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2014年4月、警視庁の覆面パトカーから警察無線用アンテナを盗んだとして、神奈川県在住の31歳の無職の男が、窃盗と建造物侵入容疑で警視庁捜査三課に逮捕された。
警視庁管内の高井戸、蒲田、田園調布、調布、府中、町田の各所轄署では2013年12月ごろから、所轄所属や機動捜査隊の覆面パトカーの車体後部から計7本の無線用アンテナが盗まれる被害が相次いでいた。
今回逮捕された31歳の男がバイクで乗り付け、フルフェイスのヘルメットをかぶって入念に下見まで行ったうえで、捜査車両の無線用アンテナを盗んでいたのだ。
一方で警察署の駐車場撮影動画を動画投稿サイトに載せるなど、大胆不敵な行動も見せた。
覆面パトカーのアンテナ窃盗 警視庁、容疑の男逮捕
https://www.nikkei.com/article/DGXNASDG1903J_Z10C14A4CC1000/
覆面パトのアンテナを盗んだ男とはどんな人物なのか?
『お疲れちゃん』
野太い声だが、おどけた様子で警察官の職務質問に臆せず答える男の動画が、動画投稿サイトYouTubeで以前から話題になっていた。その男は自身のチャンネルに「覆面パトカー」と「職務質問」の動画を多数載せており、多くの”ファン”がいた有名YouTuberだった。
駐車場と思わしき場所で、警察車両特有のアンテナを2種類もつけ、サイレンを吹鳴させ、反転式赤色回転灯を起立、点灯までさせたこの”覆面パトカー”の動画、実は本物ではなく、男が乗る自身の高級車”セルシオ”を“警護車”風に改造したものだった。
報道によると、逮捕された男は警察マニアで、自分の車を捜査車両のように改造するのが趣味。
一部では『警察マニア』、『自分の車を覆面パトカーに改造するのが趣味』という指摘もあるが、正確には『警護車に改造するのが趣味』のようであって、警察マニアかどうかも不明だ。
男は真っ黒いフルスモを貼ったセルシオの運転中に撮影した映像をYouTubeにアップロードしていたが、そのほとんどが警察官から停車命令を受けて職務質問される動画だった。セルシオは対向を走ってたパトカーすら引き返してきて、わざわざ職務質問するほどで、よほど異様だったのだろう。
また、職質動画の中には警察官の集まる事件発生中のコンビニの前で、入りかけてバックして戻る動きを見せることで警察官の注意を引いて呼び寄せ、自身のトークショーを披露する動画もあった。勝手に『先輩』扱いされ、馴れ馴れしい態度で迫られる警察官たちは、その会話のやりとりを録音録画され、おそらく同意も無いまま、男にYouTubeにアップロードされていく。
警察署駐車場で覆面パトカーを覗き込み、車内アンテナに『ふーん』の意味は?
