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警備警察の中には国際テロリズムなどの情報収集など、主に外国人に係る警備犯罪の捜査を担う『外事警察』と俗称で呼ばれるセクションがある。
この項では外事警察の役割について記述する。
外事警察の主な監視対象
外事警察ではロシアや朝鮮半島情勢に係る防諜のほか、近年ではイスラム過激派対策が重要な任務となっており、それぞれの課や係ごとに担当を受け持つ。
日本の警備警察の中でも、もっとも広い陣容を敷く警視庁の外事課は第一から第三まである。
警視庁外事第一課(ソトイチ)
ソトとは外事、イチとは一課を意味する。すなわち外事第一課の通称だ。ソトイチでは主に極東ロシア関連に関する諜報任務のうち、防諜を実施する。
防諜とは対スパイ活動であり、国内の公的機関の内部情報(防衛機密など)が外国の諜報機関のスパイに流出することを防ぐインテリジェンス活動だ。
また古典的だが、もっとも行われやすいのが、男女関係を利用したいわゆるハニートラップだ。駐屯地や基地近くのスナックの美人中国人店員と親しくなるのは個人の自由だが、それがハニトラだと後になってわかった頃にはもう遅く、写真やビデオを撮られた上で半ば脅迫に近い形で内部資料を要求され、渡してしまった事例も過去に起きている。
これらの外国のスパイを摘発していくのが、スパイハンターの異名をとる警視庁外事一課、通称ソトイチなのだ。
なお、警視庁外事一課の業務には東京都民への犯罪経歴証明書の発行という事務手続きも行っている(道府県警察では刑事部の業務)。犯罪経歴証明書は外国の政府からの査証の申請、永住の申請に係る求めに応じて日本政府が発行する公文書だが、犯罪経歴証明書の申請時には指紋が採取されるほか、封緘をした状態で交付され、個人で勝手に開封してしまうと、その効力が無効となる。
外事第二課(ソトニ)
アジアを担当し、北朝鮮と中国に関する団体への視察を行う。北朝鮮に関する諜報は詳しく後述する。
外事第三課(ソトサン)
国際テロ関連の情報収集を担当する。主に中東地域を担当し、イスラム関連団体への視察を行う。日々の業務はイスラム教信者の行動視察だ。
その勢力は一時期よりも衰えたとはいえ、今なお中東をはじめ各国でテロを行っているイスラム国。その参加者には日本人も含まれていたことが明らかになり、日本社会を震撼させたが、外国の私兵組織に日本人が参加することは『私戦予備・陰謀』というれっきとした罪になる。実際に2014年には北海道大学の学生がイスラム国に感化され、その活動に参加しようとしたとして『私戦予備・陰謀』の疑いで警視庁ソトサンの家宅捜索を受けている。
追記
2019年7月、当該の元北大生ら5人が『私戦予備・陰謀』の罪で、警視庁公安部に起訴を求める厳重処分の意見を付けられたうえで書類送検されている。他の4人は、元同志社大教授でイスラム学者の中田考、フリージャーナリストの常岡浩介、元北大生と共に渡航しようとした千葉県の男、渡航を呼び掛ける張り紙をし、そそのかした古書店関係者の男ら。同容疑が適用されるのは初。
ISに参加した初の日本人は立命館大学の准教授モハメド・サイフラ・オザキ容疑者
オザキ容疑者はパキスタン出身だが、日本人の妻と結婚しており、日本国籍を取得しているため、日本人初のISメンバーと見られている。2016年7月1日にダッカで日本人7人を含む22人が加害されたレストラン襲撃人質テロ事件では実行犯らを過激派に勧誘した疑いがあるオザキはISに同調するパキスタンの若者(シンパ)を日本国内に入国させて、トルコを経由させ、ISに合流させていたと見られる。オザキによって日本が踏み台にされた形だ。2019年5月時点でオザキはイラクの刑務所に収監されているものとみられている。
外事警察の諜報活動を支えるヤマと技官たち
諜報とは諜報機関によって行われる公共の安全の維持、また防衛のための情報収集活動である。日本で国益のために対外インテリジェンス(いわゆる諜報活動)、それにカウンターインテリジェンス(いわゆる防諜活動)に従事する組織には都道府県警察公安内の外事部門以外にも、外務省や内閣情報調査室、防衛省情報本部、公安調査庁などがある。
また、内閣情報調査室が情報収集の一環として一部の民間機関(NHKやラヂオプレスなど)に北朝鮮や中国の国営放送のモニタリング調査(Open‒Source Intelligence=OSINT……オシント)を委託している例もある。
外事警察の日々の業務では外国の通信傍受、いわゆるシギント (Signals Intelligence:SIGINT)にも従事しているが、警察庁情報通信局の技官(警察庁警備局独自採用の技官とも言われる)とともに外国の乱数放送の傍受を行う際の活動拠点は警察庁警備局外事情報部「外事技術調査室(ヤマ機関)」が受け持つ専門の通信傍受施設だ。
東京都日野市の見晴らしの良い丘の上は閑静な高級住宅街となっているが、うっすらとした雑木林に佇む表記のない不気味な施設こそが警察庁の第二無線通信所だ。この”公式には存在しない施設”こそが全国の傍受施設を統括する総本山とされている。
もともと、警察庁は情報通信局という内部部局を置き、その職員には警察官ではなく、技官を充てているが、外事通信所と呼ばれる外国通信の傍受に特化した無線傍受施設で作業に当たるのは情報通信局の技官たちなのである。
公安警察については以下の記事で解説している。