記事タイトルバナーの出典 ANN NEWS『銃乱射しながら男乱入……高校生研修会場でテロ訓練(16/03/14)』
普段街中で見かける地域警察官が携行している銃は多くの場合、38口径の回転式けん銃だが、機動隊の各機能別部隊や特殊部隊SATになると、けん銃よりもはるかに強力な威力を持つ軍用のサブマシンガンや自動小銃、それに狙撃銃、対戦車ライフルまで幅広く配備している。
当然、並みの地域警察官ではこれらの銃器を扱うことが許されず、特別に訓練を受けて取り扱いを許された指定警察官のみが扱える。そして彼ら特別な警察官だけが扱うこれらの長物を「特殊銃」と呼ぶ。
それでは銃種ごとに解説していこう。
特殊銃その1、機関けん銃
現在、我が国の警察で『機関けん銃』の名称で配備されるのはアメリカや先進国の法執行機関で広く配備されるドイツ・H&K社製の短機関銃『MP5』である。
その姿が初めて公になったのはサッカーワールドカップを控えた2002年5月10日、警察庁がメディアに公開した警視庁特殊急襲部隊SATの訓練映像だ。同訓練映像の中で濃紺のアサルトスーツを身にまとったSAT隊員が携行していたMP5は伸縮式銃床を備えた9ミリ口径の30連発モデル。
MP5は武装強盗や立てこもりといった軽度テロ事案など、警察機関対応相当の事件への法執行に最も適した高性能の特殊戦術用火器と呼び声高く、世界各国の警察機関から絶大な支持を得ている。MP5の成功の理由の一つに、ローラーを利用してボルトの後退速度を低下させることで発射の衝撃(リコイル)を和らげるローラー遅延式ブローバック方式がある。
MP5が主流となる以前のサブマシンガンでは反動の大きいストレート・ブローバックが主流であった。すなわち、銃身が短く携行性が容易なサブマシンガンは、弾丸を広範囲にばらまく”面制圧”は得意だが、単発による精密射撃、すなわち狙撃には向いておらず、場合によっては人質を受傷させる危険性をもはらんでいたのがMP5以前のサブマシンガンの常識だったのだ。
MP5のローラー遅延式ブローバックは『射手が意識して発射弾数を制御することが困難である発射速度の高いサブマシンガン』の欠点を補えるため、良好な命中精度と集弾性を実現させている。
とくに単発射撃では精度の高い簡易狙撃銃としても使えるため、特殊部隊で運用される場合はスコープやダットサイトなどの光学照準器を搭載するのが主流だ。
実は秘密裏に編成された特殊急襲部隊SATの前身組織である警視庁第六機動隊の特科中隊SAP、そして大阪府警の零中隊では当時から配備が行われており、現在では都道府県警察の機動隊/銃器対策部隊/SATなどにMP5AやMP5Fと見られるモデルなど、複数のバリエーションのモデルが配備されている。さらに皇宮警察、海上保安庁や海上自衛隊特殊部隊もMP5を配備している。
日本で配備されるMP5の仕様は?”MP5J”という呼び名は間違い?
いまやMP5は日本でも法執行機関や国防組織の作戦遂行に欠かすことのできない装備品となった。しかし、警察庁が配備する正確なモデル名については不明な部分がある。
前述の2002年に公開されたSATの訓練動画ではほとんどノーマル然とした外観だったMP5だったが、現在ではレイルシステムにフォアグリップ、フェイスシールドを下ろした隊員でも銃を構えやすくしたスイスB&T(Brugger &Thomet ブルッガー&トーメ社)の湾曲ストックまで換装されている。
では、日本警察が配備するMP5は既存のどのモデルなのだろうか。しいて言えば、MP5A5をベースにした日本政府の特注バージョンだと推測されている。
Heckler & Koch社では自動車の様に細かなオプションを指定できるため、各国警察が予算や目的に合わせて要求したそれぞれのご当地MP5が出来上がる。
これについては日本警察仕様MP5を『MP5J』としてモデルアップしている大手トイガンメーカー『東京マルイ』が、あくまで報道資料に基づいたデータからの憶測であると断りを入れながらも、以下のように詳しい見解を示している。
当初その特徴的なリトラクタブルストックの形状からフランス向けに開発されたMP5Fと報道されたが、日本警察仕様MP5とは異なる。このため、日本警察のMP5は内部機構的にはMP5A5をベースに、新型外装パーツに換装した日本独自仕様であると思われる。しかしながら、MP5Fの強化ボルトグループはすべてのMP5と互換性があるため断定は出来ず、この見解は憶測に過ぎない。あるいはMP5F A5と呼ばれるモデルかもしれない。
