目次
通信指令本部とパトカーが確実に交信できる警察無線の車載通信系については以下のページで解説した通り。
当記事では無線の電波を送受信するアンテナの種別について解説したい。
とくにアンテナの偽装が重要になる覆面パトカーでは、それまで自動車電話型の『TLアンテナ』、アナログテレビ受信用ダイバシティ・アンテナに偽装した『TAアンテナ』などが長らくの主流だった。また、アンテナの秘匿がさほど必要のない警護車など、一部ではアマチュア無線や業務無線風アンテナなども配備されている。2010年ごろから全国配備が始まった設置が容易のいわゆる『ユーロアンテナ』が登場して以来、2024年現在まで、各都道府県警察の捜査車両には同型の普及がめざましく進んだ。いずれのタイプも、それぞれの時代の流行に合わせ、市販のアンテナに『偽装』するという涙ぐましい努力が行われてきたのだ。
2021年にデジタル警察無線はAPR方式から次世代型となるIPR方式に置き換わったものの、アンテナはここ10年で普及した『ユーロアンテナ』からとくに変更は見られない。ただし、気になるのは車内アンテナ化の増加傾向である。着脱容易なユーロアンテナを車内のリアトレイに秘匿設置する事例が全国的に増えたのだ。それまでも地デジ用のフィルムアンテナ偽装タイプのアンテナに換装する外部アンテナレス化を早くから進めていた高知や徳島など四国地方の例はあったが、それがIPRへの更新と同時に”偽装”から”秘匿”へシフトするなどして、覆面のアンテナレスが全国的に波及した印象を筆者は受けている。
ただし、これについては2014年に発生した『覆面パトカーのアンテナ窃盗事件』が原因となって、警察庁が各警察本部により一層の『秘匿』を指示した可能性も否めない。
同事件については当サイトでも別項で詳しく言及したが、外付けアンテナの宿命として、捜査車両としての秘匿性の低下もさることながら、運用当局が警戒せざるを得ないのは第三者に持ち去られるという、まさに今回のような事件だ。当局側としては、できるだけ早期に外部アンテナレス化を進めたかった思惑がありそうだ。
なお、アンテナを思い切ってミラーの中に仕込んで、完全に秘匿してしまった特許をも警察庁は持っているが、こうなると生半可な知識では覆面パトカーを見分けられない。
しかし、今なお覆面パトカーを象徴づける特徴的な外見上のディティールは、あと付けの外部露出型アンテナであることから、本稿では覆面パトカーのアンテナの歴史とアンテナ事情について解説していく。
F1型アンテナ(ラジオ用ロッドアンテナ偽装タイプ)
70年代から80年代の覆面パトカー(私服用無線車)用無線アンテナとして配備されたのが、純正ラジオアンテナを模したロッドアンテナF1ホイップアンテナ(電気興業)だ。
#昭和の日なので昭和っぽい画像を貼ろう
①②③昭和の覆面捜査車両 F1形アンテナ基台とメクラキャップが懐かしい!
④秘匿アンテナの傑作!ラジオアンテナ擬装の無線アンテナ
電気興業F1形ホイップと移動警電ショートタイプ pic.twitter.com/KyKVFbzi1R— 温故知新 (@PitanAhiru) 2017年4月29日
F1型アンテナは純正のラジオ・ロッドアンテナと換装する形で取り付けられたほか、純正アンテナを残し、その片側に増設するという運用もあった。純正ラジオロッドと違い、F1型アンテナは伸縮せず、常に垂直に展張されているのが特徴で、ピンコ立ちする姿が凛々しく、それでいて違和感が少なかった(もっとも、その車が連なれば異様だが……)。
覆面用の『偽装』アンテナとしては紛れもなく元祖。当時としても高いレベルで偽装に成功したと言える。
TLアンテナ(自動車電話用アンテナ偽装タイプ)
80年代、民間の移動体通信の先駆けである自動車電話が爆発的に流行すると同時に登場したのが、NTTの自動車電話用アンテナを模した全長60センチ程度のトランクリッド設置型『TLアンテナ』だ。とくに90年代、全国の警察本部で爆発的にこのアンテナが普及した。今も警護車など一部では現役だ。
警察が採用している「TLアンテナ」は電気工業製で、もともとはNTTの自動車電話用アンテナに偽装させており、NTTやNTT DoCoMoのステッカーまでキチンと貼るという念の入れようであった。
