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都道府県警察航空隊とヘリコプターの運用
警察のヘリコプターを運用するのは、各都道府県警察本部地域部に編制された航空隊だ。現代の警察活動にヘリコプターは必要不可欠の装備であり、空からの捜査支援や広報、採証、捜索救難、輸送、交通状況巡視などのほか、迅速な展開能力を活かし、指揮官の現場臨場、被疑者護送にも活用されるなど、その任務は多様だ。
さらには臓器移植に係る臓器の緊急搬送には警察航空機も可能な限り協力する方針が取られ、メディカル・ミッション任務にも従事している。
全国でも、最も多くの航空機を配備運用したのが首都の治安を空から担う警視庁航空隊である。同庁がいち早くキャノピーの大きく丸い「Bell 47」型の『はるかぜ1号』を導入したのが1959年。その後、傑作軽快小型ヘリとして成功した『ジェットレンジャー』や、ベトナム戦争で名をはせたUH-1の民間型、富士-ベル204Bも配備した。
その一方で、同庁航空隊では89年から94年まで飛行船「はるかぜ」による警戒活動をヘリと並行運用した。これは全国的に同隊のみの配備であった。
警察のヘリコプターの多くは国が購入し、各都道府県警察に配分しているが、パトカーがそうであるように、それぞれの警察本部が独自に購入している”県費モノ”もある。ヘリの場合、パトカーの”県費モノ”とは違って、それほど突飛な機種が採用されてはいないものの、警視庁や大阪府警では他県警よりも一回りほど大きな大型ヘリを配備している。
警察ヘリには地上の航空隊基地と交信を行うための運行管理用周波数として、警察ヘリ専用波(防災ヘリとも共用)が割り当てられており、さまざまな業務連絡を行っているのは他機関の官用機と同様だが、警察ヘリには航空無線のみならず、基幹系無線機も積んでおり、警察本部のほか、パトカーとも交信が可能だ。
警察のヘリコプターが配備されているのは公共用へリポート、自衛隊の飛行場などが多い。警視庁航空隊では本陣を東京ヘリポート内に置くが、立川市の自衛隊立川飛行場に立川航空センターとして航空隊の分遣隊を置き、2拠点体制で航空隊の活動を遂行している。
山岳警備隊との密接な連携
近年では登山ブームもあり、山岳救助事案が多発傾向にある。各都道府県警察には山岳遭難に対応した山岳警備隊が編制されており、航空隊のヘリコプターと連携して救助任務に従事する。
とくに山岳地帯を抱える富山県警察、長野県警察、岐阜県警察のエアレスキュー体制は充実しており、双発で安全性が高い機種を配備しているのが特徴だ。
なお、双発ヘリで1時間のフライトの場合、250リットルの燃料を消費する。当然、警察による救助費用は一切かからないが、民間のレスキュー会社のヘリによる捜索救助では、最低でも1時間当たり約46万円にもなる。2017年には埼玉県が防災ヘリによる登山者の救助を有料化して話題となったが、こちらは5分間の飛行で利用料が5000円と、実際、安易に警察に救助要請をし、空路下山する登山パーティもいるとして批判があるなかで登山者を中心に賛否両論となっている。
情報典拠元の明記
日本山岳救助機構合同会社
http://www.sangakujro.com/rescue/rescue/005.html
神奈川県警察本部地域部 地域総務課航空隊
https://www.police.pref.kanagawa.jp/mes/mesg0016.htm
次は警察ヘリのパイロットの養成や、機上で整備などを行う警察行政職員(技術)やヘリの機種について説明する。
警察ヘリの操縦士や搭乗員について
イギリスの警察などは、民間人のパイロットが操縦士を務めることもある。日本国内でも防災ヘリなどの場合は、ヘリと乗務員は民間航空会社所属の場合も多い。しかし、我が国では全員が警察官となっている。
米国警察のヘリコプターは日本警察同様に多様だ。パイロットについても日本と同様、警官だが、日本と違って米国の警察ヘリパイロットは短銃を携行する。
ニューヨーク市警察ではアグスタ・コアラとベル412を使用し、市警の業務と国土安全保障任務という業務を担う。警察以外の法執行機関では、例えばCBP(合衆国税関・国境守備局:U.S. Customs and Border Protections)では真っ黒いUH-60ブラックホークを配備する。
