【フィクション作品考察】『仮面ライダークウガ』でのSIG Sauer P230の使用通達&『アギト』登場のリアルな覆面パトカー

記事内の引用について 『仮面ライダークウガ』(c)東映. All rights reserved.

先日の機動隊員誤射事故大阪の結婚詐欺事件に関連して、今回は『日本警察仕様SIG Sauer P230』つながり(無理やり?)でフィクション作品の考察をしたいと思います。

日本警察がP230を配備したのは1995年頃とされ、通算配備実績は2024年現在で実に28年にも及びます。しかし、そのプロップガンがドラマで“おそらく初めて”活躍するようになったのは、意外とごく最近。フジテレビ系の人気シリーズ『SP 警視庁警備部警護課第四係』で、SPたちの携行銃として華々しく活躍した2007年ではないでしょうか。

警視庁SPのけん銃が25口径から38口径に大口径化した理由は?

とはいえ、筆者の中で『P230・イン・アクション』として印象に残るのは同じく2007年のTBS系ドラマ『ジョシデカ!-女子刑事』。しかし、“射撃だけ”は得意な女性刑事を演じる仲間由紀恵が手にしていたのは、上記『SP』に登場した“日警仕様P230”ではなく、オリジナルのSLモデルを再現したプロップガン。当時『ジョシデカ!-女子刑事』のプロップガンを担当した旭工房さんによれば、マルシンのモデルガンPPK/sがベースとなったとのことです。

参考リンク 旭工房さん公式サイト TVドラマ「ジョシデカ!-女子刑事-」で主役の来実が実際使用したプロップガンのレポート

『日本警察が配備しているモデル』にドラマチックなオリジナリティを演出したい意図があったのかは定かではありませんが、似た事例は人気ドラマ『アンフェア』でも見られ、モブキャラがM3913の日本警察仕様であるのに対して、主人公の雪平夏見のみがM3913”レディスミス”仕様を携行するのが興味深かったのです。

『アンフェア』の覆面パトカー劇用車 170系クラウン アスリート

ともかく、日本政府がSIG Sauerに無理を言って造らせた(?)マニュアル・セイフティつきのP230を“P230JP”としてモデルアップしているのは言わずもがなKSC社ですが、同社ではP230モデルガン発売以前より、プロップガンメーカーと技術協力し、それまでより強力な『7ミリ火薬』を使用し、発砲時の音やアクションのキレが向上、ド迫力の発火ブローバックを実現しています。実質的にはプロップガン業者との”共同開発”で、邦画やテレビドラマでの使用を想定して開発されたと言っても過言ではありません。そんな開発エピソードは以下のKSC公式サイトで言及されています。

出典 KSC公式サイト『P230モデルガン シリーズ開発エピソード』 https://ksc-guns.co.jp/modelgun/p230_series.html

4点セット KSC P230JP HW ガスガン コイルランヤード スペアマガジン バイオBB弾 ガス 日本警察拳銃

KSCのP230JP(ガスガン)

ともかく、P230がドラマでポピュラーになって少なくとも15年。しかし、今回ご紹介する作品『仮面ライダー クウガ』ではそれよりもっと早く、今から23年前の2000年当時にP230が“言及”されています。

『仮面ライダー クウガ』は“正統派刑事ドラマ”ではなく特撮ドラマですが、その世界線においては実在の警察組織が前面に描かれ、実際に配備されている銃火器、捜査車両の再現度は並みの刑事ドラマよりもリアル系で実に興味深く、特撮に興味のない未見のマニアにも一見の価値ありなのです。

はじめに……筆者の下手な推察・邪推!?

本筋とは関係がないので読み飛ばしてもOKです。

仮面ライダーでXファイルをやりたかった!?

『よほど日本でXファイルをやりたかったのだろうな。それをやるのに仮面ライダーシリーズはちょうど良いプラットフォームだったのだろうか』と筆者は思わずにはいられない理由があります。

仮面ライダーシリーズの原作者は漫画家の石ノ森章太郎氏ですが、同氏といえば大ヒット刑事ドラマ『おみやさん』シリーズでも知られる通り、一見冴えない”変人”が自分の意思で閑職に赴きつつも、上役にはその優秀さを認められ、頼りにされている草壁署刑事課資料室勤務の鳥居刑事、その“相棒”の洋子巡査のコンビこそ『Xファイル』の元祖モルダーとスカリーではないでしょうか。そういえばアニメ『まんが日本経済入門』でも、資料室で冷や飯を食わされつつ同僚からは頼りにされている優秀な結城にしても、同氏の作品では優秀な主人公ほど一線ではなく『暗〜い資料室』勤務なのが興味深いものです。