TLアンテナに貼られているステッカーのうち、NTTのステッカーの場合はVHF帯専用アンテナで、NTT DoCoMoのステッカーならVHFとUHFの共用アンテナだった。後者はデュプレクサ(分波器)を用いれば、1本のアンテナでWIDEと基幹系が運用できたという。
参考文献 ラジオライフ1996年2月号(株式会社 三才ブックス)
しかし、2000年以降の携帯電話の爆発的普及によって自動車電話は廃り、同型アンテナをつけた一般車両は激減。今でも実用の無線アンテナとして、頑なに『TLアンテナ』をつけているのは警察かタクシー(日本アンテナ製品の450MHz用)、アマチュア無線家(ダイヤモンド製品)くらいなもの。
当局者側もそれを考慮して、今度はトランクリッドに基台だけ残し、アンテナ本体はトランクの中に横向きにして秘匿するなどの運用を取った。
全長は短いようで長いため、”アマチュア無線用のTLアンテナ”とはやや雰囲気が異なる。
TLアンテナの装着位置は後ろから見て右側が多いが、左に装着する個体も存在するため、設置位置の明確な基準はないようだ。
一方、80年代当時大流行したパーソナル無線用オレンジトップ・アンテナのような折衷型アンテナ(製造は当時の安展工業、現在のアンテン)もあった。
現在では新たに配備される第一線の覆面では装着されずに廃れたが、アンテナの秘匿や偽装の不要な白黒パトカー、それに警備部が使用するいわゆる警護車でもやはり現役で、TLアンテナを2本、4本とトランクリッドに装備する個体もざら。目立つことが必要とされる警護車では特に支障が無いのだろう。
TAアンテナ(テレビ放送受信用アンテナ偽装タイプ)
次いで登場したのがアナログ波テレビ放送受信用アンテナ偽装タイプ。取扱説明書に拠れば正式名称は『日本アンテナ 無線用ホイップアンテナ TVダイバーシティ型』となる。電話の送受信アンテナから、テレビ放送の受信アンテナに偽装したわけだ。今から20年以上前、自動車搭載型テレビ受信用のアンテナとしてカー用品メーカーのSEIWAから発売されたテレビ受信用アンテナ、シティロードT17型に偽装させモデルを、日本アンテナが2010年ごろまで製造。
2024年現在、一般車はおろか、捜査車両ですら装着する固体は、ほぼゼロ。つまりこれもとっくに旧世代。
無線の送受信性能を損なわないために、敢えて下段のエレメントのみ、後端が完全にカバー内に収納できない仕様になっている。同軸線の処理も特徴的。
かつて、オークションでは実物の日本アンテナ製の無線通信用、それに実物のセイワ製テレビ受信用まで10万円以上で取引されていた。
セダン型覆面ではリアウインドウ上部のサイド、ミニバンやSUV覆面ではルーフ上に装着されるのが一般的。通常、セダン型覆面パトカーの場合は、リアガラスの両脇にひとつずつ装着するが、片側しかつけていなかったり、ルーフ上に装着している極めて珍しい例もあった。
実は日本アンテナ製のTAアンテナにも複数の種類があり、情報典拠元サイト様に拠れば、基台部分がマグネット式、フック式などのほか、車種ごとによっても対応する種類があるようだ。
中でも、もっとも特筆すべき点は左右共に無線の送受信用のタイプのほかにも、片方がTV受信用、もう片方が無線の送受信用になっているタイプがあることだ。
このTAアンテナの欠点はエレメントを全開状態で、ついうっかりトランクドアをフル・オープンしてしまうと、エレメントが細いためにドアが接触してグニャリと曲がってしまうという点か。なぜかTAのエレメントが曲がってる覆面が多いのはこのためだろう。
とくに交機・高速隊の交通覆面は違反車両を停止させた後、表示板などの停止機材をおろすためにトランクを必ず開けるので、危うかった。頻度は少ないとはいえ、無論、機捜や所轄覆面も同様であった。一方、目立ちたくないのかエレメントを伸ばさない覆面も多かった。当然、エレメントが短くなれば、送受信性能は落ちてしまう。さらに後部車内に置いて隠す秘匿型で運用されている例も見うけられた。
なお、シティーロード・タイプの場合、民生用との違いは同軸ケーブルの太さ、そしてアンテナ下段のエレメント・ロッドの後端が膨れているためにロッドの完全収納ができない点だ。
