※バナー写真は日本の公的機関で配備されている回転式けん銃『SAKURA』。批評および研究のため、国土交通省公式サイトが国民に公表している広報資料から引用したもの。
以前、ある警察関係の書籍で「日本警察のけん銃には照星(フロントサイト)はあっても、照門(リアサイト)はない。なぜなら、日本警察は銃の使用目的を攻撃ではなく、防御においているためである」という主旨が紹介されていた。
照星はフロントサイトとも呼ばれ、通常は銃身前方に設置される。そして、照星と対となるのが、銃の後方に設けられている照門(リアサイト)である。この二つがあってはじめて、狙いをつけるための照準器として機能する。
ただ、銃であっても散弾銃の一部では照星のみしか搭載されない場合もある。文字通り、弾を散らすのだからそれほど正確な照準は不要であり、また野生動物を狙うには目標、照星、照門という三つを重ねる作業の手間を省くのも設計思想のひとつなのだろう。しかし、けん銃であれば話は別だ。
わが国の警察で配備されるニューナンブ、エアウェイト、サクラといった制服警察官愛用の御三家リボルバー、それに刑事部で主に配備されるP230、M3913、さらにはSITのベレッタ92、SP用のP2000、グロック、果ては特殊部隊用のP226、けん銃以外のMP5など特殊銃に至るまで、どれも照星はあっても照門が「無い」という話は元警察官の著書や専門書籍からは見えてこない。
公開訓練などで報道された写真でもそんな特異な銃は出てきたことは皆無ではないだろうか。
それどころか、一部のベレッタやMP5に至っては精確な照準を期すため、ダットサイト(光学照準装置)まで搭載している。「あえてリアサイトをはずして納入されている」なんて話も、この本以外で証言はないのではないか。
実際、防御というよりは日本警察ではけん銃を被疑者の制圧のために使用しているのは明白で、フロントサイトはもちろん、リアサイトもついていなければ使い物にならない。
ではなぜライターは「日本警察のけん銃に照星はあっても照門はない」と書いたのだろうか。
考えられる理由はニューナンブおよび、その原型になったスミス&ウェッソン社の回転式けん銃の形状にあるのではないか。
例を出せば、M37エアーウェイトを真横から見ると、フロントサイトのみ確認できるが、リアサイトは見当たらないような印象を受ける。
しかし、銃を構えて後ろからきちんと狙いを定めれば「リアサイト」がきちんと設けられていることは明白だ。
もし、ニューナンブやM36、M10にコルト社の回転式けん銃のように大型のアジャスタブル(調整式)リアサイトが備わっていれば、このライターが映画などでけん銃を真横から見たことしかなかったにせよ、モデルガンすらオモチャ屋で見たことがなかったにせよ「日本警察のけん銃には照星はあっても照門はない!なぜならば」などとは書かなかったのではないか。もっとも、この”溝”をリアサイトではないと主張するなら話は別と言える。
警視庁のSITなどが使うベレッタ92には、いわゆるレーザーサイトやダットサイトなどの光学式照準器が搭載され、標的に対して精確にサイティングができるが、一般の警察官が携行するけん銃にはそのようなものは搭載されておらず、勝手に装着することも許されない。
したがって、銃本体に付属するアイアンサイトを直接覗き込んで狙いをつけるのだ。
日本警察は銃の資料に関しては自衛隊と違い、情報公開をしないために実情は見えてこないが、各県警本部公式サイトの警察学校紹介ページには射撃訓練中の様子など参考となる資料が多い。
そこでは足を大げさに広げ、腰を低く沈めて両手でけん銃を握って構える警察官の写真を見ることが出来る。
これが近年、広く普及しているアメリカンスタイルの射撃方法だ。
正確な射撃を行うための訓練を見れば、日本の警察官はけん銃を発砲する際に「防御のために……」なんて、いい加減な感覚で撃っているとは言い難いのではないか。