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記事トップバナー画像は奥 浩哉氏のTwitterアカウント (@hiroya_oku) から引用したもの。
『Amazonでオモチャのトイガンを購入したらガチで警察沙汰になった・・・』という、とんでもない騒動が物議を醸している。
2022年9月現在、アマゾンなどで5000円前後で販売された、ある中国製のトイガンが警察の回収対象となったのだ。
すでに警察へ任意提出を行なった人の話によると、回収の対象になっているのは『中華系ナーフガン』と呼ばれる低威力のトイガンで『パイソン』と『スカイマーシャル』の2種類。
今回話題となってる中華製玩具銃 #スカイマーシャル ですが、科捜研の鑑定により「真正けん銃」と認定されたため回収となりました。現時点では正式通知前の為警察でも全体には周知されておりません。近々正式通知が出て大々的に回収が始まる予定です。
— 墨東 美玲威@孤高の散財師 (@boku_z) September 5, 2022
上記のトイガンはいずれも実在する銃を模した外観がリアルな製品だが、日本国内でジャンルとして確立されている『BB弾を発射する1J規制のエアガン』ではなく、昔ながらの「つづみ弾」に似た樹脂製またはスポンジの弾をカートリッジ内蔵のスプリングの反発力で打ち出す低威力の『ナーフ系』のガン。
購入した人によれば『3メートルは真っ直ぐに飛ぶぐらいの威力』とのこと。昔ながらの銀玉鉄砲よりやや強めの威力をイメージすると良いかもしれない。
ナーフ(NERF)は元々、アメリカのおもちゃメーカーであるハスブロ社が1992年ごろから現在に至るまで販売している低年齢の子どもを対象とした安全な銃型のおもちゃ。
ママが目くじらを立てないような比較的穏やかなデザインの銃本体からポリウレタンフォームで作られたダーツ型のスポンジ弾が低速で撃ち出される製品で、その緊張感のなさが大人にも人気となっている。
現在ではハスブロ以外の同種の安全性の高いスポンジ弾を使う銃型のおもちゃ全般が『ナーフ系』と呼ばれるが、前述の中華ナーフ系のスカイマーシャルはリアル志向のマニアに向けた製品だったようである。
ところが、その安全性が高いはずのナーフ系ガンでありながら、今回、科学捜査研究所の鑑定で『危険な製品』と認定された『パイソン』および『スカイマーシャル』。
現時点ではどのような鑑定方法が行われたのか不明だが、過去の例から、実弾や特製のアダプターを使っての発射機能の有無の検証が行われた可能性は十分にある。
では警察がこれらの製品の回収を進めている理由とは?詳しく見ていこう。
『スカイマーシャル』が回収に至った原因は?
弾丸の威力ではなく構造の問題
すでに任意提出した人が生安や銃対の担当者から受けた説明によれば、回収の理由は弾丸の発射威力ではなく、同製品の構造の問題であることが示唆されている。
推測される理由 その1、インサートのない金属製シリンダー構造が原因か?
リボルバー型の銃器では、弾丸を装填する部分を『回転式弾倉(シリンダー)』と呼ぶが、金属製トイガンではシリンダーへの実弾装填対策のため、シリンダー内部の前部にインサートを施さなければならない。いわゆる『52年規制』と呼ばれる金属製モデルガンを対象とした法規制である。それ以前の『46年規制』では銃腔(銃口)を金属で完全閉鎖することも義務化されている。これがない状態は筒抜け状になっていることから『抜け(ている)』とも呼ばれる。マニアの中には見た目のリアリティを追い求め、これを撤去してしまう者もいるが、その行為は違法である可能性が高い。ただし、これはあくまで金属製トイガンに対しての法規制であり、樹脂製(のシリンダーを持つ)トイガンでは適用外。また、樹脂製であっても、業界団体による自主規制としてインサートを入れたり切り込みを入れて不正改造対策をした製品も多い。
警察に提出前に撮影した中華製玩具銃 #スカイマーシャル pic.twitter.com/TnYPYqLDR1
— 墨東 美玲威@孤高の散財師 (@boku_z) September 6, 2022
『スカイマーシャル』『パイソン』のシリンダーは金属製でありながら、元からインサートがなく『抜け』ているのが問題だと取締当局側に判断されたのではないか。古くからのトイガンファンの間からもこの点について指摘されており『完全にアウトだろ』『なぜ買った』と、購入者を疑問視する声も多い。
推測される理由 その2、ファイアリングピン(撃針)がカートのセンター部を叩く構造が原因か?
