警察官の持つ特殊警棒(特殊警戒用具)は被疑者の制圧や人命救助のために車のサイドウインドウを割るなど、さまざまな場面で多用されている。
特殊警棒の解説はこちら。
フジテレビで以前放映された警察密着番組「踊る!大警察」では神奈川県警察の機動捜査隊の隊員が乗務する覆面パトカー『広域243』と不審車とのカーチェイスシーンが報じられていた。
サイレンをけたたましく鳴らして猛追するMIUの覆面パトカーに威圧され、不審車は交差点で速度を落とし、停車したかのように見えた。しかし次の瞬間、不審車はMIU隊員2名とカメラマンの乗る『広域243』に体当たりを仕掛けた。
堪忍袋の緒が切れたベテラン警部補が「ガラスを割れ!」と助手席の新人MIU隊員を嗾けると、隊員は即座に覆面パトカー『広域243』から飛び降り、逃走車両に駆け寄る。腰のホルダーから引き抜いた特殊警棒をサイドウインドウに振り下ろす。乾いた音とサイレンが神奈川の夜空に響く。しかし、MIUの決死の追跡にもかかわらず失尾してしまう。
後日の捜査で判明したところによれば、激しく警棒で叩かれたはずのサイドウインドウは割れておらず、ポリカーボネート製のドアバイザーのみ破損させたのみ。
覆面パトカーを運転していた警部補は助手席のドアポケットに突っ込んでいたレスキューハンマーを指して「レスキューハンマー積んであったんだよ……」とダメ出しをしていたが、若手のMIU隊員は「あとから思い出しました」とアッケラカンとしていたのが印象的だった。
『ガラス・クラッシャー機能』つき特殊警棒の登場
現在、我が国の警察では法執行時や救出において、警察官が特殊警棒を使用して車のサイドウインドウを割る場合、警棒を振り下ろすのではなく、本体のグリップエンドに仕込まれた『ガラス・クラッシャー機能』を使うことが大半だ。
以下の動画では逃走車両が警察官に追跡され、降車命令に従わずに車内に立て篭もった運転者に法を執行するため、捜査員らが車両の周囲に大勢集まっている様子がわかる。
私服の捜査員は特殊警棒を片手に、警告を繰り返すが、車内の人物はいかなる理由があるのか従わない。捜査員は特殊警棒をサイドウインドウに何度か打ちつけるが、ウインドウはまったく割れない。そこへ制服警察官の一人が『クラッシャーありますよ』と言うや否や、特殊警棒のグリップエンドでウインドウを一突き。ウインドウはあっという間に破砕され、次の瞬間捜査員が車内になだれ込み、運転者を取り押さえた。
『ガラス・クラッシャー機能』はグリップに内蔵されたピン型の突起であり、引き起こして使う。
この機能を使えば、ドアをロックして立てこもる犯人の車や救助対象の車両のガラスを簡単に破砕可能だ。
言うなれば、レスキューハンマー機能を特殊警棒の後部に持たせているのだ。
『ガラス・クラッシャー機能』つきの特殊警棒は装備品業者の武田商店(東京都渋谷区)が山口県警察などに納入しているが、宮崎県警察が開発し、意匠登録も済ませてある「ガラスクラッシャー改良型警棒」も優れた装備品だ。
宮崎県警察が開発した「ガラスクラッシャー改良型警棒」
警察では事故や災害で車両などに閉じ込められた要救助者を救出する場合、パトカーに搭載されたレスキューハンマーや腰に吊った特殊警棒の底部に備えたガラスクラッシャー機能を活用している。
近年、宮崎県警察本部では受傷事故防止ならびに迅速な救助のため、特殊警棒のグリップエンド全周を山型加工することで、従来の警棒の底蓋に備えていた『引き出し式ピン型ガラスクラッシャー』に代わる機能を持たせた(意匠登録済み)。
以前の引き出し式ピン型ではピンを引き起こし、ウインドウに対して垂直に突き出して破砕をしなければならず、警察官が手に受傷する事故が相次いだ。
グリップエンドが全周山型加工された新型底蓋ではピンの引き起こしおよび、突く動作を必要とせず、横振りのスイングによるウインドウ破砕ができるため、より安全な救助ならびに法執行が可能となった。
また新型底蓋への交換費用は警棒一本あたり約2000円とリーズナブル。
同県警が開発したこの「ガラスクラッシャー改良型警棒」は平成24年10月、警察庁主催の「警察装備資機材開発改善コンクール」にて最高賞である警察庁長官賞を受賞している。
参照元
宮崎県警察公式サイト、週刊ダイヤモンド 2016年7/30号、警察危機管理防災委員会視察報告(埼玉県)
このように現在、警察官が特殊警棒で迅速かつ安全にガラスを割りたい場合、グリップエンドに設けられた『ガラスクラッシャー機能』を活用することが主流だ。