出典 株式会社 東京マルイ公式サイト
https://www.tokyo-marui.co.jp/pdf/p_pdfmanual_121127152144.pdf(内容を要約し出典を明示して記載する「間接引用」を行った)
さらに、MP5Fであるという見解を裏づける根拠として同社が挙げているのが、各国の警察機関からのお見積もりに対してH&K社が現在提案しているのがMP5Fであるらしいという理由だ。それが事実であれば、当然日本も例外ではないだろう。
つまり、日本警察のMP5はMP5A5をベースに新型パーツに換装されたタイプ、またはMP5Fのバリエーションのうちの一つ、MP5F A5である可能性が高いというわけである。
あとはスイスB&T(Brugger &Thomet ブルッガー&トーメ社)のハイマウントベースを咬ませてEotec社製のホロサイトを取り付け、テプラで『○×県機動隊 備品管理番号×××』と貼れば日本警察版MP5の完成だ。機動隊や特殊部隊SATではそんな高性能機関けん銃がいくつもしまってあるんだぜ。
つまり「MP5-J」は東京マルイが日本警察仕様のMP5を同社の見解と考察の元でモデルアップしたエアソフトガンの商品名であり、H&K社の実際の製品名としては公式に存在しない。なろう系ラノベなどでうっかり「MP5J」などと書かないよう注意したいところ。それはお前だろ。
ただ、警察の公開訓練では模擬銃として東京マルイ製のMP5-Jが頻繁に使われており「日本警察が使っているのはMP5-J」というのも、あながち間違いではないのかもしれないが(なお、M3913の模擬としてウェスタンアームズのM4013TSWも使用していた)。
なお、取り付けられたカスタムパーツは意外と豊富で、警視庁が公開した訓練ではフォアグリップの付いたMP5も配備されていることが明らかになっている。
一方、MP5は主に警備部の機動隊の装備でありながら、警視庁では刑事部である捜査一課特殊班SITにも単発モデルのMP5(SATマガジンでは本銃をMP5SFKと呼称)を配備している。
2013年5月13日に放映されたドラマ「確証~警視庁捜査3課」ではSATとSITの対立や確執を描いていた。2ちゃんねると、その派生サイト(ニコニコ動画)でSATの動きが生中継され、ネット住民の妨害に警察が踊らされたり、途中でどこかのオバサンが作戦指揮室へおはぎを差し入れに入ってくるという、ある意味、放送事故を伺わせ、もはや黒尽くめのSAT隊員の姿もコミケ会場で無職を鼓舞する自宅警備隊にしか見えなくなった。両者の銃器の違いの考証は、両者の任務の違いを際立たせる意味からも、もはや不可欠なのだが……。
また、映像で公開されていないMP5もある。『警視庁・特殊部隊の真実』(伊藤鋼一・著、大日本絵画、2004年)に記載された情報によれば、サイレンサーが標準搭載されたMP5SD6や、限界まで銃身を切り詰めてストックも廃止したMP5Kも配備されていたそうだ。
「取り出し」、「連射への設定変更」、「使用」などは指揮官の許可が必要
通常、特殊急襲部隊SATではMP5の安全装置であるセレクターレバーをセーフモードにして安全管理を徹底しているが、法執行中であっても単発射撃を基本とし、隊員の個人判断で連射にレバーを切り替えることは許されず、状況がひっ迫して命令・指示を受けられない場合を除いて、連射モードへの切替は指揮本部の許可が必要になるという。
HK Slap
映画でMP5が登場する作品は多いが、それらの映画では弾丸を装てんする際にコッキングハンドルをひっぱたいて、少々手荒に前進させるシーンがある。この動作をHK Slapと呼ぶ。HKSlapはMP5のもはや「お約束」シーンだが、実際そのように勢いよくボルトを前進させないと弾丸がスムースに薬室に入ってくれない。映画の真似をして東京マルイでやるとハンドルが根元から折れる。
暴発事故
一方、MP5の暴発事故が全国の警察で発生。玄海原発では警戒任務に就いていた機動隊員が暴発させ、大阪府警では訓練中に機動隊員が自らの足を撃ち抜いたほか、2004年には皇宮警察でもMP5を誤射させるなど事故が発生している。
特殊銃その2、狙撃銃……高性能な害獣駆除用ライフル
日本警察における狙撃手は、機動隊の原子力関連施設警戒隊など、各種機能別部隊ならびに特殊部隊SATに配属されている。
