ドラマや映画に登場する警察無線、実は本物だった?

刑事ドラマや映画などには古くから警察無線のシーンが幾度となく登場し、ときにはリアルな通話コードなども使用されるが、警察密着番組で目と耳の肥えてしまった我々視聴者の前で、いかに本物風にソレッポク交信を演じ切れるかが役者の見せ所だ。

警察無線のシーンが登場する作品のなかでも、1982年公開の映画『野獣刑事』は警察無線マニアの間でも伝説となっている。

『野獣刑事』ではカーチェイスシーンにて流れる大阪府警本部からの通信指令の内容が異常なほどリアルで、とくに通話コードを多用した緊急配備(キンパイ)発令内容および無機質な読み上げの調子は実際に無線交信を聴取しなければ極めて再現が難しいものだ。

おそらく製作スタッフやナレーターは実際に警察無線を聴取し、それを製作に活かしたのだろう。

もちろん、当時のアナログ警察無線は誰でも傍受でき、いわば警察無線傍受ブームが起きていた。

アナログ警察無線と妨害の歴史

 

ブームに火をつけたのは当時のラジオライフ誌だ。さかのぼること映画公開の2年前の1980年。株式会社三才ブックスから『ラジオライフ』が創刊されたが、同誌は創刊初っ端から同社の社運を賭けた『誰が聞いてもいい警察無線』との煽りを効かせた挑発的なタイトルで警察無線特集を敢行し、各周波数、基幹系や署活系の通信系統、傍受方法を詳細に掲載し、社会を震撼させた。

すなわち、映画製作当時の時点で警察無線受信は間違いなく広くブームとなっていたのである。

それは大げさではなく、毎日新聞がこのラジオライフの警察無線特集騒動を取り上げるほどで、それによれば、ラジオライフ誌の特集に警察庁ならびに警視庁は不快感を示し、当時の郵政省電波監理局(無線に関しては警察よりも権限がある)に『周波数等の公開は電波法違反ではないか』と確認を行うも、電波監理局は『違反に当たらない』と半ばお墨付きを与えたのである。

このことから、同紙はその後も無線やBCLなどの話題を扱うと共に、警察無線関連の話題も柱とした。さらには無線のみならず、警察装備研究&グッズ紹介、交通取り締まり手法研究、覆面パトカー見抜きテク&改造指南、婦警さん(死語)写真投稿、全国のマニアのお友達紹介など悪ノリの極地に突入してしまう。

同誌は80年代末に基幹系無線がデジタルとなり、傍受が不可能になっても、生き残った署活系無線ネタを提供し、90年代末になると初代デジタル機MPRの解読に成功するなど話題を提供し続けた。

ドラマの中の警察無線の交信、実は本物が使用された事例も多かった!?

ところで、1989年にテレビ朝日系で放映された『警視庁捜査第8班ゴリラ』にて、本物の神奈川県警本部からの一斉指令の交信が使用されたという。使われたのはアナログ時代の高速系。

出典 http://blog.livedoor.jp/mokei352/archives/51185147.html

上記の出典元サイト様によると、当時の刑事ドラマでは『背景音として本物の警察無線の録音はよく使用されていた』という。

もしかして前述した1982年公開の映画『野獣刑事』でのリアルすぎる警察無線のシーンに使われた交信のいくつかも、実は本物だったのでは。

警察無線の系統 その1『車載通信系(基幹系)』

実際の警察無線の音源をドラマに使用することは電波法違反になるか

しかし、仮にそうだったとしてホンモノの警察無線の音源をドラマや映画に使用して『公開』することは電波法に触れないのだろうか。

実は弁護士の見解としては問題は無いようである。

ラジオライフ1982年11月号の企画に『電波法はキミのもの!!-警察無線の傍受は処罰されない-』という特集があるが、当時のアナログ警察無線傍受に関する電波法の疑問をラジオライフ編集部員が弁護士・瀬戸英雄氏へのインタビュー形式で解決していくこの記事における『テレビの画面にパトカーの交信』という項にて、同じケースが紹介されている。

仮に本物の交信をドラマの中で使っていたとしても、具体的にどこの誰がどのような状況で発信した無線を使っているのかがわからないような取り扱いがされていれば、問題はありません。

出典 ラジオライフ1982年11月号の企画に『電波法はキミのもの!!-警察無線の傍受は処罰されない-』弁護士 瀬戸英雄と編集部の対談より

これはテレビの報道番組の中で警察無線が出てくることに問題はないのかという編集部の疑問に瀬戸弁護士が答えたものだが、同弁護士は報道番組に出る本物の警察無線、ドラマに出てくるフィクションの警察無線、そしてドラマに出てくる本物の警察無線の法的な取り扱いについて、それぞれ解釈している。

こんな質問を編集部がするあたり、当事はテレビでも警察無線の交信が非常に多く放映されていたのだろう。

この特集ではほかにも『電器屋の店先の受信機から警察無線が流れているケースの違法性』、『ケガをした警察官に代わってパトカーの無線で市民が救助を要請した場合の違法性』、『警察無線を傍受して犯人を見つけ110番通報した際の違法性』など、電波法との兼ね合いで非常に気になるケースがずらり挙がっている。

2019年現在、ラジオライフは80年代のバックナンバーがアマゾンのKindle Unlimitedにて配信されており、すでにメンバーならば追加料金無しで全巻無料で読める。

未会員ならばKindle Unlimitedにいますぐ入会しよう。

膨大な掲載記事データが収録されており、貴重な警察関連資料がPCやスマホで閲覧可能だ。なお、当時の『売ってくださいコーナー』の個人情報はすべて黒塗りされているので当時の投稿者はご安心を。

ドラマに登場する”警察無線機”

一方、ドラマに登場する”警察無線機”はどうだろうか。実際の警察無線機を製造するメーカーは三菱電機とパナソニックであるが、警察無線が市販されておらず、細部にわたってレプリカを作るのも大人系の事情があって困難であることも理由なのか、ドラマではCB無線機やアマチュア無線機を警察無線機の代用とする場面が多いようだ。

警察官募集ポスターにも使われている「相棒」というドラマの作中では、ヤエスのFT-8800を車載の警察無線機に見立てるとともに、使用周波数として液晶画面にはアマチュアバンドの呼び出し兼非常通信用周波数である145MHzが表示されていた。

『日本で一番悪いやつら』での北海道警察刑事部機動捜査隊本部に置いてあったのもやはりアマチュア機で、表示されているのは430MHzであった。

現在放映されている人気シリーズ「警視庁機動捜査隊216」では沢口靖子演じる女性機動捜査隊員がハンドマイクを握るシーンでモトローラのマイクが映っていた。

http://www.tbs.co.jp/getsugol/20151221/

一方で2014年に放送されたTBSのテレビドラマ『エス 最後の警官』のように、(高校中退レベル)の犯人がアマチュア無線機でデジタル警察無線を復号する場面や、そのデジタル音声に無線の臨場感を出すためか、ザーザーという音をかぶせる演出など、首(耳?)をかしげる描写も。復号したから雑音が混じった……という斜め上の演出なのだろうか。過去と未来で交信するよりましかもしれないが、現在のドラマでは警察無線を巡る奇妙なシーンもまた多いようだ。