全国的には前述のセイワ・シティーロードタイプのTAアンテナが大半だが、一部の警察本部ではパナソニックTY-CA39DAタイプや、少数だがより小型で完全にオリジナルの意匠をした形式も並行配備されていた。
ユーロアンテナ(ヘリカル型アンテナ)
TAアンテナの後継を担ったのが、2010年ごろから2024年現在まで全国の警察本部で配備されているユーロアンテナ偽装型アンテナだ。近年の国産車でも頻繁に装備されている標準的形状のユーロアンテナを模したデジタル警察無線用ヘリカルアンテナで、現在の警察車両用偽装アンテナとしては最もスタンダードで装着率が高い。
熊本県警本部 機動隊
ハイゼット資機材搬送車
昨年県費導入された車両で一見ただの軽トラですが、ルーフにはユーロアンテナ、車内にはサイレンアンプを装備しています😏
(会場では関係者向けにプリウスと共に赤上げで展示されていました)
緊走可能な軽トラアツいですね😋 pic.twitter.com/xm3uExAzCY— MF10L33 (@ashigara178) March 24, 2018
現在、交通覆面のクラウンアスリート、捜査覆面としておなじみのマークXやレガシィ、そしてキザシ、果てはエルグランドなどミニバンにも装備されているほか、警護イベント毎に複数のアンテナを増設する警護車でも、この着脱容易なユーロアンテナ偽装タイプが好まれている。
警察が配備するユーロタイプアンテナはエレメント・チルトタイプの日本アンテナ製MG-UV-TP、そしてエレメント固定タイプの電気興業製の二種類が混在。配備率は圧倒的に日本アンテナのMG-UV-TPが主流。なお、接線はどちらもNP型。
日本アンテナ製ユーロアンテナ偽装タイプ MG-UV-TP
ユーロアンテナ偽装のヘリカルアンテナでは全国的に日本アンテナ製品のMG-UV-TPの配備率が高い。現行品はMG-UV-TP(TAG)で、底面のネオジウム磁石が塩化ビニル素材で覆われた仕様となっている。
平成29年度当時も中国管区警察局などで納入されている最新型アンテナだ。
chugoku.npa.go.jp/kaikei/6yamaguchi/choutatsu/03open_mitumori/yamaguti-opm-281228.pdf
407.725MHz対応の「3周波共用型」も
旧型カーロケ、いわゆるパトカー動態表示システム(無線自動車動態表示システム)にて使用されたデータ通信用周波数407.725MHzに対応した3周波対応のMG-UV-TPも配備された。形状はこれまでの基幹系(VHF)/署活系(UHF)の2周波共用方から変更はない。なお、旧型カーロケは一部を除いて全国で廃止されており、現在の新型カーロケシステムではVHF帯域のAPRの重畳方式やNTTドコモのFOMA回線によるデータ通信となっている。FOMA方式の場合、助手席Aピラー脇のダッシュボード上に日本電業工作社製のデータ通信専用のモノポール・アンテナ(通称・タスポアンテナ)が搭載されている。
同軸ケーブルの処理が困難
絶妙に標準的なユーロアンテナに化けたMG-UV-TPにも「後付けアンテナ」の宿命として同軸ケーブルの処理が難しい。
そもそも一般車両が標準装備しているユーロアンテナは、はじめからケーブルが内蔵されているので、リアウインドウから比較的離して設置されるものだが、覆面パトカーで装備するMG-UV-TPでは同軸ケーブルの処理のため、どうしてもリアウインドウのふちギリギリに設置され、ケーブルは自己融着テープを巻いた上でリアウインドウの溝に這わせ、埋め込み処理されているのが特徴的だ。ミニバン型なら、さらにピタック(留め具)でケーブルが固定される場合もある。
同軸ケーブルの処理は後部ガラスのどちらかに沿って車内に引っこまれているが、その処理は都道府県警察によっては手際の良いところと雑なところがあり、雑な処理ではすぐに同軸ケーブルが浮き上がる、または垂れ下がり、ひどい有様になる。同軸ケーブルが適切に処理されていなければ、見た目だけでなく、電波の送受信性能にも影響を与える。みっともない状態の同軸ケーブルを直すのは警察官ではなく、警察行政の技術職員や、地元の下請け企業だ。