これら米国の警察ヘリは非武装だが、武器を所持したSWAT隊員が搭乗する場合もある。「ブルーサンダー」という映画では武装攻撃ヘリをテロ対策の名目で警察に配備させようとする導入部分が描かれていたが、実際にはあのような武装を持つヘリコプターは米国警察と言えど配備されていないのが現状だ。
全国的に見ると、警察のヘリパイはほとんどが自衛隊上がりだが、警視庁航空隊では1年以上の勤務経歴がある現職警察官の中から自衛隊による適性試験を経て候補生を選抜する制度や、すでに回転翼操縦士の免許を取得している者を外部募集する制度もある。
選抜されたパイロット候補生は教育を委託された自衛隊や民間の航空学校にて操縦訓練を受ける。
また、珍しい例としては2009年、55歳で大手警備会社所属から兵庫県警のヘリパイロットに任用された西窪茂男氏の例もある。
一方で、ヘリのキャビンに搭乗し、救難任務やヘリテレの操作などを行う機上整備士は特務員と呼ばれ、こちらは警察官と警察行政職員(技術)が混在している。警察ヘリの整備士も警察行政職員(技術)で採用されるのが一般的で、女性整備士も活躍している。
都道府県警察別のヘリはどんな機種が配備されている?
ベル 206 | 民間でも電線監視、簡易輸送で活躍するスタンダードで安価な単発ヘリ。輸送能力は高くなく、救助活動には不向きだが、上空からの追跡や監視はお手の物。静穏性に優れ、神奈川県警や大阪府警では同機から機外スピーカーで地域住民へ向けた防犯放送も行う。 |
ベル 429 | ベル、日本、韓国の共同開発による双発中型ヘリ。長崎県警のみで配備。 |
EC135 | テールローターがフェネストロン化され、接触の危険性が減っているため、ドクターヘリとしてもおなじみのヘリ。 |
EC155 | AS365ドーファンの改良発展型であり、スタイルが似ている。警視庁のみで採用。 |
S-76B | 兵庫と香川県警で採用されているジェットヘリ。 |
AW139 | 15席の中型双発機。警視庁などで採用。 |
AS365 | 消防庁も採用しているジェットヘリ。愛称はドーファン。双発でフェネストロン化されている。 |
ベル 412 | UH-1を発展改良させた双発機。双発による安定した出力が評価され山岳救難に適し、洋上飛行の多い海保でも配備している。 |
BK117 | 日本の川崎とメッサーシュミット・ベルコウブロームが共同で開発したヘリ。 |
A109E | 山岳救難などに活躍するジェットヘリ。北海道警察など多くの警察本部が配備する。 |
S-92 | 日本警察では警視庁のみで採用されている大型ヘリ。2020年4月に退役。 |
EH101 | 日本警察では警視庁のみで採用されている大型ヘリ。 |
AS332 | 日本警察では大阪府警のみで採用されている大型ヘリ。かつては警視庁も配備。 |
日本警察のヘリにはどんな装備がある? 武装は?
特筆すべき装備として、機外設置の高倍率および防振ビデオカメラによる『ヘリコプターテレビ伝送システム』がある。機内の特務員がモニターを見ながら操作し、事件や事故現場上空から警察本部へ生中継ができる。
高倍率カメラによって、人気(ひとけ)のない駐車場でDQN仕様のセルシオにカニジャージの男が、ナンバープレートを付け替えているところや、リアウインドウのD.A.Dシール、森林公園の駐車場に停めた車の中で女子高生と会社員が何をしているのかも全てわかり、クッキリ裁判用に証拠撮りされてしまう。
また、アメリカ国土安全保障省所属のブラックホーク・ヘリには”過去を映し出せるカメラ”、すなわちサーモカメラが搭載されているが、日本警察のヘリでもやはり導入済みで、NEC製品のサーモカメラ『エアロアイ』が犯罪捜査や救難捜索など幅広いミッションに役立てられている。
そして、地上へ怒鳴るための外部スピーカーや、要救助者を吊り上げるためのホイスト装置も備えている。
なお、米国の警察ヘリのパイロットはけん銃を必ず携帯しており、まれに地上の犯罪者と交戦することもあるが、日本警察ではヘリのパイロットにけん銃を持たせておらず、機体自体も非武装。しかし、被疑者が軽飛行機やヘリなどで逃走した場合は、MP5を携行する刑事部のエスアイティーや、89式自動小銃を携行したSAT(特殊急襲部隊)を搭乗させたジェットヘリで追尾可能だ。なお、一部の警察ヘリはSAT専用機として指定され、テロリストと交戦するために防弾化されている。
秘匿追尾ってなに?
