山、9月には仙台の各県警の交番で警察官が暴漢に加害され殉職。2019年6月には大阪府警管内の交番においても襲撃が発生し、巡査が重症を負った。
2018年9月19日、宮城県仙台市宮城野区東仙台の同県警仙台東署の東仙台交番の見張り室内で勤務中の男性巡査長が、現金拾得の申告を偽って交番を訪れた大学生の男に腹や胸を刃物で複数回刺され殉職した。大学生の男は別の巡査部長にその場で発砲を受けた。
事件当時、襲われた巡査長は対刃防護衣を着装していなかったことが県警の調べで判明。これを受け、警察庁では制服で勤務する地域警察官に対刃防護衣の常時着装を指示するとともに、明け方の拾得物の申告に訪れる市民は『不自然』であるとして、ツーマン・セル勤務にて警戒に努めるよう、全国の警察本部へ通達を出した。
耐刃防護衣で致命傷を防げない理由とは?
また2019年6月にも大阪府警吹田署管内の交番でも巡査長が襲われ重傷を負い、けん銃が強奪された。当初、昨年の東仙台交番の警察官が防護衣未着装だったことから、今回の府警巡査長も耐刃防護衣を着用していなかったのではとの憶測も一部で流れた。
県警タイプの対刃防護衣。前後パネル入り。 |
しかし、東仙台交番襲撃事件の直後に警察庁は全国の警察本部に対して耐刃防護衣の常時着装を指示していたことから、巡査長は耐刃防護衣を規定通りに着装していた。
それでは、なぜ耐刃防護衣を身につけていたのにも関わらず、刃物によるダメージを防げなかったのか。
ベスト型耐刃防護衣では防げない部位が必ず出る
耐刃防護衣が現行のベスト型である以上、どうしても防げない部分が出てしまう。
府警吹田交番襲撃事件で重傷を負った巡査長は、胸の刺し傷が肺を貫通して心臓に達していた。また、富山の事件で襲われた巡査長は刃物が左脇下から心臓に至り、致命傷になったとみられるが、この加害方法は東仙台交番襲撃事件と同様だ。
河北新報の報道によれば、東仙台交番の巡査長は当時、耐刃防護衣を着装していなかったが、全国の警察で標準配備されている『ベスト型耐刃防護衣』を着ていても、致命傷は防げなかったことが明らかになっている。
現在では制服の上から着装する、紺色の防刃機能と収納機能が付いたタイプが全国の警察本部で主に地域警察官向けとして配備されている。しかし、上記の河北新報の報道写真から見てもわかるが『ベスト型耐刃防護衣』は正面および背後からの突き刺しおよび切り付けには高い耐刃性能を有するが、脇下や脇腹付近は無防備の状態に近いことがわかる。
なお、対刃防護衣は刃物による切創への耐性を有した防護ベストだが、あくまで刃物の突き刺しなどから体を防護するもので、銃弾から身を守る防弾チョッキとしてはまったく機能しない。また、アイスピックのようなとくに尖ったものに対しても防護性は低い。
警察官が耐刃防護衣を着装しても致命傷を防げない理由のまとめ
現行配備の耐刃防護衣は防護性の観点から問題があり、増加しつつある地域警察官への襲撃による受傷事故防止のため、早急に新たな形状のものを開発する必要があるのではないだろうか。