目次
刑務所や拘置所内において、受刑者の矯正処遇業務と治安維持一般を任務とする法務省職員(法務事務官)である刑務官。
刑務官には矯正施設内に限って、規律違反を罰する『戒護権』、さらに犯罪の『捜査権』といった法執行の権限が与えられている。
刑務官は普段、紺色の制服と制帽を着用し、携行品はポケットに捕縄、呼び笛、刑務官手帳のみ。だが、捜査等必要に応じて特殊警棒、けん銃の使用も認められている。
刑務官の各種任務
刑務官は主に各矯正施設内において職務を担う。
刑務官の武道拝命『武拝』と特別警備隊とは
警察官採用試験ではプロボクサー崩れや相撲部屋崩れなどゴリゴリの格闘技経験者を採用試験で加点して優遇する制度や、柔剣道の指導者枠で採用する制度などがある。大学入学試験における一芸入試のようなものである。
『柔剣道の指導者枠』に関しては刑務官にも武道に秀でた男性有段者を指導者として採用する『武道拝命』がある。この通称”武拝”が怖いと評判だ。
彼ら『武拝刑務官』を主体に構成されているのが、管区矯正局が編成している刑務所内のセキュリティ・フォース『特別警備隊』だ。警備隊員は通常の刑務官と異なり、濃紺の出動服と編上げ靴を常用。また、一般刑務官が非武装であるのに対し、警備隊員は警棒で常時武装。
その名の通り、警察の機動隊のような対暴動部隊と同等だが、刑務所ごとではなく管区ごとに編成され、管内の他の刑務所で暴動や逃走事故が起きた場合にも派遣される。
普段は一般刑務官に混じって刑務所のあちこちに立って受刑者を監視するなど、所内風紀と規律、秩序の維持が任務。普段は隠れており、あまり見かけることはないというが、受刑者がケンカや暴動を起こせば、刑務官の警笛がピリリと鳴るや否や、どこに潜んでいたのか、たちまち出動服で大勢で駆けつけ、受刑者を引っ立てる。
連行スタイルは、うつ伏せにされて両手両足を数人の隊員につかまれ持ち上げられる通称「飛行機」。刑務官による受刑者への暴行は、もちろん認められないが、受刑者が暴れると、不可抗力で床に落とされるので、受刑者は暴れるのをやめてしまう。それらが恒常任務のため、警備隊員は威圧感がある体格が特徴だ。
拘置所と死刑制度
刑務所とは刑が確定した者を服役させるために収容する矯正施設であり、更生の機会を与える場である。受刑者の更生に寄与するのが刑務官の職務であるが、死刑執行を担うのもまた刑務官である。
拘置所とは刑が未確定の未決囚とすでに刑が決まって刑務所に送られる前段階の既決囚が留め置かれる施設だ。意外に自由なのが、この拘置所に留め置かれている未決者の生活。毎日お菓子も食べられるし、本も読み放題。何より嬉しいのは刑務所と違い、強制労働が無い。普段、未決囚は拘置所内で私服が着用でき、頭髪も自由。大抵の未決囚は読書をして過ごすが、合法的にニートが可能。また、面会や手紙の発信が平日なら毎日可能。刑務所では「月に数回」と制限があるのでこちらも大変な優遇だ。
拘置所では無論、質素ながら食事は無料。しかも、自分の金があれば出前も可能。東京拘置所では実に100種類以上の食品のほか、衣類、マンガ、布団、お金まで親族なら拘置所への差し入れも可能。こちらも刑務所に比べるとかなり優遇されている。こんな天国のごとき合法ニート収容所の一方で、もう一方の地獄の側面もある。拘置所で何が行われているのか?そう、死刑執行である。
拘置所には上記の未決囚のほか、いわゆる死刑囚がいる。裁判所から更生のチャンスを与えられず、死刑確定を受けた者が収容され、死刑を執行されるのも、ここ拘置所なのである。
先述の通り、刑務所は服役をするための施設。死刑判決を受けた被告人は死刑自体が与えられた罰であるため、死刑囚に懲役という強制労働はない。つまり、刑務所に服役せず、死刑判決後はそのまま拘置所内で高く吊るされるその日まで拘置されるのだ。
死刑囚は基本的に単独房に収容されており、その日々は何もせず読書や写経などをするか、自分から願い出て居室内で軽作業をするぐらいしかなく、陰鬱で苛酷だ。 単独房にはトイレや流し台、寝具など一式揃うが、非常に狭く自由に動ける広さは無い。死刑の恐怖心から精神的不安のほか、運動不足による病気も問題だという。
なお、上述の通り未決囚は外部からの食べ物の差し入れが比較的自由であるのに対し、彼ら死刑囚の場合は厳しいようだ。
