警察署の外観は都道府県でこんなに違っていた

映画『アンフェア the answer』では、なぜか警視庁から北海道警察本部へ出向となり、道東のイチ所轄へ事実上の『左遷』をされてしまう雪平夏見。

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警視庁捜査一課の刑事が北海道の一所轄で何の実務経験が積めるのか不明だが、ともかく雪平本人が西紋別署へ着任して早々、殺人事件が発生。あろうことか、その嫌疑をかけられ、自身の職場である西紋別署へと連行された雪平は面会に来た東京地検の村上からM3913 Lady Smithを受け取り、彼を人質にして、西紋別署刑事課の取調室から逃走を図る際、追っ手を防ぐため、駐車場の捜査車両に発砲という衝撃の展開に……。

ちなみに筆者は雪平が一人、真冬の紋別の食堂(実際は杉並の食堂でロケ)で蕎麦を食べている哀愁漂うシーンが好きです。

あ、もしかして雪平夏見ちゃんって警察庁が平成6年から運用を開始した『広域技能指導官』に指定された警察官なのでは?

道警なのに奇妙な警視庁風の所轄署

ともかく『アンフェア the answer』本編に登場する『道警西紋別署』の正面玄関の造りは違和感が有りすぎて物語への没入感が削がれる。あれでは本当に『警視庁北海道方面西紋別署』である。

なぜなら、同署の署名表記が威厳のある金色の切り文字(立体文字)かつ、玄関の銀色のアルミ外壁に貼り付けてあり、さらに表記の左右両側には長方形の赤色灯を配置するという、警視庁や埼玉県警といった関東甲信越地方の警察本部の所轄署風だからだ。

実際の北海道警察の所轄署玄関ではまずこんな外観を見ることはできず、札幌の中央署など一部を除いて、木の板に黒の墨書きと質素且つ古風、硬派なタイプであった。道場破りに持ってかれそうなやつをイメージするといいだろう。よくはないが。現在も旭川中央警察署などで採用されている。

また、北海道警察で並行して使われているのが、縦40センチ、横60センチほどの小さな黒背景のボードに方面本部名と所轄署名を浮き彫りで併記したシンプルなタイプ。むしろこちらが主流ではないだろうか。なお、旭川方面深川警察署沼田警察庁舎のように、庁舎玄関に木製看板を配置し、正門に黒背景のボード設置併用の場合もある。

一方、例の砂川飲酒ひき逃げの被疑者の一人が、酒を抜いた翌日にシレッと出頭して任意の聴取を受け、苦悶の表情で報道陣の前に出てきたのは札幌方面砂川警察署の玄関。こちらは二階中央付近に旭日章、玄関右に署名の表記。そして玄関上部中央には丸型赤色灯を単体で配置している。なんとも間延びして収まりのない配置に感じてしまい、これぞ田舎の警察署という風体であったが、現在は滝川警察署砂川警察庁舎として新設され、なかなかおしゃれになっている。

ともかく全国的に見ると、このような正面玄関周りの配置やこじんまりとした控えめの署名表記スタイルは道警特有のようだ。なお、木製の板に筆書きというスタイルは冒頭の福岡県警うきは署でも見られる。

追記 2018年に落成した帯広警察署の新庁舎玄関は警視庁風

先日、帯広警察署刑事2課の刑事が不正入手した他人のクレカで物を買い、メルカリかラクマで転売していた事件を報じるニュースで、帯広警察署の新庁舎が映っていたが、旭日章を挟み込む2つの赤色灯を配した正面玄関の風格は、まさに警視庁のソレではないか、と思わず息を呑んだ。

燦然と輝く旭日章。2018年落成の帯広警察署新庁舎の正面玄関だ。その正面玄関の赤色灯の配置は関東地方の警察署でよく見られるスタイルで、道警としてはおそらく初では。

もしかして『アンフェア』の『西紋別署』が影響を与えたのか!?この東京所轄スタイルが道警さんの所轄でも主流になるとしたら『西紋別署』をもう奇妙などとバカにはできないかもしれない!?

北海道警察と言えばこれ。黒板に所轄署名。出典 http://www.news24.jp/nnn/news16434859.html

だが、やはり道警特有の黒板に薄い金色(楽天ゴールドカードみたいな色)でのこじんまりとした切り文字スタイルの伝統だけは譲れなかった様子で、正面右に配置されていた。これが警視庁をはじめとする関東地方の所轄署だと、大きな切り文字で玄関の上部に直接配置となるはずだ。

警視庁と埼玉、神奈川県警の所轄署のスタイルは似ている

前述した通り、警視庁では金色の切り文字かつ、その表記を左右から挟みこむように長方形の赤色灯を配置するという、威厳のある外観がポピュラーだ。

しかも、この赤色灯は外壁に埋め込まれる形になっており、すこぶるスマートなスタイルだ。もちろん東京都の予算が潤沢だからこそではあるのだろうが。

下の画像はフジテレビ系列で放映された連続ドラマ「シグナル 長期未解決事件捜査班」にて、千葉県佐倉市役所の協力により、同市庁舎が警視庁城西警察署として使われたもの。

ドラマで警視庁の所轄署が登場する際はこんなふうに、それらしく装飾されるわけだ。「シグナル 長期未解決事件捜査班」にて使用された千葉県佐倉市役所。出典 朝日新聞社

金色の切り出し文字、そしてそれを左右から挟みこむ赤色灯(張りぼて感が否めないが)は実際の警視庁の所轄署として正しく再現されたものだが、このスタイルを北海道に当てはめてしまうと、先述の『アンフェア the answer』のように、妙な違和感が漂ってしまう結果に。映画のなかで道警の所轄署を出すなら、このあたりを押さえて再現しなければ、違和感ありありというわけだ。

埼玉県警と神奈川県警

一方、東京のライバルと言えば埼玉や神奈川だ。その埼玉県警や神奈川県警の所轄署も、一部では警視庁とやり方がそっくり。

どちらがまねたのかは不明だが、例を挙げれば埼玉県警では大宮署、幸手署などが金色の切り文字かつ、左右から長方形型の赤色灯の配置など、警視庁と類似点が多く興味深い。

一方、警視庁と昔からのライバル関係にある神奈川県警も同様だ。

こちらの表記も切り文字だが、金文字ではなく落ち着いたシルバーや黒が多いようで、港北署や都筑署では、警視庁に多く見られる独特の長方形型の赤色灯の配置を見られる。

自己主張の限界に挑む高知県警、千葉県警

一方、高知県警、千葉県警などは署の建物の上階部分側面に所轄署名を立体文字で大きく出すという自己主張の限界に挑むスタイルが多い。

まとめ

このように警察署の正面玄関の外観は都道府県警察でかなりの個性があるのが現状だ。

余談だが、ドラマのロケハンに関して言えば、道警は交番に自転車を配備しておらず、外勤員はもっぱらミニパトを足にしている。

だから、札幌市街をPが白チャリにJKを乗せて二人で駆け抜けていく鈴井貴之第1回監督作品の残念な映画を忘れられない。

弁当箱(書類ケース)付きのチャリで移動する警視庁の地域警察官。

こういう部分も含めて、考証とかロケハンをサボると、作品が台無しになってしまうんですなぁと思う次第なのです。