それはさておき、筆者も90年代、世界で大ブームを巻き起こしたSFドラマ『Xファイル』に魅入られた一人。当時の日本の脚本家でも影響を受けた方は多いと思われますが、アレを日本で通常の刑事ドラマ風に実写にしたとして、しょぼいCG技術で果たして白けずに没入できる視聴者は多くいたのかは疑問です。しかし、“怪人と戦う特撮ヒーローモノ”の中で”そこそこリアルな刑事ドラマ”を繰り広げたならば、魅力ある作品ができたのかもしれません。実際、特撮という日本お得意のジャンルでやれば、十分に昇華できてしまった好例が『クウガ』であったと筆者は思わずにはいられません。

『仮面ライダー』の世界線でライダー以外に”正義を守る者”を別視点で描く意義

教育学の専門家で大学教授の葛城浩一氏は『特撮ヒーロー番組の制作者は、子どもに対する教育的影響力を非常に意識している』と語っていますが、子どものヒーロー像は各年代で変節するもの。2000年に放映された『仮面ライダークウガ』では実在する治安機関、そして警察官という職業と任務が物語の重要な要素になっています。これは次作『アギト』にも引き継がれるライダーシリーズの『リアリティライン』初代になりますが、それまで『仮面ライダーシリーズ』でライダー以外に悪の組織と戦うのは実際の警察機関ではなく、架空の治安組織が多かったのではないでしょうか。

筆者に治安政策に関する知見は全くなく、あくまでフィクション作品における法の執行と治安の維持に関する描写への考察ですが、『仮面ライダーシリーズ』に対してはやはり、一部で『(仮面ライダーに頼ってばかりいないで)警察は仕事しろ』という向きもあるようです。

『仮面ライダーシリーズ』に関して言えば、その世界線にライダー以外に治安を司る者が存在するか否かはシリーズごとに大きく変わり『クウガ』以前のライダー作品においても、全く治安機関が登場しなかったわけではありません。

とはいえ、日本国内のローカルな治安機関が主人公のうちの一人の所属組織として明確に描かれるのは『クウガ』がシリーズ初。何ともいえないリアリティがあります。思えば、90年代に爆発的ヒットを記録した『踊る』以降、リアルな刑事ものが増加した印象を受けますが、それがついには特撮分野にも波及したということでしょうか。そして、実在組織のリアリティを保った捜査官が未確認生命体に法を執行してゆく……というスケールの大きさは、まさに日本版『Xファイル』であったと個人的に思います。

ただ『Xファイル』との比較を出したのは早計で、無理やりなこじつけを各方面には失笑の上で許してほしいのですが『クウガ』で描写される”ゲゲル”による加害方法そのものには“超常現象”ほどの神秘性はありません。

ネタバレになりますが、毎回のゲゲルにおけるターゲットは選定されてはいるとはいえ、“加害人数を競い合う”という理由から、テロ事件にも等しい数百人単位の死者など、単なる無差別凶行の側面があり、潜在的な“無敵の人”でも手法によっては実行しえてしまうものが多かったという指摘があります。残虐な描写については当時実際に『加害方法が残酷で生々しい』として、とくに子どもを持つ保護者からクレームが多く寄せられ『クウガ』制作サイドが批判の矢面に立たされることはあったようです。そのため、次作における怪人による市民への加害方法は人間が実行しえない“超常現象”的な描写にされています。

そもそもとして、“ゲゲル”=”悪意なきゲーム”であり、“ゲーム感覚の犯行”という言葉を90年代に頻発した少年による事件で、専門家側のコメントでよく見聞きしたものです。なお、幼い当時に視聴した世代で“ゲゲル”がトラウマになっている人も多数いるようです。恐るべし、ゲゲル行為……。

『仮面ライダークウガ』のあらすじ

西暦1999年7月18日。長野県中央アルプスの九郎ヶ岳遺跡の地中深くに埋没されていた石棺が、地殻変動によって地表に出現。発掘調査にあたっていた研究者が石棺を開けたことで古代の生命体『グロンギ族』が目覚め、調査団を殺害。父は殉職というよくあるサラブレッド設定の長野県警警備部の捜査員・一条薫(演:葛山信吾)らが捜査に乗り出すが、自称冒険家の青年・五代雄介(演:オダギリジョー)と因縁めいた出会いが運命を変え、二人は共に人類の未知なる脅威『グロンギ』、そして”ゲゲル”へ立ち向かう。

