警察官の警察手帳がバッジホルダー式およびカード型用紙の証票タイプに変更された本当の理由

警察手帳とは、全警察官に貸与されている装備品のひとつであり、警察官の公的な身分証明書だ。

1935年からすべての警察本部で基本的な様式が統一され、2002年までほぼ同じ様式が継承されていた警察手帳は、2002年から米国の法執行機関であるFBIのバッジを参考としたバッジホルダー式に変更された。

それではまず、旧型警察手帳から順を追ってその変遷の歴史に迫りたい。

旧型警察手帳(1935~2002)

h4otheritemline

黒い革製表紙に旭日章、そして金文字で「警察手帳」という表記はかつての刑事ドラマでお馴染みだったが、実物は「警察庁」または各都道府県警察名が金文字で表記されていた。

旧型警察手帳は一見、黒色の革製だが、警察庁の公式サイトに記載されている公式説明では、旧型も現行の警察手帳も黒色ではなく『チョコレート色』としている。

旧型・警察手帳

上記の画像は神戸新聞社公式サイトから批評および研究目的で引用した。

引用元 https://www.kobe-np.co.jp/rentoku/machiaru/201802/0010950909.shtml

中身には写真付きの身分証のほか、取り換えが可能なメモ冊子を挟み込むことができるなど、システム手帳のごとき利便性が特徴だった。

警察官『旧・警察手帳付属のメモ用紙は使わなかった』

旧型警察手帳で採用されていた『メモ冊子機能』だが、新型警察手帳からは消えてしまった。神戸新聞社公式サイトによれば、警察庁広報室はこの理由について『警察官は使っていないので廃止した。現場の警察官の意見を反映した結果だ』とバッサリ。一方、兵庫県警察幹部警察官によれば『書きにくいので別のメモ帳を用意して使っていた』と答え、苦笑したという。旧型警察手帳に付属していたこのメモ用紙、実際には警察官にとって『利便性』など皆無だったようだ。

新型警察手帳(2002~現行)

2002年になると旧型の警察手帳から形式が大幅に変更され、形状が見開き縦型本体になった。

これはアメリカの警察官や各法執行機関の執行官に貸与されている”バッジホルダー”式の身分証である。

警察官の官名(所属警察本部および階級)や氏名を記載した証票ならびに警察のエンブレムである記章を同時に相手方に提示できるようにしたのだ。

警察庁公式サイト内における概要解説によれば、新型警察手帳は『カード型用紙の「証票」に階級、氏名、写真、手帳番号を表示するとともに、偽造防止のためのホログラムを貼付』という要旨が記載されている。

証票は手帳の上半分に収納し、顔と制服姿の上半身の写真が載る。

そして、手帳の下半分にはツヤケシの高級感あるエンブレム(正式にはこの部分を記章と呼び、各警察本部名が明記された金属製)になっており、手帳をたたんだ状態では警察の表記は外側から一切見えないように配慮されている。

そのため、必ず警察手帳を開いて中身の”記章”と”身分証”の両方を相手に提示しなければ、確実に警察官であるという身の証を立てられない仕組みに変更されたのが最大の特徴だ。

警察手帳が旧手帳型から縦開きホルダー型に変更された理由とは?

もともと、旧型警察手帳もドラマと違って実際は表紙ではなく、中身の証票を相手に提示することが規定で決められていた。

しかし、現実の刑事でも表紙だけ見せて、中身の身分証と顔写真を見せない場合が多く、これが『警察官の匿名性』として問題とされたのである。

その『警察官の匿名性』が不祥事として問われた事件は以下の記事で解説している。

不祥事予備軍の素行不良警察官を追い出して警察組織を守れ!警察内部調査の鬼こと監察官とは?