もう一つ推測されるのは『スカイマーシャル』『パイソン』の構造が、ファイアリングピン(撃針)がカート(弾丸)の底部中央にあるプライマー(雷管)を叩く実銃同様の『ハンマー方式』となっていることだ。ハンマーが倒れる慣性でファイアリングピン(撃針)がカートのプライマー(雷管)を強く叩いて撃発させるのが実銃だが、なんと『スカイマーシャル』『パイソン』の構造はこれを忠実に再現。スプリングが組み込まれた樹脂製のカートの底部(実銃のプライマーに相当する部分)を、同じくプラスチックのファイアリングピン(撃針)が叩くことでスプリングが解放され、弾丸が発射されるのだ。
樹脂製のため、金属製のシリンダーと接触することで摩耗するか、あるいは数日でピン自体が折れて、その機能を果たさなくなるなど、低品質すぎるクオリティとのことだが、この構造自体は実銃の発射機構と同じであり、日本国内で流通するトイガンとしては、極めて不適かつ危険と言わざるを得ない。
『スカイマーシャル』の購入者には有名漫画家や有名タレントも!?なぜ人気なのか?
スカイマーシャルはトイガンファンの間では極めて高い人気となっており、同型の製品を購入した人の中には一般の人のみならず、著名な漫画家や著名なタレントがいるのだ。それが今回の騒動に拍車をかけてもいるようだ。
警察から電話で、このオモチャ回収しに来るそうです。ううう…気に入ってたのに… pic.twitter.com/0Xw5qJwJK2
— 奥 浩哉 (@hiroya_oku) September 2, 2022
漫画家の奥浩哉氏もその中の一人でスカイマーシャルを購入しており、9月2日時点で警察に回収される予定だとツイートしている。つまり、販売したAmazon側からすでに警察は購入者の情報を入手しているというわけだ。
警察に回収されて話題の
中華トイガン「スカイマーシャル」
所ジョージさんもお持ちだったようで
やっぱ回収されたんかな動画もいかにも所さんらしい内容だから気になったら😂https://t.co/YPxSdoxirL pic.twitter.com/JRAKZj0RW6
— あ^しゅら (@asyura099852) September 2, 2022
また、エアガンやミリタリー方面に造詣の深い某人気テレビタレントおよび、53万人ものフォロワーを持つエアガンレビュアーとして有名なM氏も、この製品について動画で取り上げているとのことだが、この動画については現在視聴できなくなっている。
さて、なぜこの『スカイマーシャル』の人気が高いのだろうか。一方の『パイソン』は往年の人気漫画の影響とは察しがつく。ドゴーン。それはドーベルマン刑事だしブラックホークだ。モッコリとダガーナイフ投げる女刑事のほうな。
実銃のスカイマーシャルは9ミリパラベラム仕様のコンパクトリボルバーで、ドイツのガンメーカー『コルス』が製造している。とくにスカイマーシャル向けというわけではなく、民間向けとしても売り込まれた。ただし、売れ行きは芳しくなかった様子だ。
国内のトイガンファンに人気なのは、優美なデザインは言うに及ばず、おそらく、日本国内でエアガンとしてモデルアップされていない珍種のためか。そこでナーフ系の中でもリアルで、なおかつ安価な中華ガンにファンは目をつけたのではないだろうか。
ただし、意図されたものかは不明だが、この中華スカイマーシャルは完全なるリアルサイズではなく、実銃より若干サイズダウンした作りになっているとのことだ。そのせいで、今回購入を見送ったという人もおり、それが命運を分けたようである(!?)