銃器の描写について

九郎ヶ岳遺跡の地中奥深くから目覚めた古代の生命体『グロンギ族』の一人『ズ・グムン・バ』は長野の市中で暴れ、県警当局からけん銃による制圧を受けるも、効果は見られない。その後、『ズ・グムン・バ』は治安の要たる県警本部へ白昼の襲撃を敢行。

県警本部がグロンギ族の『ズ・グムン・バ』に公然と襲撃され、職員らは銃器で制圧を試みるが……。これはのちに日本国内がパニックに陥るグロンギの”ゲゲル”と直接的な関係はない。画像の引用元『仮面ライダークウガ』より。(c)東映. All rights reserved.

『ズ・グムン・バ』による庁舎襲撃現場に県警ヘリで上空から臨場した県警警備部の一条は、ズ(略)の攻撃を阻止せんとする五代(クウガ)援護のため、携行していた県警支給品のコルト45口径をヘリの機上から発砲。

県警のコルトは快調に作動するが(!?).45ACPの軍用けん銃弾をズ(略)は全て弾き返した。その被疑者、制圧不可につき。この事実は県警史に新たな警察事象として刻まれることになるのか……。画像の引用元『仮面ライダークウガ』より。(c)東映. All rights reserved.

ついにズ(略)の魔手は機上の一条に伸び、コルトを全弾打ち尽くした一条は絶体絶命の事態に。だが、クウガの援護でズ(略)は機外へ落下。クウガに命を救われた一条であった。

一条さんは長野県警警備部(公安課?)の者です。その手にコルト。画像の引用元『仮面ライダークウガ』より。(c)東映. All rights reserved.

一条の携行する『コルト45オート』はよく見ると長野県警が戦後の自治体警察時代、銃不足で米軍から供与され、72年の浅間山荘事件を経て、2000年まで50年にわたって大切に第一線の装備品として使用している軍用のM1911……ではなく、比較的新しい市販品のコマーシャルモデル『シリーズ70』のようです。長野の県費装備でしょうか。

戦後の日本警察で配備された旧型けん銃を徹底解説

本部長は『通常のけん銃が通用しないのでP230を支給する』と上層部からの通達を伝えるが

捜査当局が『未確認生命体』と呼称する超古代から目覚めた“もう一つの人類”『グロンギ』が不気味な復活を経て、本部庁舎が公然と襲撃される事態に陥り、騒然とする長野県警。

第一線に支給されている『ニューナンブM60』や、警備部の一条が使用する『コルト45』でも制圧力が不足している現実をまざまざと見せつけられたなかで、ついに未確認生命体による特殊事案対策本部の立ち上げとなります。

そこで対策本部長は関東管区警察局からの通達を以下のように伝えます。

『すでに通常のけん銃が通用しない相手であることが分かっている。長野県警には現在、特殊部隊SATが使用しているシグ・ザウアーP230自動けん銃、ヘッケラー&コッホMP5サブマシンガン、高性能狙撃ライフルが配備されることになった』

出典 『仮面ライダークウガ』第3話より

『特殊銃』とは実際に警察で配備されている機動隊・特殊部隊向けの銃器の呼称。しかし、単に『特殊銃の使用が決まった』と概要だけ述べるに留まらず、モデルの名称をそれぞれ読み上げるとは、と唸るのも束の間。

警察の銃器.2 『特殊銃』MP5から自衛隊89式、対物狙撃銃まで

そもそもとして2000年当時、広く第一線に配備されていたニューナンブやM37といった38口径回転式の『通常の(38口径)けん銃』が通用しない“致死的制圧やむなし”の相手に、低威力の32口径であるP230を敢えて使えとは、どのような意図があるのか不明です。

この点について、やはり多くの方が疑問を呈している様子。一発あたりの威力より、8発+1発の計9発が装填できる装弾数の優位性を求めた結果とも推察できそうですが、詳細は不明。なお、SATの装備品を警察庁が公式動画で報道へ公開したのは2002年ですが、それに拠れば当時のSATにはP226、USP、グロック19などの9ミリ口径のセミオート・ピストルが配備されていたことが判明しています。しかし、P230を手にした隊員は映っていませんでした。

一般的ではない作動方式の安全装置を後付け追加ならびに、38口径より劣る32口径で『採用は不適切』とまで専門誌ライターに言わしめた日本警察独自仕様P230ですが、地域課の腰道具を回転式からコレに一斉変更したい計画もあったとかなかったとか。結局、一斉更新どころか日本警察は梯子をはずしてしまい、余剰在庫が出て困ったSIG社さんは米国市場に『日本警察仕様版P230』を咽び泣きながら放出する悲惨な事態に。