このように警察では平成14年10月、実に67年ぶりに警察手帳の様式を抜本的に見直し、それまでの表紙に都道府県警察の名称が表記された従来の警察手帳の様式から、警察手帳を開かなければ写真や階級および氏名、認識番号の記載された証票および記章を提示できない様式に変更した。

警察手帳の様式変更後、現場の警察官からは「自己の責任を再認識して勤務するという自覚が高まり、以前よりも市民応接の際の意識が向上した」など、規律向上につながったという意見が警察庁に寄せられたという。いわゆる市民との良好な信頼関係の醸成である。

この警察手帳の様式の変更による『警察官の匿名性』の排除こそが、新型警察手帳のもっとも評価されるべき点と専門家は捉えている。

なお、警察庁公式サイトに掲載されている警察手帳の公式説明文章には『現行の警察手帳はエンブレムが重いので開きやすい』という要旨が記載されている。開きやすいから提示しやすいと深読みしてしまうが。

また、海上保安官や自衛隊の警務官、厚生労働省の麻薬取締官も司法警察権を行使することが認められており、彼らも身分を明かすため、現行の警察手帳とほぼ同じ様式の各身分証を貸与されている。

画像の引用元・ライブドア

旧日本軍の中の司法警察である憲兵隊や、戦後の警察以外の司法警察(麻薬取締官や自衛隊警務隊など)でも基本的には警察の旧型警察手帳と同様のスタイルであった。左の画像は特別司法警察職員たる麻薬取締官に貸与されている新旧の実物の「麻薬取締官証」(現行名称:麻薬司法警察手帳)。昭和28年から貸与されていた旧型の『麻薬取締官証』の表紙には警察と同様の旭日章の中央に『麻』の文字と、その下には『麻薬司法警察』と縦書きされていた。一方、平成15年10月1日から現行で貸与される『麻薬司法警察手帳』は、現在警察官が貸与される現行の警察手帳と同様に、縦開きのバッジホルダー式になっており、記章には中央に旭日章を配し、その下に英語で『NARCOTICS AGENT』および日本語で『麻薬取締官』の官職名が表記されている。都道府県職員の「麻薬取締員」に貸与される麻薬司法警察手帳についてもほぼ同様式だが、記章に記載の官職名は『Narcotic Control Officer 』および『麻薬取締員』となる。

アメリカのPOLICEバッジとの違い

アメリカの警官に貸与されているポリスバッジと日本の現行型警察手帳、様式はあまり変わりがないように見える。

しかし、ニューヨーク市警やロス市警など多くの警察では、バッジそのものに各オフィサーの認識番号が刻印されており、日本警察ではバッジではなく証票に警察官の識別番号が記載されている点が異なる。

ただし、神戸新聞社の報道『警察手帳は「手帳」じゃない? FBI参考、身分証明に特化』によれば、日本警察が参考にしたのは米国の警察官のバッジではなく、FBI(連邦捜査局)のバッジである。FBI(連邦捜査局)捜査官用バッジもエンブレムに認識番号はない。

神奈川県警察機動捜査隊員は腰のベルトに折り返して挿し込むという、小粋なスタイルも警察24時系番組にて披露していた。

ところで警察手帳といえば、私服勤務員、いわゆる刑事だけが持つのだろうか。実は制服の地域課員や鑑識など、勤務中の警察官はすべて着装する義務があり、制服警察官であっても、警察官が市民から警察手帳の提示を求められた場合は提示しなければならない。

警察手帳の亡失時の『手配』とは

各都道府県警察本部が警察手帳の取扱いに関し必要な事項を定めている『警察手帳規定』によれば、警察手帳の管理状況の確認は所属長によって毎月1回以上行うと決まっている。ただ実際には、装備品を着装したあとの装備品点検が毎朝行われており、警察手帳の紛失などはすぐに発覚する。

当然、警察官が警察手帳を亡失等した場合は速やかに所属長に報告しなければならない。

万が一、警察手帳の紛失が発覚すると、すぐさま所属長経由で本部長の耳まで届く。そして次に行われるのが『手配』である。

警察手帳には警察官の氏名や顔写真などが載っているため、紛失した警察官の氏名や所属が全国の警察本部に知れ渡るのだ。

この『亡失警察手帳の手配』は各都道府県警察本部の警察官たちへ警察手帳の管理の徹底を再認識させる狙いもあるのだろうか。

後日、警察手帳を亡失した警察官には不祥事の責任として『戒告処分』が行われるが、懲戒免職とはならない。ただし、警察官は大きなミスを犯すと、その時点でほぼ出世の道が絶たれるため、処分を受けた当日に依願退職をするのが慣例。警備会社の警送隊員としてジストス片手に第二の人生がスタートだ。

警察官は非番でも手帳を持つ?

