事件が起きれば、パトカーが登場するのはアニメもドラマも同じだが、今回は白黒パトカーではなく、あえて覆面パトカーが登場したアニメをご紹介したい。
中でもマニアックだったのが藤島康介氏原作の「逮捕しちゃうぞ」という交通課の女性警察官を主役にしたアニメ。
交通課の女性警察官がなぜか交通事件以外にも首を突っ込んで、難解な事件を解決していくという一部で定評のある作品。ドラマ化もされており、知名度が高い。
筆者は原作しか知らないが、警察行政(技術)で採用された職員の警察官に対する激しい嫉妬心と悲哀がこの上なく描かれていた回はよく覚えている。『自分が懸命にパトカーを整備しても、それを使って違反者を摘発してチヤホヤされるのは警察官だけで、自分たち警察行政職員はまったく評価されない』などという自分勝手な嫉妬と欲望から自分で覆面パトカーを作って勝手な交通取締りを行う悲しい物語であった。警察官の試験落ちて偽覆面作って勝手に交通取り締まりやってた棒振り警備員みたいなものか。
アニメ版では3インチのニューナンブから覆面パトカー、さらには覆面の車内のカーメイトのお化粧直しミラーまで再現するというナカナカこった作品で、マニアからの受けが良いようだ。
お次はゆうきまさみ氏原案、ヘッドギア原作の「機動警察パトレイバー」。1990年7月18日放送の37話の中で高速道路交通警察隊の交通用覆面パトカーがさりげなく登場。リアトレイのパトサインまで描くなど、こちらもマニアック。
一方でレイバーを運用する警視庁警備部特車二課第二小隊長である後藤喜一警部補のゲタ車は他部署で使い古された用廃寸前の覆面パトカーではなく、敢えてミニパトというのも、何かひねくれた感じがして定評があり、黄色ナンバーがカッコイイ唯一のアニメである。
さあ、今度はずっとタイムスリップして1983年に放映されたタツノコプロ製作のアニメ「未来警察ウラシマン」だ。
本作にて、すでに日本アニメに覆面パトカーは登場。本作は1983年当時の現代から2050年の『ネオトキオ』へとウラシマ効果の発動によって時空を超えてしまった主人公『ウラシマリュウ』が、未来世界でその特殊なスキルを認められ、警察官に任用されてしまうという「浦島太郎」に着想を得た立身出世型の奇抜なアニメである。さすがタツノコプロ、光の伝説。あれはコケたなあ。
1983年のある日の雨の夜。リュウは愛ネコ『ミャア』と共に『無実の罪』で多数のパトカーから追われ、フォルクスワーゲン・ビートルで逃げていた。ふいにカーラジオからは自身の手配を伝えるニュースが流れる。
『俺はあんな大それたことはしちゃあいない!』とハンドルを握りながら既成事実に対して無実を叫び、逆に『訴えてやる!』と息巻くリュウ(無免)だが、直後にフォルクスワーゲン・ビートルは工事中で通行止めの道路へ入り込み、ガードレールを突き破って崖から転落。その次の瞬間、リュウは車ごと不思議な空間に飲み込まれて時空を超越。着いた先は遥か67年後の2050年。ネオトキオであった……。
リュウのビートルは時空のトンネルを抜けると同時にハイウェイ上で交通警察のパトカーにオカマ。相手はのちに同僚となる交通管制隊員・クロードだった。リュウはクロードに逮捕され取り調べを受けるものの、リュウを狙う謎の組織『ネクライム』が警察署を襲撃し……。
という物語の第一話だが、こののち、紆余曲折を経てリュウは機動メカ分署『マグナポリス38』という機動捜査隊のような部署に預けられる形で機動刑事になり、元・交通管制隊員のクロード、元・修道女で紅一点のソフィアらとともに分署長の権藤警部の指揮のもと、ネクライムに対して法を執行してゆくのである。
そして、主人公リュウと共にタイムスリップした1983年当時の60年代式フォルクスワーゲン・ビートルが、覆面パトカーとしてリュウ自身に特装を施され、覆面パトカー『マグナビートル』として捜査に運用されることになるのだ。
特徴的なのはその警光灯。着脱式ではなく、現実の交通取締り用覆面パトカーや警護車同様にボタンを押すと、ルーフから自動で露出するのだ。同時にサイドドアに『POLICE』マーキングが浮かび上がる。同僚のクロードのクルマもまた覆面パトカー仕様で、ほぼ同じ仕様だ。ただしこちらは”エアカー”だ。
クルマと言っても、さすがに2050年のミライともなると、車社会もハイブリッドカーや恋する充電プリウスどころの騒ぎではなく、車はみんなタイヤのついていない「エアカー」で、地上から数十センチ浮いて走るうえ、自動運転が主流の究極のハイテク・エコカー交通安全社会となっていた。
無論、パトカーもタイヤがないが、リュウは「タイヤがついてない車は嫌だ」という理由でエコ社会に反して(タイヤの付いた)ビートルに乗り、けん銃もわざわざ古い倉庫から偶然発見したM36チーフスペシャルをカスタムしたお手製のマグナブラスターを使う。
そんな時代でも、交通取り締まりは行われている。なんたって覆面パトカーが存在している。いや、アメリカの一部警察のように交通取り締まりのみは覆面での取締りが禁止されていたりして……!?