「札幌本部からぎんれい2」
「ぎんれい2。現在、マル被のママチャリを秘匿追尾中。なんとか通りを通過。以上ぎんれい2」
「さっぽろ105(自動車警ら隊)からぎんれい2、誘導願いたい」
「了解。間もなく左側からチャリンコ乗った者、飛び出すので注意されたい」
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「さっぽろ105から札幌本部、マル被を確保」
「ホピホピホピ!サッポロンブから臨場中の各移動!さっぽろ105がマル被を確保した!以上サッポロンブ」
警察のヘリが遠く離れた上空から、地上のマルヒを密かに追尾する方法を秘匿追尾と呼ぶ。あまり近くでマルヒを追尾すると気づかれるため、前述した防振仕様の高倍率ヘリテレと機内のモニターを特務員が駆使して高高度から監視、追尾する。そして地上のパトカーを的確に誘導し、マルヒの確保を支援するのである。
ダウンウオッシュ作戦
ヘリにとって地面効果の得られない高高度、とくに山岳救難でのホバリングは非常に危険を伴う。本来ヘリコプターは、揚力を発生させるためにメインローターを回転させるが、このときにヘリの直下にはダウンウオッシュと呼ばれる強烈な下向きの気流が発生する。この強烈な下向きの風は人間はおろか、ときには自動車まで横転させてしまうほど強烈だ。そして、ヘリ自体がこの下向きの気流の渦に入ってしまい、急激に揚力を失ってしまう現象をセットリング・ウィズ・パワー (settling with power)と呼ぶ。
セットリング・ウィズ・パワーが発生する多くの場合、ホバリング限界高度を超えた高度で地面効果外ホバリングをしようとした場合であり、とくに山岳救難に従事する防災ヘリが陥りやすい。
北海道警察のヘリは、この直撃されると大の大人でも簡単に吹き飛んでしまうような台風並みの下向きの気流であるダウンウオッシュをあえて利用し、雑木林に逃げ込んだ被疑者を炙り出すことも行っている。
鷹の目を持つ警察ヘリからは誰も逃れられないと言えそうだ。
追記
近年ではヘリを使った煽り運転取り締まりも行われている。
ドラマ題材度
★☆☆☆☆
ドクターヘリが主役のドラマは近年制作されたが、残念ながら警察ヘリや警察航空隊そのものが題材になったドラマは国内では過去に一度もない様子だ。それでも、ドラマに警察のヘリらしき機体が登場する場合は多い。しかし、民間ヘリをそのままのカラーリングで「警視庁」のマーキングを付けただけの場合や、駐機しているヘリを合成した場合もある。
ただ、大阪朝日放送で放映された「部長刑事」は大阪府警の公式協力を得ている作品であり、オープニングに実物のパトカー、さらには警察ヘリの飛行シーンが登場するなど刑事ドラマとしては異色だ。
いずれにせよ、現状では警察航空隊が主題となると制作予算が問題なのか、警察ヘリの塗装を撮影のために民間ヘリに施すということも法的には難しいのか、制作は難しそうだ。実物のパトカーの撮影協力すら難しい現状では警察ヘリの撮影協力は夢のまた夢かもしれない。
しかし、刑事ドラマでは活躍しなくても、警察24での航空隊の活躍ぶりはもはや言うまでもないだろう。