デジタル変調方式の現行警察無線に関して言えば、もはや技術的に傍受は不可能だが、無線を聴いて、いつどこで誰がどんな通信を行ったか漏洩してはならないことは電波法で定められている。
この電波法の原則は警察無線に限ったことではなく、一般の業務無線にも当てはまる。
したがって、たとえ実際の交信を聞いたとしても、雑誌などに掲載する場合は本当の無線局名は明かせないし、内容もある程度ファンタジーを織り込んで細部を変え、ラノベに仕上げるのが一般的だろう。
当サイトでも過去、ラジオライフ1982年11月号の企画『電波法はキミのもの!!-警察無線の傍受は処罰されない-』を参考文献として、瀬戸英雄弁護士の見解を紹介した。
同弁護士の見解では、例え実際の警察無線であってもドラマに使うことに問題はないとしてるが、具体的にどこの誰がどのような状況で発信した無線を使っているのかがわからないような取り扱いがされていること、という前提条件を示している。
警察無線の交信を録音して売ると電波法違反(秘密漏洩)
傍受した内容を漏らしてはいけないのが当然なのだから、その無線交信自体を録音して売っていいはずはない。だが、売る人間もいる。
1986年2月号のラジオライフ誌には警察無線の交信録音テープが一本10万円で売買が行われている例があると紹介されている。
2002年には小遣い稼ぎ目的なのか、警視庁の交信テープを個人販売していた男が摘発されている。
警察無線の交信内容テープを販売した男が逮捕 秘密を漏らしちゃダメ
警視庁は23日、警察無線を傍受してカセットテープやMD、CD-Rなどに収録し、インターネット上で販売していたとして、東京都大田区に在住する30歳代の男を電波法違反(秘密漏洩)の疑いで逮捕したことを明らかにした。
警視庁は23日、警察無線を傍受してカセットテープやMD、CD-Rなどに収録し、インターネット上で販売していたとして、東京都大田区に在住する30歳代の男を電波法違反(秘密漏洩)の疑いで逮捕したことを明らかにした。
警察の調べによると、この男はいわゆる無線マニアで、警察用として使われている周波数帯をキャッチできる受信機を使い、傍受した交信内容を収録したテープなどを1本2000円から5000円程度で販売していた疑いが持たれている。
中略
こうした業務用無線の交信内容を傍受すること自体に規制は無いのだが、それを第三者に伝える行為は禁止されている。今回の検挙理由も「秘密を漏洩したこと」となっている。
警察無線の音源を売っていた男はアナログ警察無線時代に傍受した基幹系・高速系・署活系等の警察無線の交信録音を売るという宣伝を自分のサイトに出していたほか、同種の音源との交換も受け付けていた。
ウェブアーカイブされた男のサイト上にある「録音テープ・CDリスト」には80年代から90年代にかけての警視庁の基幹系や高速系の交信が多い。
さらにはクリントン米大統領来日時の警備に関するきわどい交信もある。同大統領の来日は96年であるため、すでに基幹系はデジタル化されていたが、機動隊の使用していた部隊活動系はアナログだったため、傍受出来たのだろう。この部隊活動系も含め、警察無線はすでにデジタルになっており、傍受は不可能。
男は「デジタル化により二度と聞けない貴重な警察無線です」などの煽り文句で、これらの無線交信を音楽CDやMP3ファイル形式にして、2000円で販売していたようである。
この事件は2002年の事案だが、比較的近年の2019年でも警察無線の交信をネット上に漏洩させた人物が電波法違反(無線通信の秘密漏えい)の疑いで書類送検されている。
しかし、過去の事件と決定的に違うのは傍受、録音した大元の人物が現職警察官、すなわち内部流出だった点である。
これはもはや当然と言えば当然である。冒頭で申し上げたとおり、警察無線は市販の受信機で部外者が内容を解読できない極めて高レベルのデジタル変調方式になっている。
すなわち、流出したとすれば、大元は警察関係者かそれに近い人間となる可能性が高い。
2019年の事件に関しては「ラジオライフ」誌編集部員の関口岳彦氏が以下のように産経新聞のインタビューに答えている。
無線に詳しい「ラジオライフ」誌編集部員の関口岳彦さんは「電波法を十分に理解せず、安易な考えで販売や公開を行っているケースが散見される。ネットでの出品や動画投稿の普及が悪い形で背中を押している」と指摘する。
出典 産経新聞 相次ぐ無線音声のネット公開 電波法への意識低くhttps://www.sankei.com/affairs/news/190823/afr1908230026-n1.html
すでに日本では警察無線の傍受など、遠い遠い過去の話であり、一抹の寂しさも覚える。