しかしながら、リュウのマグナビートルがパトライトを出す場面は最初の回だけで、物語中盤以降になるとパトライトは常時出しっぱなしになり、捜査上の秘匿目的で活用されることもなく、覆面パトカーの意味を成さなくなり、単なるパトカー状態での運用へ移行してしまう。そもそも毎回戦う相手はネオトキオを支配しようとたくらむ『ネクライム』が主であり、すでに刑事としてのリュウや仲間たちの面が割れているので、覆面パトカーに敢えて乗る意味もなくなった……というのが理由かもしれない。
ヒーローもの作品での『変身』シーンは物語にとっては重要な魅せ場であり、それは車の『変形』にも同じことが言えるのではないか。
ウラシマンは当時の子供をワクワクさせたメカとギミック満載の近未来感覚アクション・アニメであったが、覆面パトカーならではの運用をもう少しだけ描いてほしかった惜しい作品だ。
それにしても80年代に描かれた未来を舞台としたアニメは多いが、”ドローン”や”アイポッド”まで先取りしていたのは、このウラシマンだけか。ちなみに『逮捕しちゃうぞ』という例のセリフも本作が次回予告で使っていたので、元祖である。
一方、外国警察の覆面パトカーはアニメの中でどう描かれてきただろうか。
1983年に公開された『ゴルゴ13 劇場版』で米国警察の覆面パトカーが登場。なぜか日本式の反転式警光灯だったので違和感がある。当時はまだアメリカでも着脱式の『コジャック灯』だったのではないか。
一方、ルパン三世のテレビシリーズでは、銭形警部がこれまた米国警察の覆面で登場。こちらは着脱式の青いライトを自分の手で載せるという王道的(?)な演出。
1989年に制作された園田健一氏原作の「ライディング・ビーン」というOVA作品では米国警察が描かれているが、主人公の運び屋を追う刑事たちが乗る覆面パトカーのダッシュボード上に警光灯が設置されていた。
最後は日本のテレビアニメではなく、米国放映のテレビアニメから。
トランスフォーマーシリーズの米国版「トランスフォーマーアニメイテッド(Transformers Animated)」に登場する”オートボット”の「バンブルビー」は普段、覆面パトカーの形態になっているという設定。
子供向けのおもちゃとしての商品展開を見据え、パトカーとしての見栄えが優先されたのか、パトライトは米国警察では珍しく、屋根の上に設置されており日本の覆面とそっくり。
まあ、それにしても覆面パトカーが出るアニメというのは古今東西、昭和から平成まで結構いっぱいあるようだ。
追記
実は1983年に製作された『ガジェット警部(INSPECTOR GADGET)』というアニメ作品がある。
こちらの作品は日本とフランスの共同制作で、83年にまず外国で放映され、日本での放映はそれから3年遅れ、86年にNHK衛星第2テレビジョンの衛星アニメ劇場で放映されるという放映経緯が特異な作品だ。ゆえに日本での知名度はいまひとつだが、外国では非常に高い支持を得ている作品で、99年には映画も作られている。
主人公のガジェット警部は、一度は命を落とすもサイボーグとしてよみがえったロボット刑事だ。ただし、映画のロボコップと違うのはマーフィー巡査が殉職だったのに対し、ガジェット警部はバナナの皮で滑って頭を打った不慮の事故であることだ。
もちろん、ここで取り上げるからにはこのアニメにも覆面パトカーが登場する。主人公のガジェット警部が乗車するクルマ「ガジェット・モービル」は通常、バン型の私用概態警ら車として運用されているが、事件発生時にはクルマ自体がToyota Celica Supra P-Type(実際には諸説あり、1981年のデロリアンがモチーフかもしれない)に変形したうえで、サイドにPOLICE表記をつけたパトカーに変形する。
以下のサイトの解説が非常に詳しい。
Cartoon Car Spotlight: Details on Inspector Gadget’s Gadgetmobile
筆者はこれまでまったくこのアニメを知らなかったのだが、実は外国人が日本の交通覆面パトカーを見て『ガジェット警部みたいだ』とコメントしたことで、はじめて知ったのだ。
なお、上の動画、SNEAKY UNDERCOVER JAPANESE COP CAR!!で登場する交通覆面の反転式パトライトに対する外国人の反応が興味深かかったので、当サイトでは以前から覆面パトカーの赤色灯研究のページで言及している。