あなたは『SERENA(セレナ)』と聞いて何を思い浮かべるだろうか。おそらく知名度から言えば、日産自動車の人気ミニバンになるのではないか。
では歌手がこの曲に『SERENA』とつけた理由は、セレナで出かける幸せいっぱいの家族の様子を歌い上げたかったからなのだろうか。日産との公式コラボなのだろうか。
そうであって欲しいという私の願いは、不穏な旋律が流れ始めたと同時にもろくも崩れ去った。
『エルグランド、アリオン、スカイライン、セレナ、キザシ……』
セレナどころか、メーカー問わず無秩序に読み上げられてゆくクルマたち。並べ立てられたクルマは全国で配備されている警察の覆面パトカーの代表車種に他ならず、セレナはその中の一車種に過ぎなかった。何故こんな曲を……。
『SERENA』というタイトルのこの曲は、歌手自身が捜査当局に内偵捜査を受けた時の様子を歌い上げた世にも奇妙な曲である。
アニメソングの世界ではトランスフォーマーやポケモンなど、登場キャラクターをメロディにのせて次々に紹介していく手法は古くからポピュラーと言えるが、覆面パトカーの車種を次々に歌い上げていくのは極めて異例。おそらくヒップホップの世界でも初となるのではないか。何がしたかったのか?
『SERENA』曲中に出てくる覆面パトカーは実に25種類
『SERENA』のMV中には、刑事車両に模したセレナ(わナンバー)が2台登場するが、それを運転する男はクールビズとマスク、短髪。冷たい目が恐ろしく、まさに刑事のそれを演出しているのが興味深い。
さて、それではこの曲中に覆面パトカーは果たして何台出てくるのか。歌詞通りの順序に従って挙げてみよう。
エルグランド、アリオン、スカイライン、セレナ、キザシ、レガシィ、キャラバン、ティーダ、ノア、カローラフィルダー、ボクシー、エクストレイル、カペラ、セドリック、キャバリエ、パルサー、ディアマンテ、プレミオ、オデッセイ、グランディス、エスティマ、ハイエース、ボンゴ、ステップワゴン、クラウン、ブルーバード。
『SERENA』の曲中に出てくる”捜査車両”は実にマニアックだった。アリオン、スカイラインなど有名どころから、97年に国費で全国の機動捜査隊などに配備された”アメ車”のトヨタ・キャバリエ、近年話題をかっさらったスズキ・キザシまで新旧合わせて実に25種。その全てが警察車両、覆面パトカーとして実際に配備が確認されている車種だ。
ちなみにプレミオ覆面は自衛隊でも配備されており、こちらは反転式警光灯を搭載している。
さらに正規の捜査車両だけでなく「わナンバー」としてレンタカーが内偵に使用されていることも歌手は示唆している。
当サイトでも記事にしているが、捜査当局の内偵捜査では30年以上前からレンタカーを使用するのが常識となっており、全国の警察ではレンタカーを公務に積極的に運用せよという通達も出している。
無論、単に車名を並べているだけでは独創性のある曲とは言えないだろう。しかし、この曲はそうではなかった。これら各車名に続くのは、いたるところで光る捜査員の目を揶揄し、捜査当局への挑発的とも言える歌手の自己情感だ。
最終的に歌手は自分で犯罪というフラグを立て、捜査当局(大阪府警本部捜査4課)に逮捕されるという結末で、それが回収される形となった。
ラッパーREAL-T、拉致・集団暴行で逮捕
ラッパーのREAL-Tこと金拓也容疑者が、生命身体加害略取、逮捕監禁、傷害の疑いで逮捕された。
大阪府警捜査4課によると、今年4月、半グレ集団「リアルグループ」のメンバーとみられるREAL-Tとグループリーダーの山崎宏人被告らは、山崎被告と口論になった20代男性を公園に呼び出し……
なお、彼が逮捕連行された時に乗せられた車両がセレナであったかは不明である。
ただ、一言言わせていただければ、楽曲のタイトルは『SERENA』ではなく『Kizashi』のほうが、より曲の価値を高めたのではないか。