ところで、リアルサイズで再現されておらず、購入者ががっかりした例としては、かつての東京マルイの『MP7小さかったよ事件』がある。これは東京マルイが意図したものではなく、プロトタイプのMP7のサイズをもとに制作したため、結果的にスケールダウンになったとされている。
『スカイマーシャル』を購入した人への警察側の対応
なお、今回の同製品の回収騒動では、購入者が何らかの処罰を受けるというものではない。
前述の漫画家の奥浩哉氏も『なんでこんなバズってんの笑、僕が警察に捕まると勘違いしてんのかな』と少々皮肉めいたツイートをしているが、同氏の言葉通り、現段階では警察側が購入者に任意提出を要請し、回収を進めているというだけの話に過ぎない。
すでに回収に応じた人のツイートによれば、警察が各購入者と個別にコンタクトを取り、任意提出を要請し、その所有権を放棄させている様子だ。なお、奥浩哉氏に対応した刑事は『作品いつも見ています』と同氏に言ったとのことだ。
2時間の聴取と書類の作成
とはいえ、スカイマーシャルを警察に提出しただけで即座に帰宅できはしないようだ。どうでもいい世間話から入る長時間の聴取に応じる必要があるし、他に持っている人間を知らないか?とか、“知らないわけないだろう”とかの圧かけ、場合によっては担当者の判断で任意提出した同製品に所有者が指を指し示しているところを写真に撮られるかもしれない。実際に任意提出した人は2時間の聴取が行われたのことだ。
実際に購入した人はいずれ警察から電話や訪問を受ける可能性があるので、早めの相談が望まれそうだ。
警察の回収要請に応じた人のツイートには『押収品目録交付書』という書類も写っているが、同交付書の被疑者欄が『不詳』となっている。また担当の警察官からは「回収にご協力くださいw 持ってる人に回収してるって教えてあげてねw(原文ママ)」と言われたそうだ。
なお、回収されて所有権を放棄したスカイマーシャルの購入代金はどうなるのか?という問題だが、Amazonで販売された商品については、上述の「押収品目録交付書」の画像をAmazon側に送ると返金対応が受けられるそうである。
買った人の自己責任とはいえ、安易に紹介するトイガン系YouTuberも危機意識を持つべきでは?
『抜けてるね!』
日本のどこか。ある山野に設営されたミリタリーキャンプでは国防色のテント内に男が何やら集まっている。ランタンの明かりが灯るテント内で、サープラスの米軍戦闘服を着た彼らはそれぞれ自慢の”愛銃”を持ち寄っていた。モデルガン愛好家たちによるたわいもないミーティングに思われた。しかし、古参の愛好家・花輪が持参した長銃身の回転弾倉式けん銃『M29』のモデルガンは異質だった。『抜けてるね!』筒抜けになった銃口とシリンダーを次々に覗き込んだ仲間たちが感心した。銃身にはライフリングまで彫られているのだ。花輪は自慢げに『そうだよね』とほくそ笑む。翌朝、彼は弾頭部に紙片を詰めた自作の空包らしきものをM29のシリンダーに込め、水の入ったペットボトルの口に銃口を当てて引き金を引いた。それほど大きくはないが、ズドンという発射音とともに瓶の中の水が勢いよく泡立った。彼の顔は恍惚を湛え、満足げに至福を感じていた。そして気がつくと、彼は刑務所の中にいた。漫画家の花輪和一が自身の銃刀法違反事件での収監をコミカルに描いた漫画を原作にした異色のヒット映画『刑務所の中』の冒頭だ。
さて『スカイマーシャル』を紹介する動画をアップしていたあるトイガン系YouTuber(※先述のM氏とは異なる)は、この製品の部品の耐久性の低さを指摘しつつ『私の動画を見て買った方、ご愁傷様です』と動画内で述べるが、同YouTuberの動画を見て買った人にとっては、部品が摩耗してタマが飛ばなくなってお金を捨てたことよりも、警察に聴取や任意の回収を受ける事態にまで発展した騒動に巻き込まれた現状のほうが別の意味でご愁傷様と言えなくもなく、本製品を紹介したことおよび、自分の動画を見て製品を買ってしまった人たちへの影響を軽く考えるべきではないと言えそうだ。