一条さんも思わず『.45ACPをやすやすとはじき返す未確認生命体に対し、32口径のP230で敢えて臨もうとするのか……』と思ったか定かではありませんが、いずれにせよ、長野県警は果たして彼らグロンギの『ゲゲル』を阻止できるのでしょうか。

『当初予定されていたP230じゃダメだと判断されたんでしょうね』→警視庁、捜査員にとんでもない銃を支給してしまう

結論を言えば、未確認生命体『グロンギ』に対しては32口径のP230どころか『45ACP弾』ですら制圧力不足であり、関東管区警察局からのP230使用通達は事実上実行はされませんでした。つまり、本作においては結局P230は”言及”のみ。

トイガンの『P230』はすでに90年代後半、KSCから発売されており、プロップガンに改修できなかったことはないと思われますが、事情から用意はされなかったようです。

ともかく、一条は長野県警から警視庁の『未確認生命体対策本部』へ出向する展開になりますが、そこで一条はコルト45に代わり、改めて『別の銃』を支給されます。

画像の引用元『仮面ライダークウガ』第7話より。一条ら特別捜査本部の捜査員には警視庁上層部の決定で『ある銃』が支給された。(c)東映. All rights reserved.

警視庁の射撃訓練施設で一条薫と同僚の刑事が短く交わした会話は以下。

『.357の6インチか。えらいもんが支給されたもんだな・・・』

『当初予定されていたP230じゃダメだと判断されたんでしょうね』

出典 『仮面ライダークウガ』より

その手に握られているのは.357マグナム仕様の長銃身回転式けん銃。P230に代わる銃として上層部が対策本部の専従捜査員に支給したのは『コルト・パイソン』の 6インチでした。ドラマとはいえ、警視庁が捜査員に『コルト・パイソン』を支給するのはなかなかの”鬼門”では。1995年3月30日午前8時半ごろ、国松警察庁長官(当時)が東京都荒川区南千住の自宅マンションを出た所で狙撃されましたが、犯人の銃がまさにコルト・パイソン(8インチ)でしたから……。

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パイソンはSAAやガバメントと並ぶコルトの3大ハンドガンのひとつ。なお、このパイソンは五代雄介がクウガへと変身する際に一条が手渡し、銃もまた『ペガサスボウガン』へと変形する。

この射撃場のコルト・パイソン357マグナムを見て分かるのは、1988年のあの作品のオマージュだということ。ダガーナイフ投げつける女刑事とモッコリではなく、映画『エイリアン・ネイション』です。同作でも、一般オフィサーに支給される9ミリ口径のけん銃が通用しない宇宙人対策として、主人公のジェームズ・カーン演じる刑事が警察の武器係に『デカくてメチャ弾が入るやつ!』を用意させる描写があります。おい、そのセリフは92年の映画『カフス!』でM92購入時の場面じゃねえのかい?(笑)『カフス!』もいい映画です。ともかく、強力な『.454カスール弾』を使用する『フリーダムアームズ M83』が用意されたわけです。受け取れ勇者よ。それは『プレデター2』のラスト。

映画『エイリアン・ネイション』より。ジェームズ・カーン演じる刑事が『宇宙人対策』として用意させるのは強力な『.454カスール弾』を使用する『フリーダムアームズ M83』だ。隣にいるのは相棒の宇宙人。ちなみに『スーパー・マグナム』 (Death Wish 3)でポール・カージーがスーパーDQN対策で通販で購入したのは『45マグナム・ウィルディ(くん)』であった。それはDQN人間に対してオーバーキルじゃないの〜?ALIEN NATION, James Caan, 1988, TM and Copyright (c)20th Century Fox Film Corp. All rights reserved.

