都道府県警察では3種類の回転式および、2種類の自動式けん銃が主流

※バナー画像は国土交通省外局の警備救難機関が配備する『サクラ』画像の出典 海上保安庁第9管区海上保安本部公式サイト

複数の銃種を携帯性や操作性、それに安定供給と価格などから総合的に評価のうえで選定する警察庁の「けん銃選定基準」。その厳しい評価試験を経て各都道府県警察に配備されるのが、今回取り上げる諸々の銃だ。

これらのけん銃は国内精密大手のミネベア、伊藤忠商事や三井物産エアロスペース、日本航空系のJALUXなど大手商社が輸入代理店になっており、JALUXはHeckler & Koch社の日本正規代理店としても知られ、海上自衛隊特殊部隊で配備されるHK416も同社経由で納入されたと見られている。警察庁ではこれら国内の輸入代理店各社を介して随意契約で銃器を購入しているのだ。

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現在、各都道府県警察で配備されるけん銃は3種類の回転式および、2種類の自動式けん銃が主流。とりわけもっとも配備数が多いのは、やはり戦後からの伝統とも言える回転式けん銃だ。

正しい射撃フォームの研究を行う女性警察官の写真。※写真は毎日新聞社公式サイトから引用したもの。

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1960年から近代まで長らく一本化され、全国の警察本部で標準的であったニューナンブM60(新中央工業およびミネベア大森製作所製造)は、90年代で製造が終了し、耐用年数の限界から徐々に用廃となり、後述の後継機種と代替される形で第一線の地域警察官からの腰からは姿を消しつつある。

その後継として2000年代初頭に「Smith & Wesson M37 Airweight」、さらに2006年ごろからはその後継として、同じくSmith & Wesson社のM360を日本警察仕様として細かな改修を施した「M360J”SAKURA”」を取得。

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全国の警察本部で地域警察官に貸与されている現行けん銃『M360J”SAKURA”』は現在も配備数が増加傾向にあり、法務省入国警備官への配備も確認された。

現在、これら3種の38口径回転式けん銃がほぼ標準として全国の地域警察官、さらに刑事部、生活安全部などの私服捜査員が主体の部署で配備されている。

ただし、一部では制服警察官でも自動式けん銃の貸与が行われ、80年代までは自治体警察時代にアメリカ軍から支給された旧装備品の45口径コルト・ガバメントを吊った愛知県警察の交番勤務員がいたほか、現在では千葉県警察成田国際空港警備隊(地域部ではなく警備部ではあるが)などで、威力の弱い32口径モデルを着装する制服警察官も見られる。

一方、自動式けん銃は刑事部の機動捜査隊などに広く配備されており、こちらは小型のP230(32口径)、そして捜査一課内に編成されている刑事というよりは特殊部隊の側面が強いSITや、組織犯罪対策局の捜査員、テロなどの重大事案に対処する警備部機動隊の各種機能別部隊には、より威力の強いM3913(9㎜口径)という二種のけん銃を配備している。

月刊Gun Professionals 2015年9月号
なお、戦後から近代まで日本警察が使用した旧式に分類されるけん銃は警察の銃器.3(旧装備編)として別項にて紹介している。

ミネベアミツミ株式会社(旧・ミネベア株式会社)

かつての新中央工業を吸収合併し、銃器の生産を引き継いだ国内精密最大手のミネベアミツミ株式会社(旧・ミネベア)では、警察庁および防衛省自衛隊向けのけん銃、機関けん銃を製造、納入している。

ニューナンブM60

ニューナンブM60は現在のミネベアミツミが新中央工業を買収する以前、同社によって開発された5発装填の官用38口径回転式けん銃だ。1960年に警察庁に配備され、各警察本部に配分されたほか、法務省の刑務官、海上保安庁、麻薬取締官等でも配備され、国産官用けん銃の雄として広く治安の一翼を担った。その後、新中央工業はミネベアの特機部門に吸収合併されて消滅し、ミネベア大森製作所が最終製造まで担当。

署長による装備品点検の様子。署員が着装しているのは3インチのニューナンブM60。引き金の後ろには不意の暴発を防ぐための『安全ゴム』と呼ばれる部品が押し込められていることにも留意。制服や手帳、けん銃など日常業務を行う上で欠かすことのできない装備品は所属署の署長により厳しいチェックが行われる。写真の出典 宮古毎日新聞社『合い服に衣替え/宮古島署』http://www.miyakomainichi.com/2013/11/56395/

