小学館が発行する「週刊ポスト」「女性セブン」「SAPIO」「マネーポスト」4誌を統合したニュースサイト「NEWS ポストセブン」に以下のような記事が掲載されていた。
3年前、神奈川県沖の海岸で漁師が72億円相当の違法なコカインを拾った事件がありましたが通報によって駆けつけた警察官が、その場で白い粉をペロッと舐めて一言いったそうです。
「違法薬物だ」引用元
http://www.news-postseven.com/archives/20131225_232994.html
昔の刑事ドラマでよく見られた描写だが、現実に違法薬物を刑事がひと舐めして鑑定する……なんてことは本当に行われているのだろうか。
結論から先に言うと、ありえない話である。
警察が違法薬物を鑑定する場合はエックス・チェッカーなどの試薬を使い、試薬の色の変化によって成分を鑑定しているのが現状だ。
したがって、捜査員が実際に薬物を口に含んだり舐めたりする不正確な確認手法は行われてはいない。
ロバート・デ・ニーロ主演映画「ショウタイム」では、まさに『薬物を見つけた刑事のお決まりの仕草』としてその滑稽なシーンを描写していたのが興味深い。
“さらなる刑事らしさ”をテレビ向けに演出するため、ミッチはかつてのテレビ映画の名俳優から刑事としての演技指導を受けさせられる中、『アヤシイ粉を舐め、肩眉を上げて”ヤクだ”と呟け』と演技指導されると「それ、青酸カリだったらどうするんだ……本物の刑事はそんなことしない」と冷静に突っ込む。見る者は笑いを禁じ得ない。
このシーンは映画に昔からよくある演出を本物の刑事(を演ずるデ・ニーロ)が皮肉ることでおかしみを誘っているわけだが、デニーロと相棒は冒頭でドラッグディーラーへのおとり捜査を行う際に、取引した薬物の真贋を試薬で確認しており、自分の”舌”は使っていない点も見事に伏線となっている。
さて、日本警察の話に戻そう。
薬物鑑定で刑事が自分の舌を使うことについては福岡県警察本部も『現実とドラマはここが違う』としたうえで、公式ウェブ上で明確に否定している。
刑事「ペロッ、これは上物のシャブだぜ。」
舐めて確認することはありません。
覚せい剤かどうかを判別する試薬がありますので、それで判別します。
もし舐めたらその刑事が罪に問われますよね。
その上で、もし舐めたらその刑事が罪に問われるとしているのだ。
つまり、冒頭で取り上げた「神奈川県沖の海岸で漁師が72億円相当の違法なコカインを拾った事件において、 110番通報によって駆けつけた警察官が、その場で白い粉をペロッと舐めた」のが事実であれば、その時点で舐めた警察官が法を犯したことになるわけだ。文脈から違法薬物と疑っての確信的ペロペロ行為である事は明白だろう。
同じくフィクション作品の話だが、日本ではある児童マンガで主人公の少年探偵が怪しいコナをひと舐めして『麻薬!!!』と確信する異様な描写がある。『麻薬!?』という疑問符ではなく『麻薬!!!』と明らかに確信しているのが怖い。
なぜ少年探偵がコナを自分の舌でひと舐めして、麻薬と断定できたのか、麻薬に精通していた理由などは不明だが、福岡県警の理屈によれば、この少年探偵も麻薬を舐めた時点で罪を犯していることになるのではないか。違法ではない麻薬だったにせよ、なぜ麻薬の風味を知っていたのか疑念が残る。
とにかく、“成分不明・影響不明”の得体の知れないコナを舐めるなど、子供が探偵気取りでマネをするかもしれない危険なマンガが当局のお墨付きを与えられ、99年春の薬物乱用防止キャンペーンで警視庁とコラボしているのは怖い。
先日、大麻所持で歌手の田口淳之介氏と女優の小嶺麗奈氏がマトリに逮捕されたが、小嶺麗奈氏は平成10年に自身がACジャパンのティーンエイジャー向け薬物乱用防止CMに出演しており、自分で立てたフラグを自身の逮捕で回収した形となった。先述の児童マンガの主人公と違い、その役は「違法薬物を勧める側」だったというから、より考えさせられる。
2004年にはこの漫画を真似たのかは不明だが、白い粉をなめて薬物と気付き、警察に通報した女性が警察に逮捕される事件も実際に起きている。通報したというのだから善意が前提だろう。
というわけで、日本国内では判別が比較的容易な覚醒剤や大麻などは現在でも簡易検査が行われているが、昨今では警視庁が誤認逮捕防止のため、 コカインなどの簡易検査を廃止して、より詳しい検査に移行しており「舐めて判定」なんて、ありえないというわけ。
舐めた時点で捜査員も罪に問われると、実際に警察当局も公式サイト上で否定している。
あくまでアレはかつてのドラマや映画の定番の演出であり、また場合によってはそれらフィクション作品の中ですら、その時代遅れの演出が皮肉られて笑いのネタにされる始末だ。
だが、いまだに一部の週刊誌などでは、読者を笑わせる意図があるのか否かは不明だが、事実であるかのように書かれることもあるようだ。