男は以前、YouTubeの自身のチャンネルに、警察署の駐車場に停まる警察車両を撮影していた動画を載せていたことを筆者は覚えている。
男はどこかの警察署の駐車場内で、なめるように警察車両、それも覆面パトカーを執拗に撮る。一般車両と思わしきプレジデントには「おっどうしたこのプレジ」などと野太い例の声をあげる。
一方、無人の覆面パトカーの車内を覗き込むと、リアトレイに金属板を敷いて車内設置されていたユーロアンテナ『MG-UV-TP』を見た男は『ふーん』という、感嘆とも残念ともつかない声を出していたのが剽軽で印象的な動画だった。
筆者自身も、この動画の主が後々、無線アンテナの窃盗で検挙されるとは夢にも思わず、単なるマニアの動画だと思い、資料の一つとして見ていたのは、今となっては笑い話にもならない。
筆者が思うにこの動画撮影には何か別の目的があったのではないだろうか。
警視庁の調べで『犯行前に男が下見を繰り返していた』ことと、この動画は単なる偶然なのか。
しかし『警護車モドキ』、『職質動画』だけでなく『警察署駐車場動画』までそれとなくアップロードして再生回数稼ぎに走るとはドン引きだ。結果的に周辺の防犯カメラには『犯行の下見』が残され、それによって裏づけがなされ『クロ』が確定した形だ。
冗舌にバンカケを交わす”警護車マニア”……首相追いかけまわしも
この男、アンテナの件だけでなく、総理大臣の警護車列を例の警護車モドキのセルシオで追尾していた別件の”迷惑行為”も判明。
自ら隊員やショカツの地域警察官はヘラヘラしながら逮捕された男にスリ寄って「ごめんよお」、「僕もセルシオ乗ってたんですよ(笑)」などと言いながらフレンドリーにバンカケしていたのが特徴的だが、さすがに首相警護を任務とするSPは車の降り方さえも華麗。男へのバンカケはにこやかながらも「どこまでついてくるんですか」とピシャリ。この気迫には普段あれだけ冗舌なトークショーで警察官をケムに巻いてきた男も、言葉少なめにタジタジ。
男は後日、この「首相ストーカー」行為の件で警視庁に呼び出しを受けたとのことだ。
そしてアンテナ窃盗の件での逮捕後、男は警視庁の取り調べで「自分の車からアンテナを盗まれたので同じものがほしかった」と自供。男の知人によれば 『アンテナを警察署で実は……』、 『下調べは十分した、何でばれたんだ』と男が語っていたという。
なお報道によれば、男の自宅から盗まれたアンテナが見つかっていないという。これは何を意味するのだろうか。警視庁捜査三課は『男が転売していた可能性もある』としている。
奇しくも男が逮捕される2ヶ月前の14年2月、ネットオークションには、なぜか「ケーブルが切断された状態」の薄汚れた使用感のある警察用TAアンテナが同時期に出品されていたことも、一部ネット上で話題になっていた。
アンテナの後端が膨れて完全に本体へ格納できず、常時露出されている警察用の”偽装型”TAアンテナがどのような経緯で出品されたかは不明だが、 4月21になると産経新聞が「ネットで転売か」との見出しで報じた。
http://sankei.jp.msn.com/affairs/news/140421/crm14042108050001-n1.htm(リンク切れ)
そして以下の記事では、警視庁管内で続発した捜査車両のアンテナ窃盗事件に男が関与し、さらに男がアンテナを転売していた可能性もあるとみていると報じている。
マニア向けに転売? 警察車両アンテナ窃盗の男 「自分のが盗まれたから」https://www.iza.ne.jp/kiji/events/news/140421/evt14042108180004-n1.html
「たかが10万、20万でこんなばかなことするんじゃなかった」
http://headlines.yahoo.co.jp/videonews/nnn?a=20140421-00000036-nnn-soci
「自分の車につけていたものが盗まれたので同じものが……」という供述をしている男だが、目的は何だったのか、その後の報道もなく不明だ。
「たかが10万、20万でこんなばかなことするんじゃなかった」
その前に、自分が無線用アンテナを盗んだことで警視庁の業務を妨害し、都民に危険を及ばせる結果になるという考えにはいたらなかったのだろうか。
とくに常に第一線で活動する機動捜査隊の機動捜査用車(覆面パトカー)などは、アンテナが無ければ車載無線は使用不能。基幹系重畳方式ならカーロケナビも使えず、そうであれば車両同士の連携が困難となる。
自分の欲のために警察装備品を卑劣な手段で入手しようと企てた男は、今もなおYouTuberとして活動を続けている。
なお現在、ユーロ偽装型アンテナ『MG-UV-TP』に関して、民生(タクシー)向け仕様としてほぼ同じスタイルの『MG-450-TP』という製品が日本アンテナから販売されており、業務無線ショップでも取り扱いがある。『MG-450-TP』については以下の記事にて紹介をしている。