刑事部と総務部装備課が捜査車両よりもレンタカーを重宝する理由は?

各警察本部ごとに『捜査活動におけるレンタカーの使い方』なる通達を出している現在だが、実は実際の捜査現場において、捜査員が業者から借り上げた外部のクルマを使うのは少なくとも30年前から常套手段となっている。

では、捜査現場でレンタカーが普及した理由とは。順を追って説明しよう。

犯罪捜査における覆面パトカーのメリットとデメリット

普段は一般車両を装い、飲食店などに乗り付け、食事を摂りつつ密行警ら。ひとたび事件が発生となれば、片手で赤色灯をルーフに装着し、スイッチ一つでサイレン吹鳴、あっという間に緊急車両に変身し、天下御免の緊急走行で現場に臨場できる覆面パトカー。

とくに刑事部の最前線部隊であり、24時間の密行が基本となる機動捜査隊では、配備される主力車両のすべてが覆面パトカーだ。スピード化、広域化する現代の警察事象において、覆面パトカーはもっとも機動的で効率の良い理想的な展開手段と言えるだろう。

捜査用覆面パトカーの役割と運用

しかし、覆面パトカーにも圧倒的なデメリットがある。ナンバーが割れてしまえば、被った覆面は剥がされたも同じ。

過去には反社会勢力に通じた第三者が、警察署の敷地に入り込み、覆面パトカーの写真とナンバーをリストアップし、建造物侵入容疑で検挙された事例も起きている。

それを見越して、警察署の駐車場では車両のナンバーの前にカラーコーンを置いて隠す苦肉の策(警視庁機動捜査隊216で沢口靖子らが捜査車両に乗り込む前にわざとらしくコーンをどかすシーンを見よ)も見られるが、いくら覆面パトカーとはいえ、公道ではナンバーにまで覆面を被せやしない。ナンバーを控えられれば、対策のしようがない。

そして、これは後述する国費での大量配備が原因だが、覆面パトカーは多くの場合においてナンバーが連番である。苦し紛れで高知県警の交通覆面のようにナンバーを変更した例もあるが、近似のナンバーであれば、途端に見破られやすくなる。

そもそも、国費で全国一斉に同じ車種が同じ時期に大量配備されることは致命的と言えよう。覆面パトカーの車種自体が珍しければ珍しいほど捜査活動に支障が出る。一例として、週刊誌に取り上げられるほどの話題性を呼び、結局シビアな捜査で使えなくなってしまったキザシ。

スズキ・キザシが覆面パトカーに選ばれた理由と見分け方を解説

むしろ、この場合は国費よりも、それぞれの都道府県が独自の予算で買った通称『県費もの』の捜査車両のほうがいくらかマシだろう。

パトカーの県費購入と国費購入とは?

 

しかし、都道府県の予算とて潤沢ではない。基本的に限られた捜査車両での捜査活動だ。イレギュラーはあるとはいえ、捜査車両は部署ごとに配備されるので、柔軟な運用が取りづらい。ときには署員の私用車両を申請して捜査に使う例もある。

同じ車種の多い覆面パトカー、ナンバーがばれてしまえば使い物にならない覆面パトカー、覆面をかぶっていても変なオーラだけは隠し切れない覆面パトカー。

ではどうするのだろうか。

捜査現場におけるレンタカーの活用

そこで捜査現場へのレンタカー投入である。民間から借り上げた車両を一時的な捜査車両にしてしまうのだ。実はこのレンタカーの捜査車両、歴史は古い。レンタカーを使うメリットとは何か。

例として静岡県警では昭和60年からレンタカーを捜査に活用している。静岡新聞の昭和61年10月6日版に掲載された『ハイテク時代の警察』では、静岡県警では昭和60年の秋から翌年夏までに延べ台数150台以上のレンタカーを捜査に投入したと報じている。

同県警本部捜査4課長はレンタカーのメリットをこう評価する。『ナンバーをチェックされないから有効だ。覚えられたら車を換えればいい』。

実は静岡県警では刑事事件の捜査を担う捜査用覆面パトカーのナンバーが暴力団にリストアップされていたことが発覚した。踏み込んだ組事務所での押収品のなかに県警の所轄署および機動捜査隊の覆面パトカーのナンバーを書き込んだ手帳があったのだ。

これにはマル暴こと4課の捜査員たちも戦慄。捜査幹部の一人は『警察無線も暴力団に傍受されている。普段から注意は払っているが……。限られた車で行くとどうしてもナンバーを覚えられる』。当然、当時の警察無線はアナログで誰でも傍受ができた。

アナログ警察無線と妨害の歴史

そこで投入されたのが、民間借り上げのレンタカーである。県警では先述の暴力団関連や公安事件に積極的にレンタカーを活用しているという。

レンタカーに喜んでるのは刑事だけじゃない!

しかも先述の静岡県警の取材記事では県警総務部装備課の担当者が電卓をはじきながら正規の覆面パトカーよりも経費の面で優れていることを挙げている。

実際、予算を管理する総務部装備課、所轄の警務課にとっても好都合というわけである。

レンタカーの捜査車両のまとめ

ただ、この借り上げたレンタカーやリース車両に”覆面パトカーとしての装備”である赤色灯やサイレンなどの保安装置を取り付けて運用するのかは不明だ。

とは言え、デジタル警察無線機だけは積んでいる場合が多く、アンテナの取り付けが確認できることが多い。現在では着脱容易なユーロアンテナタイプが配備されているので、後付けアンテナの設置も簡便に済ませられるのだろう。

ただ、それはそれで見破られやすくなるという欠点があるのだが、近年では車内に置いた「ハ○○○」に化けた警察無線用アンテナが登場しており、これは一部マニアの間で話題となった。

以前、刑事ドラマ登場する覆面パトカーに対して『”わ”ナンバーの覆面パトカーは変だ』という指摘があったが、県警によっては実際にあるのではないだろうか。

このように、覆面パトカーはあくまで刑事の足としては有用だが、こと張り込みなどの任務となると、途端にデメリットとなってしまうわけだ。

というわけで、刑事は正規の捜査車両である覆面パトカー以外にも、一時的にリースされたレンタカーで捜査を行うこともあるというわけだ。