5月25日午後4時過ぎ、事件は長野県中野市の長閑な田園地帯で発生した。市議会議長を父にもつ農業の男が過去のいじめのトラウマと孤独に苛まれ耐えきれず、一種の被害妄想のような感情を想起し、ついにナイフと猟銃を使った犯行の過程において、4人の人々の命を奪ったのだ。
報道に拠れば、加害された4人のうち、2名は現場付近を通りがかった女性、もう2名は通報を受けて駆けつけた長野県警中野署地域課自動車警ら班の警察官だった。署員2人はいずれもけん銃を着装しないまま現場に駆けつけた。死亡した2人の署員は犯人に上下二連式の散弾銃で発砲を受け、うち1人は銃弾を受けた後、さらに刃物で刺されて即死状態だったという。
犯人が使用した弾丸は散弾銃で一般的に使用される散弾ではなく、熊などの大型動物を仕留める際に使用される単弾型の『スラッグ弾』と見られている。
災害下を除けば、“一つの事案で警察官2名が殉職する事態”は1990年の沖縄県警以来だという。
被疑者はそのまま逃走を図り、民家に立て篭もった。長野県警本部はすぐさま緊配をかけ、同日深夜のうちに県警ヘリは東京へ飛んだ。SIT(NSIT)は編成しているが、SATを編成していない長野県警。即座に警察庁に伺いをたて、警視庁等のSAT派遣の了解を取り付けたのだろうか。
結果、警視庁SITならびに神奈川県警SATの派遣が決定され、それらの人員が深夜のうちに各警察本部のヘリで松本空港へ空輸され、さらに事件現場に程近い長野市滑空場に密かに降り立ったようだ。ヘリの情報は航空機の飛行経路を誰でも自由に閲覧できる『フライトレーダー24』等でリアルタイムで公開されていたため、現時点での報道の内容と照らし合わせた上で、警察当局の作戦展開の一旦を“実況中継”する人々のツイートも相次いだ。
また一方で、凶器の類似性や犯人の動機から、今回の事件と1938年に発生した『津山事件』を85年後のデジタル社会の中で対比する声も多い中、SNS上では例の如く『警察の装備が貧弱だからこうなった』とか『パトカーにショットガンを積め』『パトカーを防弾ガラスにするべきである』など、増税大歓迎の方々の感想が活況であった。
当サイトは治安政策に言及するサイトではなく、批評その他の意見や茶々入れ行為や故人を追悼するサイトでもなく、単なる個人の感想サイトのため、事件自体に特段の言及はないが、そんなSNSの一部界隈で事件発生直後から話題になっているパワーワードをめぐる騒動については批評したい。そう『サイガ』である。ある人物がTwitterにおいて、以下のようなツイートを発信したのだ。
上記ツイートには2枚の画像が添付されたようだ。ツイート主によれば、『(左が)お前らの想像してる猟銃』とのこと。たしかに左の銃は俺ら善良な市民が思い浮かべる、いかにも水平or上下二連の猟友会のオレンジベストの翁が持ってる銃に思へる(個人の感想です)。
そしてもう一枚。ツイート主によれば、『(右が)犯人が持ってると思われるサイガ12』とのこと(個人のデマです)。この一見、AK-47のようなコテコテの軍用小銃スタイルをして箱型マガジンを備えた『サイガ12』こそ、AKの製造元であるロシア・イズマッシュの民生/公用向け半自動式散弾銃である。
また、興味深いのは『(サイガ12は)長野と茨城のみで所持が許されている』という内容の文面。それが事実か否か判断できる知見は筆者になく不明であるが、猟銃の所持許可はそれぞれの都道府県公安委員会が出すものであり、基準の違いはあるにせよ、画像のようなピストルグリップを備えた猟銃は許可されないという見解が多いようだ。ただし、ピストルグリップを銃床式に換装したものであれば許可される場合もあるという。
また、箱型マガジン式の銃であっても、現在の日本国内法ではマガジンに2発が上限で、その国内規制に合致するよう改修されていれば、所持が認められるという。
いずれにせよ、多弾数箱型マガジン、ピストルグップなど軍用小銃然とした姿の”猟銃”を見せつけられたツイッターユーザーらは震え上がったのか、せっせと拡散するボランティア勢も参戦し、反応が万を超えた段階で、ついにファクト・チェッカーズ(笑)が出動。そんなに俺が悪いのか(フミヤくんではありません)。かくして彼らデマ警察はこのツイートにある『犯人が持っていると思われるサイガ12』という情報を『デマ』と判定し、糾弾を開始。
実際その時点で『犯人の持つ銃』について特定のモデル名が報じられてもいない中で、いたずらに住民の不安を煽るだけのツイートが強く批判されるのもやむを得ないだろう(個人の感想です)。
チェッカーズらによる批判の機運が高まる中、当該人物は何らの釈明もないまま、当該ツイートを削除。そのため、なぜツイート主が“サイガと思った”のかは不明のまま。だが、当該人物はその後どこ吹く風でバイクで風となっている様子をTweetしているものの、未だ一部では絡まれている様子だ。
一方、この『サイガと思われる』というツイートに関連して、同じく安易に『凄惨な事件の犯人の凶器』へ推測という形で言及して流行に乗っかってしまったことで批判の矢面に立たされたのが、ガバメント系に定評のあるモデルガンメーカー『E社』の公式Twitterだ。同アカウントは事件現場に薬莢が落ちていたことを理由に『サイガ』の名称を出したようだが、一般的には排莢操作を行えば、半自動式散弾銃でなくとも薬莢は排出されるため、現場に薬莢が残っていても(半自動式の)サイガであるという理由にはならない。このため、それを理由にサイガであると推定したのは、幼稚な憶測と看破されたようである。また、当該ツイート内で薬莢を『ケース』と言い表したことも、デマ警察勢の逆鱗に触れた様子だ。『薬莢』の英語は『Case』であり、別に何もおかしくはないはず(個人の感想です)だが『モデルガンメーカーが(薬莢を)ケースとか言ってる……』などと批判されてしまったようだ。
いずれにせよ、問題の本質は企業の公式Twitterアカウントが、捜査中の事件に関連して要らぬ推測でツブヤイターことそのものと見られている(個人の感想です)。なお、同社もまた釈明なくひっそりと当該ツイートを削除し、指摘する人をブロックしている様子だ。
なお、犯人の凶器である散弾銃は上下二連式であるという報道はあるものの、29日時点でも詳しいモデル名は不詳である。
さて、今回のサイガ騒動、いったいオチはどこに行き着くのか。どうやら、エアソフトガン大手の東京マルイから『サイガ12』が発売される6月2日までは目が離せないようだ。この件を巡って『マルイが発売延期したらどーすんだ!』というような“風評被害”を懸念する個人の感想まで挙がっているのだから……。