現場に来ていたキザシの覆面パトカー、アンテナのケーブルがリアウインドに垂れ下がっていた。さぞ大急ぎで来たに違いない(棒 pic.twitter.com/N1ugAUT9f1
— nittukyo (@nittukyo) 2017年3月2日
MG-UV-TPの欠点を克服したWH-UV-TPも存在
しかし、同軸ケーブルの露出するMG-UV-TPの欠点を克服したWH-UV-TPも存在する。WH-UV-TPは車種標準のユーロアンテナと換装する形で取り付け可能で、こちらは同軸ケーブルが車外に露出しない優れた偽装アンテナだ。日本アンテナの同製品の共通説明書にはMG-UV-TPがマグネット式、WH-UV-TPが穴開け式と記載されている。
一般的な車種標準のユーロアンテナではエレメントが先端から根元までラバーになっているが、上記の製品ではいずれも先端がプラスチックになっていることが特徴だ。
穴開け式のWH-UV-TPに換装されている場合、停車中はともかく、走行中に見抜くのは極めて困難。
ただ、純正でユーロアンテナが設定されていない車種にMG-UV-TPを設置するなど、必ずしも秘匿性を高めているとは言えないようだ。
車種標準のユーロアンテナがすでに設置されている場合は偽装に失敗する
トランクリッドにユーロアンテナという怪しい仕様のインプレッサ発見。この覆面パトカー、偽装に失敗しているよなぁ…。 pic.twitter.com/xC37VaMfZW
— Toshio OGISO (@toshio_ogiso) November 23, 2017
中には標準のユーロアンテナのすぐ近くに、偽装型ユーロアンテナを設置した覆面パトカーもいる。これが顕著に見られたのは捜査覆面として全国に国費で大量配備されたスバル・インプレッサ・アネシス。同車ではすでにルーフ後部上にユーロアンテナが標準で設置されているため、偽装させる場合は標準ユーロの隣か、その後ろ、さらにはリアトランクリッドに設置する例が見られた。
また、同じく国費導入のFitや、スイフトなどでも同様。これらの車種では当然不自然なので、せっかくのユーロアンテナ偽装型が活かせていない失敗例と言えそうだ。
ある警察本部長公用車にはクラウンマジェスタが配備されているが、こちらもアンテナの秘匿には難ありのようで、標準のドルフィンアンテナを屋根に装備しているほか、トランクリッドにはユーロアンテナ装備となっている。
なぜかエレメントを普通とは逆に前側に倒している場合も多く見受けられるが、そのほうがルーフの反射で電波の受信効率が上がるのかは不明。
国土交通省の緊急車両にもMG-UV-TPと同型タイプが配備
なお、警察以外でも国土交通省の緊急車両にMG-UV-TPと同型タイプのユーロアンテナが装備されている例もあるようだ。
ユーロアンテナですね‼国土交通省の車両‼ pic.twitter.com/IO6oyuJiSw
— わかやまRF117 南方 Radio Shack (@minakatars) September 6, 2019
MG-UV-TPとほぼ同じ外観で、タクシー向けのMG-450-TP
また、日本アンテナではMG-UV-TPとほぼ同じ外観で、タクシー無線向けの製品MG-450-TPも販売している。警察用のMG-UV-TPの送受信対応周波数範囲が基幹系の150MHzおよび350MHzの2波共用であるのに対して、MG-450-TPはタクシー無線の周波数帯域である450~470MHzのシングルバンド対応となっている。
そのため、MG-450-TPは警察用アンテナではないにもかかわらず、商品名に「覆面パトカー」と含ませてネットオークションやフリマで販売される例もある。
電気興業製ユーロアンテナ偽装タイプ
米子鬼太郎空港内にある交番に駐車中の
三菱EKワゴンパトカー
ダイハツ ミラ パトカーEKはCSは確認できなかった。
ユーロは電気興業製。コードレールじゃなくて、金属のケーブルクリップ笑 pic.twitter.com/FZtFUFISOk— kizasi-山陰広域205 (@SP6584_7608) June 6, 2019
