世界的に見た場合、回転式けん銃(リボルバー)には元々、手動の安全装置(マニュアル・セイフティ)が備わっていないのが主流だ。
これは日本警察が配備している回転式けん銃のエアウェイトや現行のサクラ、旧配備のニューナンブM60いずれも同様だが、元々回転式けん銃には複数の安全装置が機構として組み込まれていることが理由として挙げられる。
さらに日本警察では独自の暴発安全対策を行っている。それが「安全ゴム」と呼ばれる手法だ。
安全ゴムという日本警察独特の暴発対策
日本警察では以前からけん銃のトリガー後部にゴム片、その名も『安全ゴム』をハメ込み、トリガーを物理的に固定することで引き金を引き切れなくし、暴発の防止対策をとっている。
しかし、この『安全ゴム』による安全対策は都道府県によって微妙に運用が異なっている。すなわち、県警によっては必ずしも普段からこの安全ゴムを噛ませているわけではないということだ。
例として神奈川県警では一時的なのか日常的かは不明だが、安全ゴムを使っていない様子が見て取れる。
しかし、安全ゴムは今なお多くの警察本部で導入されていると見られており、現行配備のサクラでも行われている古典的な日本警察特有の安全対策なのだ。
この安全ゴムを劇中で描写したのが1988年公開の『リボルバー』である。
【せつなさ炸裂】力が欲しい、愛が欲しい、何かが欲しい、何かじゃわからん。だから一発の……。一丁のニューナンブM60と共に人々は南から北へ駆けた。1988年公開の邦画『リボルバー 』
銀行強盗、警察官から奪った銃の安全ゴムに気がつかず
また、この対策は警察官がけん銃を強奪された場合、すぐには発砲をさせないための措置も兼ねている。この安全ゴム本来の機能が、思いもかけず役に立った例が1979年の三菱銀行人質事件である。
犯人・梅川昭美が三菱銀行北畠支店に猟銃を持って押し入り、行員たちを人質に立てこもり、最終的に4名の命を奪い、梅川自身も大阪府警機動隊特殊部隊『零中隊』に致命的な法執行をされたこの事件。
押し入った梅川はまず、通報しようとした男性行員を加害。その直後、銀行付近を偶然警ら中だった府警の楠本正己警部補が、銀行から逃げ出した客から事態を知らされて駆けつけた。楠本警部補はけん銃を構えて行内に入るや、猟銃を行員に向ける梅川に銃を捨てるよう警告したが、梅川はひるまなかった。このため、楠本警部補は銀行内の天井へ一発威嚇射撃するも、梅川に猟銃で応射され殉職した。二人目の犠牲者だった。さらにパトカーで駆けつけた2名の警察官に対しても梅川は発砲し、一方の巡査の命を奪った。
梅川は行員らにバリケードを構築させ、三菱銀行北畠支店に実に42時間も人質を取って立てこもったが、梅川は先に加害した2名の警察官から、けん銃2丁を奪うことに成功している。
人質に命じて警察官の遺体から、けん銃を取ってくるように命じた梅川は銃を手にすると引き金を引いた。しかし、梅川は警察官のけん銃の引き金にゴム片がはまっていることに気がつかず『故障しとるわ』と言って放り捨ててしまった。
安全対策として行われていた安全ゴムが別の危機的状況で役立った例といえるのだろうか。
日本警察が配備するP230はマニュアルセーフティ搭載の”特別仕様
また暴発対策といえば、90年代中盤から日本警察が導入を始めた半自動式けん銃SIG SAUER P230の例も忘れてはならないだろう。
本来、P230はドイツ向けの警察用けん銃として開発されたが、本来はマニュアルセーフティを備えていない。
ところが日本警察が配備するP230は日本警察がSIG社に”無理を言って、マニュアルセーフティを追加搭載させた”特別仕様である。
上記の写真はP230の日本警察仕様(オリジナルのP230と区別をつけるため、便宜上はP230JPと呼ばれるが、これはSIG社が定めた正式名称なのか、日本警察の制式名称なのか不明)をモデルアップした遊戯銃だが、マニュアルセイフティ、さらにカールコードを連結させるためのランヤード・リングが追加で備わっていることがわかる。
これらP230への安全装置付加での配備、そして安全ゴムは日本警察におけるけん銃暴発対策の代表例に挙げられるだろう。
まとめ
日本警察では銃の暴発対策にはとくに重点を置いているため、安全ゴムという我が国独自の安全対策が行われている。
そして、万が一銃を奪われた際に安全ゴムが噛まされている事で悪意のある第三者による不意の発射を防げれば、よい副次的効果とも言えそうだ。
ただ、皮肉にも2018年の富山交番襲撃けん銃強奪事件の新聞報道で、安全ゴムとその運用が報じられ、広く認知されてしまっている。
なお、2019年から警視庁の地域警察官など一部先行で樹脂製の強奪防止機能つき新型ホルスターが配備されるなど、強奪対策はさらに進んでいることは言うまでもない。