この記事を読むと、警視庁SPのけん銃は過去25口径だったこと、そして38口径に変更された理由、さらに現在のSPに主流の最新式のけん銃について知ることができます。
現在のSPが使用するけん銃は、地域警察官が着装しているサクラやエアウェイトなどの交番けん銃のほか、並みの地域警察官や刑事には配備されない高性能かつキャパシティに優れた銃が配備されています。
しかし、これは『今でこそ』のお話で、かつて90年代までのSPのけん銃といえば、25口径と非力だったのです。
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90年代初頭まで、警視庁の首相警護官のけん銃は威力が弱い25口径だった
戦後の日本警察で配備された旧型けん銃でも解説していますが、それまでの日本の首相警護官と言えば、威力よりも携帯しやすさ、そして国民感情へ配慮する目的もあったのでしょうか、群集を不必要に畏怖させる大型けん銃よりも、手のひらに隠れるほど小さなけん銃を選定していました。
警視庁にSPが正式に発足したのは1975年9月13日。当事使っていたのは32口径のFNブローニングM1910です。また25口径(.25ACP弾)のコルト・ベストポケットという小型けん銃を使っていたことも知られています。大きさは現在、機動捜査隊に配備されている32口径のSIG P230よりもさらに小型です。
しかし1992年3月、自民党の党三役である金丸信・前副総裁が、足利市にて右翼団体関係者の男から、2000人の観衆の前でけん銃を3発発射される狙撃未遂事件が発生し、厳重警戒にあたっていた警察当局、SPらを震撼させました。
おりしも、この当事は暴力団からのトカレフの押収量が増加していた時期。一般人までもが所持していたトカレフは、それまで国内で流通していた違法けん銃よりも、より殺傷力が強く、一気に社会問題となりました。警視庁では当時国内で1000丁以上のトカレフが出回っていたと推定しています。
しかも、本来軍用けん銃だけに『貫通能力が非常に強い』トカレフです。
トカレフ相手では当時の警察が配備している防弾チョッキでもまったく太刀打ちできず、防弾ガラスと特殊鋼を装備した警護車もプスプスとピアッシングされてはたまりません。
VIPがトカレフで狙われた場合、それを守り、『動く壁』となる警視庁SPの持つ25口径けん銃で対処できるか、反撃する間もなく、SPが即死するのではないかと云う危機感が現場で一気につのったのです。
SPが配備する小型けん銃『コルト・ベストポケット』が使う.25ACP弾は各国の警察など治安機関でポピュラーではなく、当時の制服警察官に広く配備されていた38口径のニューナンブM60に比べ、あまりにも威力が弱いものでした。38口径に比べると25口径は、最大で30%ほども威力差があります。
ついには1992年7月、東京都町田市にて立てこもり事件が発生し、トカレフを持った被疑者に機動捜査隊員が射殺されました。この事件では被疑者の発射したトカレフの弾丸は最初に被弾した神奈川県警機動捜査隊員の心臓を貫き、後方の別の捜査員の足に命中しました。
こうして、金丸信前自民党副総裁狙撃事件や、トカレフの押収量と関連事件が増えているのを背景として、警視庁では『要人警護官』いわゆるSPが携行する25口径けん銃の威力不足が議論され、同年11月4日までにけん銃を25口径から38口径の銃種に切り替える決定をしました。事実上の大口径化です。
93年7月に開催予定の東京サミットや、翌年4月の天皇陛下の沖縄植樹祭出席など、大型警備が控えている警察当局では、年末から38口径タイプのけん銃に切り替えを始め、要人警護に万全の構えで臨みました。
また、SPでは銃の大口径化と平行して、すぐに銃を取り出せるよう、けん銃の携帯方式も右腰装着のヒップホルスター・タイプから左脇吊り下げ式(ショルダーホルスター・タイプ)等に変更することを決めたのです。
結局、警視庁SPは脅威であった威力の強いトカレフけん銃に対抗するため、それまで口径の小さなけん銃から地域警察官と同じ38口径の回転式けん銃に代えて、長年にわたって配備しました。
さらに現在では口径だけでなく装弾数にも優位性を持つセミ・オートマチック方式のけん銃が主流となっています。
現在の警視庁SPが配備するけん銃
現在のSPでは、主に地域警察官に貸与されている38口径回転式けん銃『サクラ』よりもキャパシティに優れたうえ、連射しやすく、人体への殺傷力が強い9ミリ口径弾を使う半自動式けん銃を配備しています。
例えば、時事通信社の報道から引用した写真に見られるように、米軍が近年まで制式けん銃として配備し、警視庁などのSITも使う威力の強いイタリア製の9ミリ口径の軍用けん銃『ベレッタ92』です。
さらにこちらの産経デジタルの報道写真ではオーストリア製の半プラスチック短銃『グロック17』も使用されていることが検証できます。
グロックも元々はオーストリア軍用に開発され、実際に同国軍に制式配備されている軍用けん銃ですが、民間向けでもヒットしており、世界各国の警察機関で配備されています。
日本警察でのグロック配備が明らかになったのは、今から20年ほど前『サッカーワールドカップ』を控えた時期でした。それまで徹底的に秘匿されてきた特殊急襲部隊SATの訓練動画を突如として警察庁が公開したのです。その動画において、航空機内へ突入する隊員が構えていたのがグロック17よりも小型のグロック19だったのです。
グロック社の公式プロモーション動画では世界各国の警察の紋章がフラッシュのように流れますが、その中に東京警視庁のものも含まれていることを今更得意げに紹介することは本来なら恥ずかしいことです。
上記に引用した写真ではサイズから、おそらくは同社のG17(口径9mm)と思われます。スライドに『謎のレバー』はついていませんので、連射機能があり、一瞬にして弾幕を張れるキケンなG18Cではないようです。やはり国民世論、でしょうか。
さらにこちらのSPはドイツ製の『H&K P2000』を携行しています。SATや陸上自衛隊特殊作戦群でも2004年から使用している半プラスチック製の『USP』をさらに高性能に改良したモデルがP2000です。
なんで東京マルイさんは出さないんでしょうかねえ。
そんなの大人の事情だから知らんのですけど。
Gun Professionals17年2月号B01M286QJT | ホビージャパン | 2016-12-27
いずれも15発から17発程度の弾丸を装填できる複列弾倉式かつ自動式の軍用、あるいは法執行機関向けのけん銃であり、制服の地域警察官の持つスミス&ウェッソン・サクラという装弾数5発の回転式けん銃に比べると、威力が強いうえに実にハイキャパシティとなっています。
余談ですが、サクラけん銃のモデルガンをモデルアップするタナカ社によれば、日本警察ではM38ボディーガード・エアウェイトも一部限定的に存在が確認されていると言います。
日本警察の一部限定的とは具体的にどこの部署かは不明ですが、ハンマーシュラウドと呼ばれる特異なフレーム形状をしており、咄嗟の抜き射ちでもハンマーが衣類に引っかからない同タイプのリボルバーはボディーガードの名が示すとおり、アメリカでは警護官などに愛用されているほか、非番の警官のバックアップ用として定評があります。