著名なインフルエンサーの動画に感化されて商品を購入した結果、それが法に反するもので面倒な事態に陥る可能性があるのは何も中華系トイガンに限った話ではないが、トイガン系YouTuberは、とくに製品が日本の自主規制が及ばない中華製品であればなおさらのこと、日本国内法や過去のトイガン事件の事例と照らし合わせ、危険だと思ったら触れない危機意識を持つべきではなかったか。
銃の構造を理解していて、過去にアウト判定されたトイガンについても知っていたから自分は避けることができた
ただ、それは自分にとって銃が身近なものだったからでしかない
スカイマーシャルを買ってしまったユーザー全てにその知識を求めるのも、また無理がある— たちかぜ🍅×13 9/13,14 ルド女 9/18 KOTOKO金沢 (@SteelRain_Lily) September 2, 2022
これは当然、Amazonの商品を紹介する当サイトでも気を付けねばならない問題でもある。
このようにネット上のモールで販売されているトイガン系の玩具を購入する場合、海外製品であればとくに注意が必要だ。発射ソースに関して言えば、火薬で発射するようなものは論外。また、威力の問題では現在、国内では1J規制が行われており、1Jオーバーは準空気銃として処罰されるのでアウト。
『身勝手な解釈』と『グレーゾーン』のハーフメタル問題
金属外装の問題もある。オートマチック・タイプのハンドガン型エアガンの構造は実銃同様、スライドとフレームに分けられるが、どちらか一方の部品を金属化することを『ハーフメタル』と呼ぶ。対して、どちらの部品も金属であるものは『フルメタル』と呼ばれ日本国内では違法だ。現在、国内メーカーの市販品では上記タイプのエアガンは基本的に樹脂製であり、『ハーフメタル』は製造していない。これは組合規約による自主規制のためだ。だから、ハーフメタルにする場合は主に海外パーツメーカーが製造したパーツを使い、購入者自身かショップがカスタム制作することになる。だが、国内メーカーが自主規制していることで分かる通り、このハーフメタルという問題は法的にグレーゾーンなのだ。
かつてのMGCの技術系重役で、トイガンデザイナーとして知られる小林太三(タニオ・コバ)氏は以下のように語る。
両者間の整合性のズレから、業界では、やれ「ハーフメタルはOK」とか、「外観の金属パーツは50%まではOK」とか、「厚みのあるアルミが良いのだから“薄い鉄板”だって良いんだ」とか、「スライドとフレームをバラしておけば大丈夫」といった無根拠で身勝手な解釈を振りかざして、ユーザーを銃刀法違反者にしかねないエアガンショップが、最近増えているようだ。
「必ず分解して保存してください」と注意書きをつけるということは「ヤバイ!」と知っての売り方、これは確信犯罪だよ!
出典 『ハイパー道楽』ヒゲKOBA 回顧録 トイガン規制 パート1 https://www.hyperdouraku.com/colum/higekoba/index.html
このように販売側や一部の愛好家側の解釈がまかり通っている現状だ。
そして今回のように構造そのものの問題だ。とくに”カートリッジのプライマーをファイアリングピンが叩く実銃式の構造”になっていれば、耐久性がなくとも、取り締まる側から打撃構造および撃発装置を備えていると見做されてしまうのだ。このような構造による法的な危険性は、とくにリボルバー型のトイガンで発生しうるものであり、同型の中華トイガンを購入する場合、買う側は今一度の考慮を。
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