電気興業製ユーロアンテナは情報が少ないため、モデル名、仕様など詳細が判然としないものの、大阪府警での配備率が高いようだ。2010年ごろ、後述の日本アンテナ製とともに配備されているが、全国的には配備率は低い。エレメントの角度をチルトできないのが特徴。
ユーロアンテナのまとめ
このように一見違和感がないようでも、後付感があってバレやすいのがタマにキズだが、車に興味の無い者には標準のアンテナか、後付けの偽装アンテナか判然とせず、ある程度のカムフラージュに成功していると評価できるだろう。
このユーロタイプアンテナについても、覆面パトカーが後部座席のヘッドレストの後ろのスペースに鉄板を敷いたうえでアースを取って、車内設置するという荒業的な運用が複数確認されている。
アマチュア無線&業務無線風アンテナ……こ、これは偽装じゃないんだからね!これでただの業務車かハムの車に見える
こちらは偽装アンテナではなく、業務用やアマチュア無線風のアンテナである。
アマチュア無線と言えば、70年代から80年代にかけて大ブームを引き起こし、老いも若きも夢中になったホビーの王道。しかし、ひところに比べればブームはとうに過ぎている。それでも1995年の阪神大震災や2011年の東日本大震災直後には有用性が見直され、ハムの登竜門である第4級アマチュア無線技士の国家試験の受験者に関していえば、増加しているという。
アマチュア無線型モービルホイップ・アンテナの例
ブームに乗り遅れるのは当局側も同じようで、これをデジタル警察無線用のアンテナに偽装したものを覆面パトカーのトランクリッドにTLアンテナの要領で基台をかませて装備している。
アンテナは全長30~60センチ程度の針金状の細いエレメントが特徴。スプリングベースが多い。
折尾PS刑事課
アリオン捜査用覆面 折尾41アンプ、無線機は隠してるのにアンテナ、コーナーセンサー、鉄ちん😅 pic.twitter.com/O1MFrX8EZg
— きゅいまる (@kyuimaru) 2017年2月3日
モービル運用で定番の145MHz/430MHzの両バンドを使用するアマチュア無線用アンテナや、300MHz/400MHzを使用するデジタル簡易無線用アンテナと長さが一緒なので、似た周波数を使う警察無線にとっても都合が良さそうだ。
憲政公園にスイフトの覆面いる。アンテナは第一電波の150MHz帯の1/4λのモビホつけてる。 pic.twitter.com/TMFn3gRMdq
— MKS/JF9NQG(RoHS指令準拠) (@683_SRE) 2017年1月30日
とくに千葉県警の交通覆面に装着例が多いのではないか。
しかし、やはり”セダン”でこんなアンテナをつけるのは熱心なアマチュア無線家くらいで、あとは一部の官公庁くらいなもの。
八幡西上香月の連続放火(疑い)事案に臨場した福岡県警本部(鑑識課?)フィット捜査用覆面
福岡にもフィットがいたとは!
外見で確認できるのは針金アンテナとピン。
内装はピラークリップやサイレンアンプ、マイク。
無線機は隠蔽 pic.twitter.com/p553O5VcFh
— きゅいまる (@kyuimaru) 2017年1月24日
ただ、偽装しているのではなく、無線用アンテナ本来の姿を堂々とさらけ出し『働くセダン』しているところはむしろ好印象だ。
車内アンテナ……究極の秘匿アンテナは盗難防止策となるのか
打って変わってこちらは、車内完全秘匿型のアンテナなどといった特殊な事例である。堂々としたアンテナとは正反対であり、少しアンフェアと言えそうな『車内アンテナ』だ。偽装よりもさらに高度な『完全秘匿』方式の車内設置型アンテナである。
覆面パトカーの外見的特徴といえば、先に挙げた各種外部アンテナだが、近年では捜査用および交通用覆面ではアンテナの秘匿を目的として、車内設置式が比較的多く見られる。
このような人物が当局に驚異を与えた影響も少なからずあるのかもしれない。
覆面パトカーが『車内にアンテナを隠す』運用が頻繁に見られるようになったのは2000年代初頭からだろうか。
