麻薬取締官とは?

人々を蝕もうとする覚せい剤や大麻などの依存性のある違法薬物。広くこれらの取り締まりに従事するのは各都道府県警察の組織犯罪対策部(局)薬物銃器対策課だが、実は警察庁以外にも違法薬物の取り締まりと捜査を担う官庁と特別司法警察職員が存在する。

それが厚生労働省地方厚生局麻薬取締部に所属し、麻薬事犯の摘発に際しては身分を隠して密売組織(ブローカー)への潜入も認められる、約300人規模(2020年時点)の麻薬取締官(通称・マトリ)だ。

画像は厚生労働省地方厚生局麻薬取締部公式サイトより。同公式サイトを見ると、麻薬取締官は日々の訓練として逮捕術訓練、射撃訓練、そして、外国人に対処するための語学研修を主に行っていることがわかる。

日本政府公式広報物である『政府インターネットテレビ・行政の現場から』などによると、麻薬取締官には特別司法警察職員の身分が与えられ、その職務を遂行する場合に限り、特殊警棒のほか、小型武器、すなわち、けん銃を携行できる点が、とくに興味深いと言えるだろう。

新旧の「麻薬取締官証」(現行名称:麻薬司法警察手帳)画像出典 ライブドア

あくまで麻薬事犯の摘発のみという限定的な捜査権しか持たないマトリは、反社の情報収集も警察経由とエス頼り、人員も少なく非効率的とさえ言われ、そのライバル組織である警察への吸収合併案が行政改革会議で出されたものの、2013年には薬事法の改正が行われ、これまで警察が捜査を行ってきた、いわゆる脱法ハーブに対しても麻薬取締官が捜査を行えるよう法改正が行われたことが追い風となり、240名から300名と一気に増員された。

警察官には銃器関係などのみ、限定的に『おとり捜査』は認められるものの、組織に潜り込む『潜入捜査』は許されておらず、それが出来るのはやはりマトリの強みと言えるだろう。2014年から始まった危険ドラッグ撲滅作戦のように組対5課とマトリがタッグを組んで共同戦線を張ったコトもある。

麻薬取締部とライバル関係にあたる取締り機関と言えば警察の組織犯罪対策部。なかでも人員規模も技量も他の県警を凌駕し、やはり頂点に立つのは警視庁組織犯罪対策第5課。通称『組対5課』だ。組織犯罪対策部ではその名の通り、組織犯罪の情報を逐一掴んでおり、5課は係ごとに薬物のみならず銃器犯罪をも効率的に捌いてゆく。マトリと警察は競合関係だが、場合によっては合同捜査も行う。とはいえ、マトリが何年も泳がせていた被疑者を事前連絡なしに組対5課が挙げてしまう”仁義破り”もあり、単純な協力関係にあるとは言えないようだ。それは以下の理由だ。

警察官と一見似ているようで全く違う、厚生労働省所属の特別司法警察職員である”マトリ”。アニメやゲーム、ドラマなどの創作物で麻薬取締官が題材となり認知度が高まれば、”メディア戦略”は大成功なのかもしれない。

マトリによる摘発対象は有名タレントやスポーツ選手などの多さで知られるところ。著名人による薬物使用は青少年に与える悪影響が大きく、その抑止と警鐘目的のためとされる。一方、一部報道ではマトリの存在を社会に誇示することで予算獲得の狙いがあるという見方もある。つまり、警察とマトリは薬物事犯捜査の予算を取り合い、”しのぎを削る関係”でもあるのだ。それが如実に現れた例が、歌手のASKAと元プロ野球選手の清原を警視庁に持って行かれ、焦った麻薬取締部が元女優の高樹沙耶を挙げた件と言われている。

「マトリ」VS「警察」の構図は微妙な協力関係と奇妙なライバル関係にあり、ドラマの題材にはうってつけだ。それはテレビドラマや女性向けスマホアプリなどで今後も再現されるだろう。しかし、メンツとプライド、それに予算獲得争いによって、公共の安全が疎かにならないことを願うばかりだ。

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都道府県職員の麻薬取締員

麻薬取締官以外にも、各知事からの命令を受けて捜査に従事する都道府県職員の麻薬取締員という職員が存在する。麻薬取締員も麻薬取締官と同じく、特別司法警察職員の身分を有し、小型武器、つまりけん銃の携行が認められているが、麻薬取締員は所属がそれぞれの都道府県の地方公務員であり、その任命は検察と協議のうえで知事が行う。