和歌山砒素カレー殺人事件の犯人とされて逮捕され、死刑判決を受けた林真須美死刑囚の場合、外部交通制限で、事実上面会人が面会できないというが、その措置は違法であるとして林死刑囚側が国に賠償請求を求めており、慰謝料の判決が出ている。ただ、多くの死刑囚は差し入れもなく、大半の日用品を官物で過ごしているという。
なお、アメリカの死刑囚が死刑に処される寸前には必ず希望する食事、つまり最後の晩餐が刑務所の計らいで与えられる。死刑囚たちが希望する食事は実に様々で、アメリカの国民食たるステーキを腹におさめてこの世を去りたいを希望する者が多いようだ。一方、日本における死刑を巡る慣習にはそのような刑務所側の計らいは現在なく、執行を行う部屋に置かれた祭壇に供えられたお菓子を執行直前に食べることが許される程度の温情だという。
刑の執行では立会人として刑務官、医官、そして検察官と検察事務官が同席する。元検察官で『ヤメ検弁護士』として有名な故・佐賀潜は著書『刑法入門』において、検事時代、死刑が執行された際に、担当でもないのに興味本位で立ち会ったと詳述している。なお、佐賀潜は1969年に放映された日本初の法律系テレビアニメ『六法やぶれくん』の原作者でもある。行政書士が主人公の漫画『カバチタレ!』みたいなテレビアニメで、シモ系の民法のみならず刑法も扱っていたという。
なお、アメリカと違い、死刑執行時に被害者遺族の同席は認められない。また、刑務所の中にも死刑を執行する設備を持った場所も存在する。
裁判所の刑務官
裁判所もまた法務省の管轄下であるため、裁判所から拘置所や刑務所への被告人移送も刑務官の任務の一つである。刑事事件の公判中では被告人が暴れないように、刑務官がその脇をがっちりと固めており、ひとたび被告人が暴れたりでもしようものならば取り押さえられる。
一方で、裁判中に裁判官が親の命を取った被告人にかけた優しい言葉で、被告人や傍聴席、それに屈強な厳めしい刑務官までもが思わず涙ぐみ「刑務官までもが涙をホロリと流した」のが面白いと言って、わざわざニュースの記事になったこともある。
刑務官は逃走した受刑者を刑務所の外で捜査及び逮捕できる
高い塀に鉄の扉。舎房の床はコンクリート。各所に監視カメラ。これで脱走を成功させるには、刑務官を買収するか、外部の協力者が必要になるだろう。実際にアメリカの刑務所では刑務官の買収が多く、脱獄も多い。
半世紀前、昭和の中期や後期では日本の刑務所でも脱獄は頻繁で、中には刑務官が殉職したケースもある。単に脱走と言えど、刑務官に暴行すれば公務執行妨害、刑務所の中のガラスなどを割ったり壁を損壊すれば器物損壊、刑務所から支給された衣類を着用したまま逃げれば窃盗も加わることになり、大変な重罪になる。脱走などしても罪が重くなるだけでメリットは何もない。
このような脱走犯を追跡、捜査するのは本来であれば都道府県警察の任務。ただし、本来は捜査機関ではない刑務所の刑務官にも実は警察官と同様に脱獄した受刑者を逮捕状なしで逮捕する権限が付与されている。ただし、捜査できるのは48時間以内という期限付き。
近年では監視カメラにセンサーまで配置するハイテク化された現代の刑務所からの脱走は困難で、ほぼ不可能に近いものの、2012年には広島刑務所で実際に懲役23年の脱走犯が出ており、その追跡には同刑務所の刑務官も加わっている。このケースはたまたま、刑務所の外壁の工事が行われており、足場がかけられていたために逃走されたが、普段の刑務所からの逃走は不可能に近い。
刑務官の待遇
公務員ともなれば、楽な勤務で高い給料。ところがどっこい刑務官の世界はそんなに甘くない。警察官やもはや誰も入隊しない自衛隊、海上保安官に比べるとマイナーな刑務官という公安職公務員。そう、刑務官や警察官といった公安職は一般行政職の国家公務員の俸給表の基準に準じない。公安職専用のかなり高額な俸給になっている。一方で、警察官、自衛官などと同様に労働基本権が認められていない。
一度出勤すれば基本的に勤務時間中はずっと刑務所の中。不要な外出はできない。もちろん、移送任務や各種の連絡などもあるから業務で外に出ることは当然ある。
また、受刑者が外部の病院へ入院した場合などは、交代要員を含めると6人がかりで一人の受刑者を24時間監視する。
女性刑務官の任務と女性受刑者を収容する女子刑務所