ともかく、現場の捜査員にはP230どころか、.357マグナムのパイソンの支給を決定される驚愕の展開になるわけですが、そもそも『.45ACP弾』も効果がなかったのだから、捜査員に高威力のけん銃を携行させたいなら、上層部は.357ではなく.44マグナムの支給が最適解だったのでは。もしくは『.454カスール弾』を使用するS&W M500の製造販売は2003年で、未だ存在していないクウガの世界線では『デザートイーグル』の50AE版の支給がベストだったのかもしれません。しかし、それをやるとバイオの“対ゾンビ戦用最終兵器(リーサルウエポン)”とかぶるし、制作サイドとしては悩ましかったのかもしれません。

いずれにせよ『グロンギ族』は次々と日本各地で“ゲゲル”を開始。ゲゲルの一種『ゴ・ガドル・バ』の対象として『西多摩署の戦士(男性警察官)』が明確にターゲット化され、108人が無力化されてしまう凄惨な事態に。人が命を奪われる条件設定にやたら拘る『デスゲーム』漫画が最近の流行のようですが、クウガはその走りだったのかもしれません。

グロンギ族による蛮行『ゲゲル』を防ぐため、一条らはクウガと共に、支給されたコルト・パイソンや、科学警察研究所が開発した特殊な『神経断裂弾』を装填した特殊銃1型『高性能狙撃ライフル』といった各種装備品を用いてグロンギと対峙。そして、その制圧力は有効でした。最終的にはライフルが用いられますが、そもそも何故、”捜査員が上着に隠せるけん銃”に上層部が拘ったのかを推察すると、「市民感情対策」だったのではないでしょうか。そう考えれば、警察庁が自衛隊に協力要請しなかったことも合点が行きます。

なお、『P230』同様、サブマシンガンの『MP5』についても本部長の通達時の言及のみで登場はしなかった模様ですが、39話でSAT隊員がFA-MASを携行しています。

『クウガ』の劇用車も興味深い

実はこの『クウガ』では、リアルに再現された捜査車両の登場も見逃せません。前回の『アンフェア』劇用車考証に引き続き、今回は『仮面ライダークウガ』における捜査用覆面パトカーを検証。

交通覆面を敢えて捜査用に?

Y31セドリック覆面がその正体をさらけ出す瞬間!反転式、ナビミラー、TLアンテナ二本立て、マエ赤、8ナンバー、古き良き時代の覆面パトカーの伝統スタイルが輝かしい時代。画像の引用元「仮面ライダークウガ』より。(c)東映. All rights reserved.

Y31セドリックの覆面といえば実際に交通覆面として全国で配備された実績があり、そのイメージが強いが、一条は同車を捜査用として劇中で使用。しかもこの劇用車、着脱式ではなく反転式赤色灯、さらに8ナンバーであることから本来は交通覆面を模していると思われ、妙なこだわりを感じさせます。2000年当時の実際の捜査用覆面といえば、所轄ではレガシィ、U13/14系ブルーバードが主力で、機動捜査隊など激しい追い上げが必要な部隊には98年配備のR34スカイライン25GTなどが活躍していた頃です。

後述しますが、反転式赤色灯を備えた覆面パトカーであった経緯について、どうもクウガの後に放映された別の作品の制作関係者にRL誌が取材した結果、ある理由があったことがわかります。

覆面パトカー搭載の『MPR-100』!?

茨城県内で発生したゲゲル現場へ向かうため、緊急走行中のセドリック覆面の車内。一条が茨城県警本部と交信する場面より。

無線のハンドマイクに手を伸ばす一条。お、この無線機は・・・。側にはパトライトのアンプ用マイク。(c)東映. All rights reserved.

当時、警察車両に装備されていたのは『MPR-100』車載無線機ですが、驚くべきことに一条の捜査の足となっているセドリック捜覆に備わっているのは、まさに『MPR-100』らしき筐体。

『MPR-100』!? 母屋やクウガ(雄介)の乗車するバイク(警察が開発)に搭載された無線機とも交信が可能。画像の引用元「仮面ライダークウガ』より。(c)東映. All rights reserved.

MPR-100』はその筐体を利用した民生用業務無線機も市販されていたため、当然、撮影にはそちらが代用されたものと思われますが『警察無線機』としての考証は正確この上ありません。

デジタル警察無線MPR、APR、IPR、その変遷の歴史

リアルな覆面パトカーの再現度は次作の『アギト』にも受け継がれる

R34覆面パトカー車内のモッコリに注目。でかい。画像の引用元「仮面ライダーアギト』より。(c)東映. All rights reserved.

