警察官が無線を使わず110番する場合とその理由とは?

警察官は緊急時、無線ではなく、電話による「110番通報」を行うことがある。敢えて腰につけた署活系無線を使わずに(自分の署を通さずに、ということ)その場で有線電話(便宜上、携帯電話も含む)による110番をする理由とは。

警察無線の系統 その2『署活系』

勤務中の警察官が110番を行った事例とネットの反応

例えば2016年に福岡県警本部に車が突っ込んだ事案ではSNSを中心に以下のような反応が。

一般的には勤務中の警察官が110番するという行動について、些か滑稽であるとする見方が多い様子だ。しかし、世間の見方が滑稽だとしても、警察の部内規則的に『警察官が110番』することは間違いなのだろうか。その点を研究した。

外勤警察官の報告は所轄→警察本部へ吸い上げられる

活動中の地域警察官と無線警ら車。

活動中の地域警察官と無線警ら車

以前説明した通り、地域警察官は無線警ら車向けの基幹系無線および、ミニパトや自転車移動の警察官向けの署活系無線の2系統を使っている。

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しかも警察官はわざわざ腰のベルトの署活系無線機とは別に、胸ポケットに”パトカー向けの基幹系を聴くためだけ”の『受令機』も入れている。

署外活動中の警察官が使うイヤホン聴取式『受令機』とは?

警察本部の通信司令室は、それぞれの都道府県下すべてをカバーするパトカー向けの無線『基幹系』で指示を出す、言わば総司令部。

一方、署活系では普段直接、警察本部と連絡が取れない(ただし本署の操作でリンクは可能)ため、通常、所轄署所属の外勤警察官の報告は一旦、所属署を通して警察本部へ情報として吸い上げられていく仕組みだ。

では、なぜシンプルに系統をひとつとせず、わざわざ2系統の無線を運用しているのだろうか。

それは敢えて二つの系統に分けることで明確な情報統制が行えるという利点に他ならない。

重大事案が発生した場合ほど情報は錯綜する。厳格な情報統制を普段から行う必要があるのだ。

警察無線の系統 その1『車載通信系(基幹系)』

なぜ警察官が110番するのか?その答えは

もうお分かりだろう。重大事案発生の際は署活系で所属署の通信室(リモコン)へ報告する『所轄経由の情報吸い上げ』よりも、所轄署を”飛び越えて”110番で本部通信指令室へ、その場で速報を入れることで情報の錯綜を防ぎ、なおかつ、まさに一分一秒を争う重大事件においてはスムースな出動および緊急配備の流れを作ってしまう。

これが理由である。

県下一斉手配は110番で!

典拠を示す一例として、警視庁通信指令業務運営規程(平成7年4月26日)を取り上げるが、同規定には『現場臨場した勤務員は速やかに状況把握し、署活系無線などでリモコン指揮者および同補助者を通じて指令本部に報告せよ。急を要する場合にはこの規定にかかわらず、把握した事項を直接指令本部に速報せよ』という要旨が記されている。

『警察官が110番をするなんて滑稽だ』と思う人もいるだろうが、これは警察庁自体が定めている『飛び越え報告』や『飛び越え110番』と呼ばれる迅速な初動対応のための運用方針であり、47都道県警察本部すべてで行われている柔軟な対応の一例なのである。

現役警察官の事件現場ナイショ話 (バンブーエッセイセレクション)

現役警察官の事件現場ナイショ話 /  にわ みちよ /  竹書房

『現役警察官の事件現場ナイショ話(竹書房・刊)』でも緊急時は無線を使わずその場で110番という飛び越え報告の核心がズバリ。

前述のとおり、警察の通信指令システムおよび通信指令室はそれぞれの警察本部のいわば作戦司令室でもあるから、現場警察官が把握した事案の詳報を送ってしまえば、情報が集約されるので初動警察活動として効率がよい。

民間でも警察でも所属長を無視した飛び越え報告はタブー視されているが、重大かつ緊急性を要する事件事故発生時の報告に限っては、むしろ推奨されているというわけだ。

『警察官の110番』のまとめ

つまり、警察官が緊急時に行う110番は『飛び越え報告』『飛び越え110番』と呼ばれる迅速な初動対応のためのホットラインであったのだ。そう考えれば、『踊る』の真下正義による伝説の名台詞『誰か110番!(湾岸署内で)』も、あながち間違いではないと言える。

なお現在では47都道府県警察本部すべてにおいて、PSDと呼ばれる警察専用携帯電話が地域警察官に配備されているため、以前よりも有線電話での本部への緊急連絡を行いやすい環境となっている。

地域警察官向けの『地域警察デジタル無線システム』を活用した初動警察活動