今回は機動捜査隊に配備される車両『機動捜査用車』と、その搭載装備品について考察したい。
機動捜査隊では伝統的にセダン型の機動捜査用車(覆面パトカー)が隊員の”足車”となっている。
機動捜査用車の仕様とは?
では、機動捜査用車にはどのような仕様が求められるのか。警察庁の資料に拠れば、機動捜査用車の仕様として以下のように示されている。
第1 仕様総説
この車両は、事件発生時の初動捜査活動に使用するものであって、この仕様書に示す諸装置を備え、かつ、「警察庁調達車両共通仕様書」を満足するものであること。
まさに、機動捜査隊の恒常任務のひとつである初動捜査に使用するための車両と明示されている。
さらに『車台および車体』として、下記のように細かい指定がある。
第2 車台および車体
- 車体は、4ドアのセダン型であること。
- 排気量は、2,500cc級以上であること。
- 最高出力は、125kw以上であること。
- 乗車定員は5名であること。
- サイドエアバッグ及びカーテンシールドエアバッグを装備すること。
- 後部室の窓ガラスはプライバシーガラスとすること。なお標準車にプライバシーガラスの設定がない場合は透過率15%のダークフィルムを貼付すること。
- サイドバイザーを取り付けること。
- 電源用ソケット 標準車に設定がない場合はアクセサリープラグ用ソケットを当庁の承認を受けた部位に取り付けること。ソケットは DC12V、120W以下の機器が使用可能なものとする。
なんと機動捜査隊員の足車たる機動捜査用車には『4ドアのセダン型であること』という、基本とも呼ぶべき事項があるのだ。ただ、それ自体は警察庁が制服/覆面パトカーに定めた共通の要求事項である。
気になるのが排気量。機動捜査隊の任務に逃走車両への猛追は付き物(神奈川機捜密着取材の見すぎだろうか)であることから、機動捜査用車(覆面パトカー)は2500cc級以上が条件。
実際、これまで配備されてきた機動捜査用車を見ると、90年代中後半から2000年代初頭まではキャバリエなどの軽快な中型セダン、それに高性能スポーツカーであるスカイラインER34 25GT-Xなどを投入してきている。
さらに2005年には機動捜査用車としてインプレッサWRX STIが全国配備されたが、これには(マニアの側から)賛否両論あったようで、車内が狭いうえ、フルバケットシートであるが故に長時間の密行警らには不向きだとか、燃費が悪い、ヤマダ電機の駐車場で寝るなよ俺の税金だぞなど、評価(!?)は芳しくなかったようだ。大阪府警などではブルーマイカ・カラーの車両も配備された。
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やはりその任務の特性上、強烈な追い上げが必要になることから、2500cc級以上、果てはスポーツカーまで重用されるようだ。
現在ではアリオン、キザシ、レガシィB4、スカイラインV36、そしてマークXなどが多くなっている。例として、ここ数年の北海道警察本部刑事部機動捜査隊で使用される捜査車両の公開情報を確認すると、レガシィB4が2台、アリオンが3台、ミニバンのセレナが2台、そして8台もの配備数を誇る”主力”がマークXとなっている。マークXが生産終了となったため、その後継車両がマニアの間で話題となっていたが、2021年、警察庁は国費配分の機動捜査用車としてカムリを取得している。
なお、機動捜査隊の主力はあくまで4ドアセダン型の覆面パトカーだが、一部では県費でSUV、さらに警視庁機動捜査隊(一機捜から三機捜)では現場指揮車としてハイエース、エアロミディMJ、エルガミオ、ブルーリボン等のワゴン車や中型バスも配備されている。ただ、間違っても”白黒パトカー”はない。
余談だが、昭和63年10月4日付の朝日新聞九州版によれば、福岡県警本部刑事部機動捜査隊の中に2台の黒バイ(400cc)と4人の専従隊員を配備して、刑事事件の初動捜査に当たらせたと報じている。
黒バイに乗車する機動捜査隊員はジャンパーとジーンズ姿、それにけん銃、手錠、ハンディ無線機を携帯していた。コレも興味深いMIUの覆面車両と言えそうだ。この捜査用覆面バイクが、現在ではドラマでもおなじみの『トカゲ』として派生したのかもしれない。
機動捜査用車の装備
いざ事件が起きた際には走行中の車内からルーフに手で赤色灯を投げるように載せ、真っ先に緊急走行で駆け付ける機動捜査隊。
では、機動捜査用車には警察車として、どのような装備品が搭載されているのだろうか。
こちらも前述の『令和元年改定 機動捜査用車 仕様書(警察庁)』内の『第3 指定装置』の項目にて、細かく規定されているので資料から引用した。
第3 指定装置
1 無線機格納装置
(1)無線機格納装置を当庁の承認を受けた部位に取り付けること。
(2)規格は警察庁情報通信局通信施設課の定める無線機器搭載のための技術資料(警察用車両編1)に基づくこと。
(3)空中線を取り付けるための必要な措置を施すこと。
(4)中継端子は B 型とすること。
2 警光灯
(1)着脱式警光灯をルーフ前方中央部に取り付ける事。
(2)(非開示)
(3)規格は関係法規に適合する流線型一灯式のもので当庁の承認を受けたものであること。