これについては各都道府県警察の内規により、対応はさまざまだが、勤務が終われば警察署の金庫で厳重保管される場合が多く、勤務時間外に警察手帳を持つことはほとんどない。

一方で、警視庁など一部では非番時も犯罪や事故に遭遇した場合は警察官が対応できるように、あえて非番でも警察手帳の携帯を認める、あるいは推進している場合もある。

実際にそれが確認されたのは秋葉原無差別殺傷事件。

同事件では被疑者が警察官に追跡された上で袋小路に追い詰められた際の映像が報道されているが、被疑者を警察官が取り押さえる際に加勢したのが、たまたま秋葉原に来た非番の蔵前署員だった。同署員は警察手帳を提示して、自分が警察官であると身の証を立ててから、被疑者の体の上にのしかかって身柄の確保に協力した。

このように警視庁では非番でも自己の管理責任のもと、警察手帳を持つ運用が取られることもある。

ただし、警視庁の警察官宅に空き巣が入り、自宅保管してあった警察手帳が盗まれるという事件が2014年に発生している。このような事情から勤務時間外に警察手帳を持つことを忌避する警察官もまた多いのが現状だ。

一方で、都道府県警察によって明確な違いがあるようで、一切持たない警察本部もある。たとえば福岡県警察本部では公式ウェブ上で『非番でも警察手帳(ならびに手錠)を持ち歩いているの?』という問いに対して、完全否定した。

休日(非番の日)でも警察手帳と手錠を常に持ち歩いている

それはありません。
基本的には、仕事以外の時は、警察手帳などは持っていません。

引用文献
http://webcache.googleusercontent.com/search?q=cache:fc7BVvd8FocJ:www.police.pref.fukuoka.jp/fukuoka/kasuya-ps/kokogatigauyodoramatogenjitu.html%3Fprint%3D1%26temptype%3D1%26laytype%3D0%26itemtype%3D0+&cd=4&hl=ja&ct=clnk&gl=jp

このように福岡県警では『ウチはウチ。警視庁さんは警視庁さん』とばかりに明確に否定している。

なお、アメリカのニューヨーク市警では非番時や公休日であっても、けん銃とポリスバッジの携帯が義務化されており、持たないという選択は特別な事情(店で強い酒を飲む場合などは銃を携行しない)を除いて基本的にはない。

警察手帳のカバーがある

手帳の革にキズがつくのが嫌だという警察官はビニールカバーをかけている。

警察手帳のまとめ

警察手帳の歴史、とくに現行手帳の様式に変更された理由を簡単に説明させていただいた。

余談だが先日、衛星放送のTBSチャンネルで平成13年に放映された月曜ドラマスペシャルの『陰の季節2・動機』の再放送を視聴した。

主人公の警視が提案し、試験導入された『警察手帳一括管理方式』をめぐって、保管されていた警察手帳30冊が盗難されるという事件が発生。警察手帳を本署で一括管理されることが気に食わないとして、所轄署の刑事が『それ見たことか』とばかりに警視に嫌みを飛ばすシーンがあった。

http://www.tbs.co.jp/tbs-ch/item/d0581/

万が一、警察手帳が盗まれでもして不正利用されると大変な不祥事となる。基本的には勤務終了後、署内の金庫に保管されることが多い一方で、警察本部によっては勤務時間以外でも持つことを推進するなど、さまざまな運用があるようだ。

そして、紛失防止のため、公休日はできるだけ警察手帳を持ち歩きたくないのが現職警察官の本音のようだ。