女性刑務官が直面するのは同じ女性受刑者の摂食障害や、妊娠出産の問題。女性刑務官の離職率も問題なのだ。現在、女性受刑者を収容する「女子刑務所」は全国に点在する。
「栃木刑務所」「笠松刑務所」「和歌山刑務所」「岩国刑務所」「麓刑務所」と全国に5ヶ所ある女子収容施設(刑務所・刑務支所)。このうち、職業訓練ではやはり女性らしい美容師の訓練があるのは笠松刑務所。では、やはり女性の権利を守るため、ほとんどが同性である女性刑務官が主体となって、男性刑務官とともに受刑者を戒護している。
女子刑務所でも男性刑務所同様にいじめの問題があり、トイレに手紙や私物を流す嫌がらせ等が起きている。女子刑務所での刑務作業は、男性受刑者同様、縫製作業や金属組立(ハーネス組立)作業等といったものが主。また、男子刑務所では受刑者が警察官や自衛官の制服や装備品を縫製して製造しているが、やはり女性の刑務所でも女性受刑者たちが、刑務所職員の制服や警備隊の出動服を製造している。びっくりですねー。
女子刑務所では性別の違いからか男子刑務所とは違って、受刑者の罪状で収容される刑務所を決めていない。また、女子刑務所には母子像が設置されており、我が子を思う女性受刑者の心情をあらわしている。
今、女子刑務所では60歳以上の収容者の割合は平成22年に約15%だったものが、平成25年には実に25%に増え、高齢化問題の対策が進められている。
一方で、こんな仕事やってられない、頭がおかしくなる、もううんざりだと言って女性刑務官の離職率も増えている。女性刑務官が直面するのは同じ女性受刑者の摂食障害や、妊娠出産の問題。その女性刑務官の離職率は2017年度で34パーセント。
http://kasamatsu-prison.go.jp/dailywork.php
刑務官以外の刑務所職員
刑務所には様々な刑でぶち込まれた受刑者がいるが、刑務所でその運営や公務を執行する主体は言うまでもなく、刑務官だ。また一方で、様々な受刑者に対応するため、刑務官以外の法務省職員も勤務する。
それが法務教官や矯正医官といった特別な職員である。彼らの給料や待遇などは刑務官よりも高いのが特徴だ。
法務教官
犯罪を犯した少年たちは、保護処分という処罰を受けたのちに少年院に送られる。懲役や禁錮処分を受けた少年は16歳まで少年院に収容することが法律で認められている。この少年院や少年鑑別所などに勤務する専門職員を法務教官という。幅広い視野と専門的な知識をもって、少年たちのきめ細かい指導・教育を行うのが任務だ。また、刑事施設(刑務所,少年刑務所及び拘置所)に勤務することもある。その場合は性犯罪や薬物依存などに関わる指導のほか、就労支援指導や教科指導等も業務になっている。
少年院は刑務所と違って罰を与えるために強制労働をさせる施設ではない。罪を犯した少年たちには矯正教育を受ける権利があり、少年院の矯正教育は在院の少年を社会生活に適応させるため、生活指導、教科(義務教育で必要な教科、必要があれば中等教育及び高等教育に準ずる教科)、職業補導、適当な訓練、医療を施すのが目的となっている。
基本的に少年院は男女別の収容になっており、これは医療少年以外の少年院は全て同じだ。初等少年院は心身ともに健康で、おおむね12歳以上おおむね16歳未満の者を収容する。中等少年院は心身ともに健康で、おおむね16歳以上20歳未満の者を収容します。 特別少年院 凶悪犯罪を犯した16歳以上23歳未満の者を収容すます。16歳未満の少年院収容受刑者も収容。医療少年院はおおむね12歳以上26歳未満の心や体に重大な病を持つ者を収容。関東医療少年院 (東京都府中市)、神奈川医療少年院 (神奈川県相模原市)、 宮川医療少年院 (三重県伊勢市)、 京都医療少年院 (京都府宇治市)の4つがある。
少年院には比較的罪の軽い少年が送られるが、凶悪な場合は少年刑務所に収監される。少年院が更生と保護を目的とした施設であるのに対して、少年刑務所は受刑者を懲らしめるための一般の刑務所とほぼ変わりない。職員も少年院では法務教官なのに対し、少年刑務所では刑務官が主体だ。
また、少年刑務所には少年だけでなく、成人の受刑者も収容されている。函館少年刑務所では職業教育訓練の一環として、実習船『少年北海丸』を用いた訓練がある。
矯正医官