(4)底面は車体に傷をつけず、かつ、脱落を防止するためにゴムマグネット板を取り付けるなど必要な措置を施したものとすること。
(5)電源はセンターコンソール下部等の等長の承認を受けた部位に2カ所設けること。
(6)スイッチはアンプ組み込みのものを流用すること。
(7)電源コード用クランプをピラー等の当庁の承認を受けた部分に取り付けること。
(8)十分な強度を有する収納ケースを備え付けること。
3 アンプ式サイレン
(1)サイレン用アンプをセンターコンソール等の当庁の承認を受けた部位に取り付けること。
(2)50Wサイレン用スピーカーをフロントタイヤハウス付近の当庁の承認を受けたのに取り付けること。
(3)これらの規格は関係法規に適合するもので当庁の承認を受けたものであること。
4 塗色
塗色は製造会社設定の標準色から指定するものとする。
5 付属品
次のものを備え付けること
- ナビレーションシステム 一式
- ドライブレコーダー(指示する車両のみ) 一式
- ETC 車載器 一式
- 足マット(運転室、後部室) 一式
まず、1の無線機格納装置。これはすでに広く警察車両用に配備されているAPRまたはIPR無線機を架装する為の基台である。
現在の車載型警察無線機は本体と液晶表示部および操作パネルが分割可能のセパレート式となっているため、比較的柔軟な設置が可能だ。
日産のV35スカイラインなどでは助手席側足元に無線機本体を縦に設置するのが当時流行ったが、ラジオライフ2009年5月号の記事では機動捜査隊V35中期型覆面の”イレギュラーな装着”として、元からあった格納装置ごとごっそり取り外された上で、助手席のグローブボックス内にAPRの操作パネル部がしまいこまれた写真が掲載されている。
足元からボックス内へのパネル移設の理由について大井松田吾郎氏は『乗員が(あの大きな格納装置に入った無線機を)足で蹴り飛ばさないための措置では?』と推測している。車の外観だけで覆面とわかるのに、車内の無線機だけ隠しても仕方がないだろうという同氏の見解だ。
当時イレギュラーだったこの『グローブボックス内への操作部設置』方法、その後に配備されたキザシでは標準となった。80年代は『無線機に白タオルをかけて隠す』のが覆面パトカーの粋な流儀だったが、今ではスマートという名の無粋に。
そして2の警光灯とは、当然捜査用覆面パトカーなので”着脱式赤色警光灯”であるが、流線型一灯式と指定されている。
また、その電源ソケット(メタルコンセント)については二ヶ所設けるように指定されているが、着脱式赤色警光灯のほか、探索灯の使用を想定しているためであろう。
なお、一部の警察本部では機動捜査用車(覆面パトカー)に赤色灯を二つ載せる場合がある。これについては以下の記事で考察を行った。
警光灯の作動スイッチはサイレンアンプと連動させたものが指定され、センターコンソールに収めよとの指示だ。
なお、『電源コード用クランプ』とは、警光灯のコードを挟んで固定するための、いわゆる『ピラークリップ』のこと。
通常、捜査用覆面パトカーのAピラーに装着されている。
正面から見た場合、捜査用覆面パトカーとして最も目立つ装備のため、シビアな捜査を要求される特殊事件捜査用車両では取り付けない個体も多い。
開き直ってピラークリップにお守りや私物と思われる巾着袋を下げている覆面もいた。目立つ。当然、反転式である交通覆面には縁のない装備だ。
興味深いのは『十分な強度を有する収納ケース』の備え付けまで要求されていることだ。パトライト社純正品の『HKFM型用収納袋SKF-001』がそれに該当するだろう。
50Wサイレン用スピーカー(いわゆるドライバユニット)はフロントタイヤハウス付近に設置せよとの指示。機動捜査用車(覆面パトカー)では主にバンパー下部に前面または下面を向けて、一基が秘匿装備されている。
珍しい例として、警視庁が都費で購入した交通覆面カムリでは、後部バンパー付近に後方向けのドライバユニットが増設されている。なお、スピーカーに水抜き穴を設けるのを忘れたがために、水たまり走行で不具合が出る恐れがあるとされてリコールを受けたのがスズキのキザシである。
機動捜査用車のトランクルーム見せてくださいっ!
さらに機動捜査用車には、トランクルーム内にも法執行のための装備品が満載だ。
ストップスティック、さすまた、木製警棒もしくは警杖、カラーボール、 ネットランチャー、防弾チョッキ、防弾盾、防弾ヘルメット、防刃グローブといったものが収納されている。
不審車両の逃走を防ぐために使われる『車両強制停車装置』こと『ストップスティック』は対象車両の前後のタイヤ付近に置くと、スティック本体に仕込まれたストロー状の細径中空刃を対象車両が踏むことにより、タイヤをパンクさせ逃走を阻止する機材だ。製造はアメリカのメーカーで、もともとはアメリカの警察が採用しているもの。
また、逃走車両識別用として助手席の野球部上がりの隊員が防犯用のカラーボールを投げることもある。
さらに、機動捜査隊の任務は応急的現場鑑識も含まれるため、ラテックス手袋やゲソ(足)カバーも搭載している。
機動捜査用車の装備品まとめ
機動捜査用車(覆面パトカー)には、機動捜査隊員が日常の機動警ら活動や事件が発生した場合の初動捜査を遂行するため、これらの多様な装備が搭載されているのだ。