警察官の制服は国家公安委員会規則で細かく様式が定められており、鑑識活動服などの被服を除いて、現在は47都道府県すべてで、その規格が統一されている。ワッペンの都道府県名とシンボルマークや、胸の識別章の番号票を除けば、すべての警察本部で『見た目は同じ』なのだ。
ただし、その着用(着こなし)の規定については各都道府県警察本部の訓令、裁量によって異なる場合がある。
現在の警察官が恒常勤務で着用している現行制服は、平成6年(1994年)4月1日から全国で一斉配備された、機能性および国民からの『親しまれやすさ』に重点を置かれてデザインされたもの。
この制服改定に伴って、それまでの木製警棒が特殊警棒になり、またけん銃吊り紐が廃止され、カールコード式に、さらにそれまで肩から斜めに吊っていた帯革(たいかく)用吊り紐も廃止されるなど、いくつかの装備品の改定が行われた。
そして、けん銃ホルスターを除くこれらカールコードや黒手錠を普段、市民の目から遠ざけるため、装備品を吊った腰の帯革(たいかく)そのものを制服の上着の下に隠し、それまでの警察官の『厳つい印象』を払しょくしようとしたのがデザイン当初のコンセプトだった。
現行制服では、着装したけん銃ホルスターを冬および合制服の上着の右腰から出すため、専用のスリット(横向きの裂け目)が入っている。
実際、このようなデザインによってスマートなシルエットに生まれ変わり、その姿はまるで守衛のようだという声のほか、とくにライトブルーになった夏服のシャツは米国警察のようだという声もあった。
基本は夏服、合服、冬服の3種類を季節ごとに衣替えをする。春から夏の時期、4月から5月の2ヶ月間にかけて着用する『合服』は冬服と同型だが、より生地が薄く、すごしやすい。合服シーズンでも、とくに暑い日などは上着を着用せずに白ワイシャツで執務できる。6月になると夏服であるブルーのシャツに衣替えするが、夏服には半袖と長袖の二種があり、個人の好みで選べる。ただし、式典など斉一を期す必要がある場合にはいずれかに統一される。
全国の警察官の制服が夏服に代わるのは毎年6月1日。だが、 沖縄県では本土との気候の違いにより、他の県警本部よりも1カ月早い5月1日に衣替えを行うのが慣例だ。このため、沖縄県警が『合服』を着用する期間は4月のみと、他県警よりも1か月短い。なお、東京から1000キロ離れた警視庁小笠原警察署の署員は一年中夏服だという(小笠原の12月の平均気温は20度前後)。
制服のフォーマットは警察庁が統一しているが、予算は都道府県ごとに違ううえ、入札に参加して納入する企業によっては各警察本部で「質」に少しばかり差が出る。なお、愛知県警では松坂屋に制服を発注している。
シャツの洗濯については自宅で自分自身か嫁か夫にやってもらう警察官が多いが、クリーニングする場合は警察署指定のクリーニング店に出す。指定しない県警もある。クリーニング代は自腹だという。
制服のエンブレム・ワッペン
警察官の制服には右上腕部分にエンブレムのワッペンが取り付けられている。夏服用のワッペンは洗濯回数を考慮して、シリコンゴム製になっているが、冬服は刺繍となっている。
このワッペン、47都道府県(さらに警察庁)それぞれで違う。
警察庁は「警察庁」、警視庁は「警視庁」、道府県警察は道府県名を金色で表記。さらにその上には、それぞれの都道府県のシンボルマークを入れる。東京都(警視庁)の場合は都の木イチョウの葉をモチーフに『TOKYO』。埼玉県警なら、県鳥「シラコバト」。栃木県警なら、県木「栃の木」。神奈川県警は鳩マークに「KP」の文字。静岡県警は富士山と県域図マークに「SP」の文字。千葉県警はCPの文字のみ。茨城県警なら県花のバラ、北海道なら道の公式章『七光星』。山梨県警は武田菱にちなんだ菱マーク。このように全国で特徴があって興味深い。
なお警察庁本省所属は日章旗。また、厳密には警察官ではないが、警察庁付属機関である皇宮警察の皇宮護衛官は「皇宮」の文字と桐紋となる。
警察官は結婚式などでは正装用の礼装と呼ばれる制服を着用できる。警察官本人のみならず、親族等の冠婚葬祭等においても、社会慣習上必要と認められる場合に限り、礼服の着用が認められる。なお、礼服はすべての警察官に貸与されているものではなく、着用する場合は警察本部総務室装備施設課に願い出て、その都度借用するのである。また、礼装時はけん銃、警棒などの装備品を着装しない。なお、自衛官や消防吏員も通常の制服のほか、礼装があり、同様に結婚式などで着用する。
女性警察官の制服
女性警察官にはスカートのほか、スラックスも貸与されており、現在では多くの女性警察官が内勤や外勤に関わらず、スラックスを着用することが多い。以前までは女性警察官がスカートを履く国は北朝鮮と日本だけと揶揄されたが、そんなことはない。
日本の女性公務員の制服のなかで女性警察官のスカートは最も短いが、その理由は街中での動きやすさだという。実は戦後すぐの時期にも女性警察官へのスラックス導入が検討されたが、GHQが却下したのだという。
出典 発見!意外に知らない昭和史: 誰かに話したくなるあの日の出来事194
ただし、女性警察官は式典でスカートの着用が定められている。また女性警察官のみ、ベストが貸与されている。
旧型制服
『日本の警察官の制服』の原点を遡れば、明治7年、警視庁が初めて導入した黒い上着と白いズボンだろうか。
警察官の制服は戦前、戦中まで詰襟型だったが、敗戦後は連合軍総司令部(GHQ)から米国警察風にするよう指導され、詰襟型から開襟のワイシャツ、ネクタイとブレザー型になり、1956年から1993年まで同様のスタイルで長らく、日本民主警察の象徴として君臨した。
ところが警察庁によれば、昭和31年まで警察官の制服は全国で統一されておらず、まずはその統一が課題だった。そして昭和43年に『時代に即したデザイン及び色調』の新型制服がお目見えし、男子の制服については同年、全国統一が完了した。
ただし、女性警察官の制服の全国統一が終了したのは、それより遅れて昭和51年になってからだった。
旧・男子用制服の特徴は何といっても肩から斜めにかけられた斜め吊革。しかし、この帯革を吊って腰回りの重量を肩に分散させるための『斜め吊革』は『前時代的で威圧的。古いデザイン』として94年の制服改訂に伴って廃止されたのは前述のとおりだ。
警察官の制服まとめ
このようにして、日本の警察官の制服は遍歴を重ねていった。なお、当然ながら警察官の制服は厳重に管理されており、員数が合わないとなれば大捜索となる。
ところが、納入前に民間企業が大チョンボをやらかす場合もある。愛知県警察の制服を納入するため、県警本部へ輸送していた配送業者が車両から段ボールごと落として紛失させる事件が2003年に起きている。また、中には制服類を横流しする警察官も存在する。2004年には愛知県警察の現職警察官が制服など装備品を他人に有償で譲渡していたことが判明している。
当然ながら、警察官など公的機関の制服やその模造品を部外者が公の場で着用することは軽犯罪法違反となる。ただし、撮影の場合は問題とならないという。
なお、『活動服』はこちらで解説している。