ただし、ラジオライフ1989年8月号において、車内アンテナ化された京都府警本部の覆面パトカーが読者投稿されており、アンテナ秘匿は当時から存在していた様子だ。スバル・シグマの車内後部、前席の後ろと後席足元のスペース中央に全長60cmほどのホイップアンテナ「アンテン工業 DB-3」を垂直に立てるという荒業だ。
車内秘匿型の運用には2種類ある。一つは先に紹介した各種の外部用アンテナを単に車内設置へ転用したもの。もうひとつは初めから車内専用設計のアンテナによる秘匿だ。
当初は外部設置用の針金アンテナやTAアンテナを車内に、お次はユーロアンテナを車内に……という具合で巧妙さ(強引さ?)が増してきた覆面パトカーによる無線アンテナの車内秘匿。
覆面のアンテナ室内に置き始めて分かりにくくなりました。 pic.twitter.com/ATj8Bv9t2b
— KOTA®@FIFTYS Racing (@MONTANAKUMAMOTO) 2017年3月22日
現在、国費導入の交通覆面として各地で圧倒的活躍を魅せるトヨタ・210系クラウン・アスリートにもアンテナ・レスの潮流がひそかに加速しつつある。
また、かつて大阪府警にはステーションワゴン型交通取り締まり用覆面パトカーとしてステージアが配備されていたが、同車両も外部にアンテナを露出させない完全な秘匿型に成功しており、車種と相まって極めて秘匿性が高かったことが話題になった。
『ラジオライフ』2005年2月号では『大阪府警ステージア交通覆面のアンテナの謎』に迫る大井松田吾郎師匠の記事が掲載されているが、同氏の現地取材により、ステージアのリア・ラゲッジルームのサイドウインドウ側に、なんとマグネット基台に取りつけられたスプリングベースのホイップアンテナが、上下さかさまの『逆さ吊り』状態で設置されていることがわかった。
なお、大阪府警の『ステーションワゴン交通覆面』の伝統はスバル・レガシィツーリングワゴンに受け継がれている。
大阪府警察高速道路交通警察隊
スバル・レガシィツーリングワゴン交通覆面
全国的にも超レア(?)な覆面パトカー。ステージアをはじめ、ステーションワゴンタイプの覆面を導入するのは大阪のお家芸ですね(?)
アンテナを車内設置したりと秘匿性は抜群。取り締まりに活躍もそろそろ年ですかね。 pic.twitter.com/8f4F8OFRO4
— じゃがいもこぞう (@potatosignals1) December 4, 2021
同氏はステージアという車種選定、そしてアンテナ秘匿設置を”微妙”と評したうえで『交通覆面でここまでの隠蔽工作は”取締りのための取り締まり”を招きかねない』と、やや批判的な見解を述べている。
ただ、技術的な面から言えば、本来なら外部に設置すべき車外用無線アンテナを車内設置で運用した場合、アンテナから5W~10W、あるいはそれ以上で発射される高周波や反射波が、無線機ならびに電子機器に与える現象、いわゆる回り込みの影響については不明だ。
一方で『はじめから車内専用に開発された警察無線用アンテナ』も登場。アンテナでは電波の送受を行う部分を素子(エレメント)と呼ぶが、この素子部分が黒色のため、銀色をしたロッドアンテナを備えるTAアンテナなどを車内後部に無造作に置いておくよりも、すこぶる目立たなくなった。
これは全長50センチ程度の黒いエレメントをウインドウ内側に両面テープで貼り付ける、目立たないアンテナだ。
エレメントが車外へ露出しないばかりか、エレメント自体が薄く黒色なので、リアガラスの脇にでも貼られていれば秘匿性はすこぶる良好。
警察密着番組を見る限りでは香川県や徳島県など四国の警察本部の捜査車両が特にこのタイプを好んで設置している。徳島県警の名物刑事・リーゼントの秋山刑事の乗っていたエアトレック捜査覆面パトカーのリアガラスにも貼ってあったほか、高知県警のスバルWRX覆面パトカーにも装着済みである。
また、警察無線用のフィルムアンテナもある。市販のワンセグ用フィルムアンテナに似たタイプで、目立たず違和感もないため、こちらも秘匿性は高い。
一方、アメリカではメーカーも本腰を入れて車内秘匿用無線アンテナを警察向けに販売しており、一般の覆面パトカー用や、内偵用のバン用のものなどラインナップは幅広い。
覆面パトカーのアンテナが盗難でもされようものなら、用務に支障が出かねない。アンテナを車内に目立たない形で設置できればよいという運用当局者の思惑が見て取れる。