 

『安全ゴム』に見る日本警察のけん銃管理

ニューナンブM60の原型はアメリカS&W社のM36チーフスペシャルだが、完全なる複製ではなく、全体的にやや大きく再設計されている。

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ニューナンブM60には制服用の3インチ(77ミリ)長銃身および、幹部(あるいは私服用とも)用の2.5インチ(51ミリ)短銃身の2種がある。

90年代にグリップ下部を延長して小指をかけやすくした新型グリップに換装されるなど、若干の近代化改修を受けつつ、長らく警察用回転式けん銃として第一線で配備された。

しかし、現在では老巧化から配備数も減り、後述する後継銃種に転換が進んだ。

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ただし、皇宮護衛官、海上保安官、法務省の刑務官、厚生労働省のマトリでは今もニューナンブM60が主力として配備されている。なお、マトリのおとり捜査ではベレッタM85を使用する場合もある。

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余談だが、自衛隊の中の司法警察である警務隊では当時コルト・ディテクティブ・スペシャルを配備しており、ニューナンブM60は自衛隊で配備されなかったものの、実は新中央工業ではニューナンブM57という自動けん銃を自衛隊に試作として提示したことがある。しかし、こちらも採用・配備には至らなかった。

ニューナンブM60の口径は警察の法執行用けん銃の口径としては威力も必要以上に強くなく、最もポピュラーな38口径(.38スペシャル)だが、2006年に起きた堺市南区和田東の盗難車逃走事件では、パトカーに体当たりを繰り返してきた盗難手配中のトヨタ・ランドクルーザーの横っ腹を軽く撃ちぬいて男性被疑者の脇腹に警察官が命中させ、法を執行している。

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銃の弾丸を『実包(じっぽう)』と呼ぶが、日本警察で配備する銃に使用される弾丸は「執行実包」と呼ばれる。その口径や種類、そして威力もさまざまだ。特別な実包の例として、国際線旅客機に私服で警乗する警視庁などのスカイマーシャルは、万が一の発砲の際、機体に穴を開けないため、けん銃に「フランジブル弾」を装てんしている。

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新中央工業ではニューナンブM60の海外販売も視野に入れていたようで、”ニューナンブ・サクラ”という競技用モデルをも試作した。銃身を伸ばし、アジャスタブル・サイト、木製のターゲット・グリップ仕様だが、結局は試作に終わり、海外販売されずに終わっている。なお、サクラの名称は現代になって後述のM360J”SAKURA”として返り咲く。

もし、海外販売されていたら「ポリスリボルバー・ニューナンブ・サクラ」になっていたのか。

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“ニューナンブ”が登場する作品

ニューナンブ (講談社文庫)

社会正義の象徴、”警察のシンボル”としてのニューナンブM60は現代警察小説でも多数登場する。

大沢在昌の『新宿鮫』では主人公の鮫島警部に敵対する密造銃作りの天才こと、木津要(きづ かなめ)が、鮫島警部からニューナンブM60を奪い、チーフスペシャルのコピー商品であるニューナンブを「コピーするならちゃんとコピーすりゃいいものを。できそこないだよ。このニューナンブ(M60)ってやつは」と貶しつける描写がある。

まさに主人公の鮫島警部も「俺に言われても……新中央工業の人に言ってくれ」と、内心思っただろうが「だったら返してもらおうか」とクールに一言。セリフ回しもさすが東大卒キャリア。なお、木津も『返してやるよ。頭に一発』と一言。

こちらは沢田研二が演じる冴えない中年巡査部長がニューナンブを盗まれ、様々な人々の人生を交差させる1988年公開の『リボルバー』。

【せつなさ炸裂】一挺のニューナンブM60と共に人々は南から北へ駆けた。1988年公開の邦画『リボルバー 』

一方で、作品の題名にもなっている鳴海章の「ニューナンブ」では「アメリカ製の拳銃なんてイモだよ。ニューナンブこそ、ニッポンのお巡りさんの象徴だと思わないか。」というニューナンブを肯定する一文もある。

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では、次のページにて、アメリカ製Smith & Wesson製のけん銃を紹介しよう。