刑務所などの矯正施設で収容者を診療する医師は法務省の「矯正医官」と呼ばれる国家公務員だ。受刑者への診療や治療が普段の医官の業務だが、「お仕置き部屋にコイツ何日耐えられるかな」を見極めるのも業務である。刑務所で悪さをしたり、ニート受刑者が「働きたくないから」と、わざと問題行動を起こしたりすると、通常一週間程度、保護房に送られる場合。その際に医官が「この受刑者は何日くらい耐えられるかな?」を診断で見極め、刑務官に医師の立場からアドバイスする。
法務省は常勤の医官を定員332人と定めているが、2013年4月時点で260人と2割以上の欠員が出ている状態だ。なり手が少ない理由は、やはり民間の医師に比べ安い給料だろう。
50歳の医師の場合、民間では平均月給100万円かそれ以上がザラだが、法務省の矯正医官では平均月給80万円とのことで、20万円の差とはいえ、4000万円の医大の学費ローンを早く返済するためにも、出来れば給料が高いほうに行きたいと考えるのが医者として当然だろう。法務省では大々的に医師を募集しており、その条件を見ると非常に好待遇だ。
まず、国家公務員でありながら、フレックスタイムで外部の医療機関との兼業も出来る。しかも夜間休日当直すらないのだという。うーむ……やはり4000万円を借金してでも医者に……。
精神や身体に疾患、疾病がある受刑者を収容する施設、医療刑務所
法務省に専属の医師がいるのなら、専用の医療刑務所も四つ設置されている。ここでは主に、高齢で介護が必要な受刑者、身体に病気を抱えている受刑者、また覚せい剤中毒の受刑者が入所する。警察官や刑務官は一度シャブをやるとほとんどの人がやめられないのを知っているという。今日も田代まさしが職質されていた動画を見た。
なお、医官で対応できない場合は外部の医療機関に受刑者を搬送する場合もあり、医療刑務所では独自に救急車を配備している。精神障害者を収容している八王子医療刑務所では「法務省」とサイドに書かれた独自の救急車も配備されている。
刑務所が民間運営されている?突然日本に出てきたPFI方式の民間刑務所
国が民間企業に公務を安い賃金と民間資産で代理執行させる方式をPFIと呼ぶ。PFI運用されている民間ムショが近年、各地に設置されている。ただし、完全な民間運営ではなく、半官半民刑務所と言ったほうが適切だ。だが実際には「刑務所」という名称は使わず「社会復帰促進センター」という名称になっており、美祢、島根、喜連川、播磨の各センターが運営されている。
現在、全国に4か所あり、山口県の美祢社会復帰促進センターでは国と517億円で20年契約をむすんだ警備会社やマンガ会社が共同出資しており、民間人が給食や巡回、職業訓練などをするほか、もちろん公務員たる刑務官も常勤する。
初犯や軽い罪の受刑者しか入所できないのが「社会復帰促進センター」の特徴で、美祢社会復帰促進センターを例にとると、通常の刑務所に比べると格段に規則がゆるく、初心者向けの刑務所と言われる。外周もコンクリート壁ではなくフェンスになっており、よりソフトなイメージを醸し出す。また、驚くべきことに一般刑務所は通常、雑居房にて6,7人の集団生活だが、美祢社会復帰促進センターではは95パーセント以上が個室になっている。とはいうものの、所内は刑務官と民間警備員が共同で巡回しており刑務所であることに変わりはない。なお、美祢では、一般刑務所の受刑者同様、頭髪は坊主刈りに近く、ヘアスタイルの自由は一切ない。
気になるのが、”民間刑務所”内での警備員の権限だ。刑務所に配置されている民間の警備員はセコムだが、彼らには一般警備員同様、業務上の施設管理権しかなく、あとは個人的な正当防衛などの権利しか認められず、受刑者に対する公権力の行使はできない。そのため、受刑者に対する公的な処置が必要な場合は、すべて刑務官が行う。
刑務所や刑務官を主題とした作品
刑務所を舞台とした作品の一部には、”作者が元受刑者”というアンタッチャブルな側面もあり、単に娯楽作品としては割り切れないドキュメンタリー的な部分も垣間見えるので興味深い。中でも、2002年に公開され多くの話題を集めた映画が「刑務所の中」という映画の原作は花輪和一の同名マンガ。実は作者自身が逮捕され刑務所へ入って中の様子を体験したうえで描かれた”実録作品”である事に留意したい。