無線アンテナをドアミラーに仕込んでしまう特許を警察庁は考案している
http://j.tokkyoj.com/data/H01Q/3095114.shtmlでは各種の特許の考案が確認できるが、その中の一つ『ドアミラーアンテナ』に注目。
実はこの「ドアミラーアンテナ」の特許出願者は警察庁長官。長官自ら、覆面パトカーのアンテナを隠す研究をしていたということではなく、警察庁が出願する便宜上、特許の出願者が警察庁長官ということだが、実用新案登録請求の範囲に記載された文面には「見た目がスッキリする(原文ママ)」という一文がある。見た目がスッキリすることで見た者の記憶に残らないクルマに仕上げたい意図なのだろうか。
V字型車内貼り付け型アンテナが登場
覆面パトカーのアンテナ
IPRアンテナの新型? pic.twitter.com/e41L1WLhSa— 高梨智樹 (@Drone_Takanashi) May 6, 2022
IPRの入れ替えに伴い、車内アンテナの新型としてV字型にエレメントを展開できる車内貼り付け型アンテナが配備されたようだ。
New!シャークフィンタイプ
一部の警察本部にて試験運用されている最新型の覆面パトカー用偽装アンテナである。
山口県警機動捜査隊(?)BMレガシィ捜査用覆面
ア ン テ ナ ☆ 最THE高☆
ドルフィンの警察無線アンテナ初めて見た pic.twitter.com/z1mcqvg4qP
— きゅいまる (@kyuimaru) 2017年5月10日
国産車でも増えているスタイリッシュなシャークフィン・アンテナだが、すでにMCA無線やデジタル簡易無線(351Mhz)、アマチュア無線(430MHz)、消防無線(260MHz)などでは、フィン型の無線通信用アンテナが登場している。
全体の形状はオーソドックスなシャークフィン・アンテナを模しているものの、頂上部から後ろへ棒状のエレメントらしきものが6cmほど、ほぼ水平に突出。いかにも無線通信を行うためのアンテナらしい外見になっている。150MHz帯の車載通信系の周波数でこのフィンタイプ・アンテナを運用するのは困難らしく、仕方なく秘匿性をある程度犠牲にして、棒状のエレメントをフィン本体から突き出る形で伸ばしたのだろうか。
やはり、こちらも後付けアンテナの宿命として同軸ケーブルがわずかに本体下部から露出している。
現時点では全国でも目撃例は多くなく、プロトタイプ段階として一部での試験運用にとどまっている様子。今後改善される余地はあるだろうが、とくに覆面パトカー用として次第に普及する可能性もある。
覆面パトカーのアンテナのまとめ
以上、覆面パトカーの各種アンテナには偽装、秘匿といった形態から、あえて秘匿も偽装もないアンテナに至るまで実に多様であることを紹介した。このような流れで最新のフィンアンテナ偽装タイプから、車内秘匿化まで進んできた警察の覆面パトカー用アンテナ。好奇心は満足できたであろうか。
当然、市販されておらず、 セイワのシティーロード・アンテナや、実物アンテナの横流し品、外見がそっくりの市販品MG-450-TP、何者かが同軸ケーブルを切断して覆面パトカーからもぎ取ってきたらしきアンテナや、 個人が作ったユーロのレプリカなどをマニアがこぞってネットで入手する笑えない事態にもなっている。
そして昨今、デジタル警察無線は重大な転換期を迎えた。無線通信のインターネット・プロトコル化を決定した警察庁は2018年から「IPR形警察移動通信システム」を導入し、2024年現在、多くの地域でIPRに置き換えられているだが、それに伴って、とくに交通覆面の220系クラウンアスリートからアンテナが車内設置に変わったという声が相次いでいる。将来的に覆面パトカーから今までのような外部アンテナが消える可能性を示唆している。
しかし、アンテナが消えたとしても、国が同一車種を一括大量購入して一斉に同じ車種が全国にばらまかれて配備されてしまう、覆面パトカーにとっては欠陥とも言える国費導入制度(失敗例・キザシ)はともかく、どうやっても消せない『警察車両特有のオーラ』で見破られてしまうことだろう。