リアリティの再現性から『クウガ』の次作『仮面ライダーアギト』も見逃せません。こちらは物語中盤から主人公で警視庁未確認生命体対策班『G3ユニット』に所属する刑事・氷川誠が物語中盤から乗車するのが捜査用覆面パトカー『スカイライン R34』です。

謎の生命体アンノウンへの法執行のため、GENERATION-3、通称G3システムと呼ばれる特殊装具を着装し、未知なる脅威へ立ち向かう氷川ら警視庁のG3ユニット。その足車『R34』。もっぱらの運用目的は捜査用であるから、本来は着脱式警光灯であるはず。しかし、ラジオライフ2002年2月号の記事に拠れば、『番組の性格に合わせ』敢えて反転式になったそうです。反転式警光灯を備えた捜査用覆面パトカー『スカイライン R34』。子供向けヒーローなので、メカメカしさを演出したかったのでしょうか。

ほかにも細部にわたってこだわりが。車内にはサイレンアンプ、フロントバンパー下部にはメッシュカバーの奥にドライバユニットも設置され、あくまでホンモノの覆面パトを再現。

こちらは『MPR-100用送受器』の文字が……(驚愕)画像の引用元「仮面ライダーアギト』より。(c)東映. All rights reserved.

前作の『クウガ』でも登場したMPR-100らしき無線機は『アギト』でも登場。こちらは『MPR-100』の文字がしっかりと……(驚愕)。

ほかにはこんな2個載せ仕様のエクストレイルも。

なお“自衛隊との共同作戦”がなかった『クウガ』ですが、『劇場版 仮面ライダーアギト PROJECT G4』では自衛隊が絡むのが興味深いと言えます。”G4”開発を画策する一方で自衛隊内部で超能力(ESP)や人工知能の研究開発に携わる陸上自衛隊の女性将校・深海理沙が登場。『クイズ』を装ったメールを不特定多数のJ-PHONE(笑)に送りつけ、正解者(能力者)を探す女子3尉という役柄ですが、今流行のそうゆーデスゲ系漫画の走りみたいなものかもしれません。

おめえの籍、ねえから。除籍(笑)みんなのガラケーに迷惑メールを送りつけてくる発信元は陸上自衛隊の人工知能開発実験隊女性幹部・深海理沙でした。アフィリエイト目的ではなく、自衛隊が公務でAI開発と”能力者”確保の一環としてやってるのが怖いよな(笑)23年前の子ども向け作品で『出会い系サイト』という単語が普通に出てくる世界線、最高にイカす。今はマッチングアプリって言うんですか。画像の引用元『劇場版 仮面ライダーアギト PROJECT G4』より。(c)東映. All rights reserved.

警視庁のコンピュータから盗み出した『G4』設計データに自ら開発したAI(人工知能)システムを搭載し、最強の自衛隊装備品を開発しようとした深海理沙。おそらく自衛隊退官後は防衛装備大手か外資系IT企業への天下りも画策していたのかもしれません。

『パソコンから情報盗むのやめてもらっていいですか』と抗議する(!?)G3開発者で警視庁の小沢澄子。『なんかそういうデータあるんですか?』ととぼける(!?)自衛隊の深海理沙。女性警察官と女性自衛官の思わぬ対立が子ども向け特撮作品で。野心家がフラグを立てると『転落』の道へ……。画像の引用元『劇場版 仮面ライダーアギト PROJECT G4』より。(c)東映. All rights reserved.

ネタバレ注意ですが、男性にばかり戦争させ、自分は安全な場所から指揮する女性自衛官は『なによそれ・・』からの多数のアントロード フォルミカ・ペデスに絡まれ、クッコロ……。

余談ですが、刑事モノに登場するR34の覆面パトカーと言えば、1996年から2004年にわたってテレビ朝日系で放映され、いまだ熱狂的なファンがいる『はみだし刑事』もはずせません。本作のシーズン3でも広域捜査用車R34が画面せましと大活躍……と、思ったら『はみだし刑事』も東映製作なんですね。

まとめ

ゲゲルはまさに国難。それに対抗する治安機関がSIG SAUER P230で挑むのは無茶でした……。しかし、コルト・パイソンも科警研開発の神経断裂弾もなく、そして五代くんと一条さんがいなかったら、日本はグロンギ族のゲゲルの前に滅亡してたかもしれません。ありがとう、サムズアップ……。

仮面ライダーシリーズの『クウガ』や『アギト』は2024年4月1日現在、ネット動画配信サービスの『Hulu』などで視聴が可能です。

https://www.hulu.jp/kamen-rider-kuga

いずれにせよ、銃器や捜査車両のリアリティに痺れつつ、あの2000年台頭の不景気でウスラ寒々しい日本社会、国立大卒が公務員の身分欲しさに自衛隊の使い捨て隊員になる時代、その時代を背景に活躍する当時の若者たち(氷河期世代)に酔いしれよう!ええーっ?氷河期おじさんはもうあの頃のドラマは見たくないって!?