同作品ではとくに刑務所の中の食事の描写の細かさが話題になり、映画版でもそれは忠実に原作が踏襲されている。観た人からは「刑務所では意外にいいものを食べている」とか「食いたいけど、入るわけにはいかねえし」「用便願いまーす!」といった声が聞こえている。
映画で登場するのは架空の『北海道日高刑務所』だが、花輪氏が実際に収監されていたのは函館少年院であり、同院では成人の収容者もいる。劇中にて、優良受刑者たちのみに許される2級受刑者集会という映画鑑賞会が描かれているが、受刑者たちが映画『キッズリターン』を見ながら淡々と流れ作業のように”甘ャリ”こと『アルフォート』を口に運んではコーラで流し込むという、見ていて何とも言えないシーンがある。甘い菓子は「甘シャリ」と呼ばれ、普段は祝日か正月、そしてこのような受刑者集会でなければ口にすることは許されない。受刑者たちのつかの間のひと時。映画に夢中になり、気が付けばアルフォートの残りが数枚に。
映画が終われば、そこで楽しいひと時も終わり、菓子の包装とコーラの空き缶はその場で回収され、映画の感想を口々に述べることも許されず、無言かつ、2列縦隊でそれぞれの居住する雑居房へ戻される。菓子を房に持ち帰ることは当然できない。刑務官へのアテツケなのか、空き缶を乱暴にゴミ箱に投げていく者もおり、刑務官の目がぎろりとするのも演出が細かい。
ところで、この花輪氏。彼の本業はマンガ家であるが、なぜ刑務所へ収監されることになったのかといえば、元来のモデルガン収集癖が高まり、モデルガンで済まないところへ行き着いたために逮捕されたことによる。この件はこちらの記事でも最後に言及している。
この映画を観終わって気が付いたのだが、この作品には冒頭のミリタリーキャンプ(コンバットゲーム)シーンから含め、女性が一人も出てこない。男性のみ収監される刑務所が舞台なのだから、当然といえば当然ではあるのだが。
皆さんもこの映画を見るときは、アルフォートとコーラを用意すると良いかもしれない。
刑務所を描いているが、現実に問題となっている受刑者同士の深刻なイジメや暴力といったようなシーンは無く、怖いシーンと言えば、受刑者たちが青空の下で犯罪を淡々と告白する場面や、それにやっぱり刑務官が受刑者を怒鳴り散らす場面だろうか。とくに、老受刑者がクロスワード雑誌にそのまま答えを書き込んでしまい、不正行為として厳しく摘発されて数名の刑務官に独房へ連行されるシーンはあまりに無慈悲で胸が苦しくなった。
それでも全体的には、花輪氏を演じる山崎努をはじめとする同房の受刑者の面々の演技や、仄々とした音楽のためか、刑務所を描いていながら何処となく、安穏とする不思議な映画になっている。むしろ、ブラック企業を描いた映画のほうがより凄惨だったりしてな。
なお、彼がブチ込まれる原因となったコルト・ガバメントの入手や、修理のクダリはマンガ「刑務所の前」で読めるぞ。
さて、刑務所の食事、檻メシと言えば、「極道めし」という土山しげるの漫画作品も捨てがたいだろう。土山しげるも食い物にはなんかウルサイ漫画家の一人として、「噴飯マン」など飯を扱った漫画作品の多さは知られている。
ただ、本作の主な題材はムショという究極の空間で各受刑者が披露する「美味いメシのはなし」であり、上記の花輪の作品とは多少異なる。刑務所では年に一回の正月に豪華なおせちが出るが、それを賭けて同室の受刑者たちがそれぞれ、『過去にシャバで食べた美味い物の回想』をみんなの前で語るバトルを繰り広げるという一風変わった作品なのだ。
やはり各受刑者はメシに対してそれぞれの逸品なエピソードを持っており、なぜ刑務所に落ちてきたのかなど身の上も語られるのが興味深い。
そして、それぞれの受刑者から各自自慢の美味いメシ話が披露され、周りで聴いていた同室の受刑者たちの喉をゴクリと鳴らした数の多い受刑者が勝ちだ。
無論、他の受刑者から食事を融通してもらうのは規則違反で、刑務官に見つかれば懲罰を食らう。なおこちらも映画化されている。
アメリカ映画の中の刑務所
壮大なスケールで描かれた大作「グリーンマイル」はいささか年代が古い時代を描いた作品だが、受刑者(死刑囚)と刑務官たちの心温まる交流が心癒される名作だ。
スタローン主演のロックアップも注目。撮影はニュージャージー州ラーウェイにある東ジャージー州刑務所で本物の囚人をエキストラに動員して行われたのだ。