日本警察の狙撃手がもっとも多くの注目を集めた事件は1970年のぷりんす号乗っ取り事件だ。同事件の被疑者は盗んだライフル銃を船上から発砲するなどしたため、広島県警本部長の命令により、派遣されていた大阪府警の狙撃手によって被疑者は制圧された。その際に狙撃手が使用した銃が、単発式のボルトアクションライフル「豊和ゴールデンベア」であった。
現在の都道府県警察が配備している狙撃銃は複数で、ボルトアクション式の単発ライフルからセミ・オートの超高級半自動式ライフルなどがある。
主に下記の4つのタイプが配備されている。
警察が配備する狙撃銃その1「豊和M1500」
ホーワ(豊和工業)M1500は、同社のゴールデンベアをフルモデルチェンジした高性能の民生用ライフルだ。現在、警察ではM1500シリーズの中でも「バーミンター仕様」と呼ばれる銃身が太くなったヘビーバレルモデルをSATや銃器対策部隊などで配備。ウェザビーMk5ライフルを参考として製造されたオーソドックスなボルト・アクション式のライフルで、日本国内はもとより外国でも評価が高い。なお、警察部内での制式名称は「特殊銃I型」となっている。
警察が配備する狙撃銃その2「PSG-1」
軍事専門誌『SATマガジン』2009年1月号によれば、警視庁特殊部隊SATでは自動式狙撃銃であるHeckler & Koch製PSG-1を使用しているという。
PSG-1は半自動式高性能狙撃銃で、一発ごとに装填のための操作が必要なボルトアクションライフルに比べ、素早く目標に連続射撃が可能。精度は良好だが、高価なために世界では予算不足により買えない警察や軍隊があり、それでも欲しいという場合には廉価版のモデル『MSG-90』でお茶を濁している。
警察が配備する狙撃銃その3「L96A1」
こちらも前述の『SATマガジン』2009年1月号による情報だが、警視庁SATでアキュラシーインターナショナル製品のL96A1が配備されている。L96A1はイギリス軍が配備するボルトアクション式精密狙撃ライフルで、口径は複数ある。米軍も運用している。
警察が配備する狙撃銃その4「対物狙撃銃」
前述した三つのモデルについては、いわゆる「対人狙撃銃」と呼ばれる種類だったが、対人狙撃銃以外にも日本警察では対物狙撃銃(アンチ・マテリアル・ライフル)としてアキュラシー・インターナショナル製の対戦車ライフルまで配備されていると一部で指摘されている。
一般に、対物狙撃銃(対戦車ライフル)は、戦車や装甲車などの装甲車両を攻撃するための兵器で、弾丸は重機関銃に使用される12.7ミリや、戦闘機の機関砲にも使用される20ミリ口径など、より威力が強い大口径弾薬を使用する。
ただ、警察の特殊部隊にこのような対物狙撃銃が配備される理由は、航空機に対するハイジャック対策などが主であり、航空機のコックピットのキャノピーを貫通させるだけのエネルギーを持った対物狙撃銃は世界各国でも広く配備されている。
特殊銃その3、自動小銃
日本警察でもアサルトライフル、すなわち軍用自動小銃を配備する。基本的には自衛隊で使用されている2種類の国産小銃だ。
特殊部隊SATが配備する自動小銃……その1「64式小銃」
過去、警視庁の特殊部隊SATの前身部隊である「SAP(Special Armed Police)」では自衛隊で制式配備されている64式小銃を配備していたという元SAP隊員の証言がある。64式は7.62ミリ弾を二十発装填する小銃だが、すでに陸上自衛隊の第一線部隊では後継の89式にほぼ更新されている。ただし、海自と空自、それに海上保安庁の第一線では今なお現用装備品。
本体はフル金属、ストックは木製。二脚を使用した精密射撃も可能で、自衛隊では照準眼鏡を取り付けて狙撃銃に転用されるほど命中精度は良好。陸上自衛隊では現在、ボルトアクション式のM24を新規配備しているが、M24の配備が完了していない部隊では64式を狙撃銃として使う。
現在のところ、公開訓練で64式を持ったSAT隊員が確認されたことはないが、装備の更新がなされていなければ、SATでも引き続き配備されているものと思われる。ただ、軽量小型の89式やホーワの高性能ボルトアクションをすでに配備している現在のSATでは、あえて64式を使うような場面があるのかは不明だ。
特殊部隊SATが配備する自動小銃……その2「89式小銃」
警察庁作成の資料に「SAT装備品」として、89式が記載されていたことにより配備が判明。
こちらも主に陸上自衛隊と海上自衛隊、それに海上保安庁で配備されている日本政府専用公用ライフル銃。主に陸自の機甲部隊員、偵察隊員、空挺団、海上自衛隊の特殊部隊が使う折り畳みストック型と、一般隊員用の固定ストック型がある。64式が7.62ミリだったのに対し、89式は5.56ミリ弾を使用。また、プラスチックを多用することにより、64式よりも大幅に重量を軽減でき、装弾数も64式の20発から30発に増加。
さらに特筆すべき機能として3バースト機構が標準で搭載されており、指切りに頼ったバースト射撃では難しい、正確に3発の銃弾を撃ち込む射撃が可能となり、警察の対テロ任務にも最適と言えそうだ。
新たに銃器対策部隊へも小銃を配備へ
前述したように、これまで日本警察による自動小銃の配備は特殊部隊SATのみに限定されていた。
しかし、2015年12月、警察庁はパリのテロ事件などを受け日本国内でもテロの危険性が高まっているとして、都道府県警察機動隊の中に編成されている銃器対策部隊、とくに都市部の部隊へ自動小銃を配備することを決定したと発表。
警察庁は、銃が使われるテロ事件の初期的な対処に当たる部隊の装備を大幅に拡充することを決めた。パリ同時テロ事件を踏まえ、大都市を抱える都道府県警の銃器対策部隊に、戦闘力の高い自動小銃を配備。防弾車両も大幅に増やす。2015年度補正予算案に緊急テロ対策費として76億5500万円を盛り込んだ。銃器対策部隊は47都道府県警の機動隊に設置され、原発の警備にも当たっている。全国に約1900人おり、サブマシンガンやライフル銃を携帯している。自動小銃は現在、特殊部隊(SAT)しか保有していないが、テロの脅威が高まったことを受け、銃器対策部隊にも導入する。
典拠元/時事通信 12月18日(金)17時15分配信
http://headlines.yahoo.co.jp/hl?a=20151218-00000124-jij-pol
日本国内で重武装のテロリストによる同時多発的なテロが起きた際、少数しか編成されていないSATでは対処困難であるとして、SATが現場まで駆けつけるまでの繋ぎを目的に銃器対策部隊に対応させるという。
現在、SAT隊員は全国の警察本部をあわせると300名程度。対して銃器対策部隊はそれを上回る2000人規模。銃対のメインアームズもSATと同じくMP5(けん銃と同じ9ミリ弾を使用)だが、今回の自動小銃配備により、さらに強力な戦闘力を持つことになると見られている。
ただ、自動小銃は現在SATが使用する89式なのか、それ以外のモデルを新たに調達するのかは不明。89式小銃の自衛隊への納入価格は調達数にもよって変動するが、約25万円前後とされる。
米国の警察機関の多くでは、すでにMP5から米軍の現行小銃M4が主流だ。これは犯罪者側の防弾装備強化が進み、9ミリ口径のMP5では対処が困難になっている現状も理由だが、我が国の陸上自衛隊でもすでにM4カービンを米国からFMSで調達し、一部の部隊で配備していることが発覚している。
しかし、自国産業の保護や、すでに警察が配備している89式小銃を蹴ってまで、M4を調達する可能性は低いのではないか。警察用としては威力の強すぎる64式とも思えないが、陸上自衛隊で退役した64式が警察に譲渡される可能性があるかもしれない。
警察の特殊銃まとめ
このように、現在の日本警察の武装はけん銃だけでなく、サブマシンガンや自動小銃、それに狙撃銃など、軍隊と同じ装備が『特殊銃』としてズラリと配備済みだ。
しかし、これら特殊銃は市民の前にあらわになることは少ないだろう。テレビの報道で公開訓練が流れることも多いが、その半数、いや多くの場合において、特殊銃は実銃ではなく模擬銃である。とくに昨今では事業者施設内において民間人との協同訓練が多く、なおさら模擬銃が使われる傾向にありそうだ。また、現状では原発の警備を行う原発特別警備部隊でも”むき身”でMP5を携行したりはせず、普段はケースに入れて携行しているという。
しかし、2015年にはイスラム国から日本国および日本人に対する宣戦布告が出されたため、日本国内の治安情勢もより一層緊迫感が増し、警察の警備も強化されており、すでに欧米では常態化している『制服警察官が街中や空港内で短機関銃を抱えた姿』を見かけるのも時間の問題なのかもしれない。