目次
これまでの説明の通り、日本の警察では主にパトカー向けの車載通信系(基幹系)と、外勤警察官が個別に使う携帯式無線はそれぞれ別系統にされ、通信統制が図られている。
所轄警察署の通信室(リモコン指揮者)と署外活動中の地域警察外勤員、または外勤員同士で交信するUHF帯域の無線通信が『署活系』である。
警察本部の通信司令室とパトカーが交信するVHF帯域の車載通信系(基幹系)とは別系統となる、警察署ごとに割り当てられたUHF帯域の周波数を用いて、主に署外活動中の警察官と本署リモコン室の無線担当員(リモコン指揮者)、さらに現場の警察官が腰に吊っている、携帯型無線機(ウォーキートーキー)で交信が行われる。
平成23年からは地域警察デジタル無線システムとして更新され、外勤員は腰に着装したPSW(ポリス・ステーション・ウォーキートーキー)タイプの小型携帯無線機を使用する。無線機に付加されたGPSやカメラにより、位置情報、画像データの送受信も可能。
所轄系か署活系か
たまに所轄署単位での通信系統である署活系を『所轄系』と書く人もいるが、正しくは署外活動中の警察官が使うので『署外活動系』、それを略して『署活系』である。
勘違いする人は30年前からいるようで、ラジオライフ84年12月号では警察庁広域重要指定115号事件の報道でフォーカス編集部のライターが『所轄系』と書いたことに対して『もしウチの読者だったなら所轄系と署活系の区別がつかないようなことはないだろう』と指摘している。
署活系無線の歴史
70年代、それまでの署外警察活動に従事する第一線の地域警察官に配備された通信手段としては携帯型の無線機ではなく、一方的に指令を聴取するのみで送話機能の無い受令機が主であった。
この他、公衆電話等を非常連絡時に利用することが多く、事実上、警ら中の外勤警察官が本署又は活動中の別の外勤員と綿密な相互連絡を取れない状況にあり、署外活動における連絡報告、連携が極めて不便であった。そのため、本署と署外活動中の外勤警察官とが相互で通話できる連絡手段を早急に確保する必要性が生じたのだ。
そこで1974年度から新たに警察官の個人装備として相互通話可能な携帯式無線機が、まずは東京、大阪等の大都市圏の警察の派出所から配置され、この配備によって24時間常に警察署単位または他の外勤員と連絡を取り合いながら警察活動を遂行できるようになった。
とくに第一線活動用携帯無線機は逃走する犯人を包囲する場合や、職務質問の際に直接現場からの照会(照会の項で詳しく解説)連絡によって、指名手配中の被疑者の身元前歴を調べる場合などに有効である。
1982年度からはパトロール中の警察官が署活系無線を利用して照会ができる署活系照会システムの整備に着手されたが、全国整備はされず、警視庁と大阪府警のみで完了した。
他、事件事故処理中に別の届け出を受けた場合などは直ちに本署と連絡が取れることとなり、適切に対応可能となった。
1981年度末には873警察署の無線基地局と携帯無線機の整備が完了し、翌年度からはデジタル携帯無線機の整備が始められたのである。ただし、このデジタル署活系携帯機の更新完了は車載無線機に比べ、かなり遅れがあり、90年代後半まで全国的にアナログが運用されていた。
参照 澤喜司郎『警察通信網と情報システム』および昭和59年警察白書
SW-1型携帯用無線電話機
80年代の地域警察活動の最前線で使用されたのが松下と三菱が製造したSW-1である。
フレキシブルのホイップアンテナや外部マイクロホンなどのスタイルは現行機とさほど代わらないが、大きさは約2倍。内蔵電池はニッカドながら、連続送信でも約一時間は運用できる優れた無線機であった。
また重量は約500グラムと、警察官が普段携行する装備品重量の軽減に貢献した。
署活系無線機のハンドマイクには下部に非常発信用ボタンがもうけられており、万が一警察官が危機に陥った際にボタンを押せば、プレストークボタンを押さなくても送信状態を保てる。
署活系無線の特徴
原則としてUHF帯を使い、移動局(外勤員)が340MHz、基地局(本署)が360MHz帯である。
署活系無線は、それぞれの署の管轄内せいぜい数十キロ範囲における基地局と移動局または移動局同士の相互通信が目的であるため、移動局(外勤の警察官)側の最大出力は1ワットとなる。
ただし、近隣の所轄署同士で連絡を取る際に使う署活系共通波も各都道府県警察ごとに設定されている。そのため、アナログ時代のSW-1の場合は1チャンネルには自署の周波数、2チャンネルに隣の署と連絡を取るために隣の署の周波数または共通波が入っている。
地域警察活動に密着した交信内容がほとんどだが、交通取り締まりに使用される場合もあり、現在は通常連絡や交通取締りでの使用のため、複数のチャンネルがある。
初代デジタル署活系無線機 SW-101およびSW-201
無線警ら車(パトカー)に搭載されたVHF帯域の車載通信系と共に、1987年ごろから警視庁など一部の警察本部でアナログ署活系無線機に代わってデジタル新型機SW-101が登場した。SW-101の筐体は同社の一般コンシューマ向け無線機MT-775とほぼ同一となっていた。
その後、1995年ごろから後継機のSW-201が配備された。SW-201は横幅6センチ、縦12センチ(アンテナ除く)、厚み2センチあまりの小型サイズ。極小さな液晶画面のほか、電源ボタン、送信ボタン、イヤホンジャック、チャネル設定スイッチ、コードスイッチ、そして非常発報ボタン(ハンドマイクにも搭載)も搭載されている。
これにより、1998年ごろまでに署活系無線におけるデジタル・コーデックによる暗号化が全国で完了したのである。
現行配備のPSW形携帯用無線機
現在は警察庁が20年ぶりにシステム見直しを図り、平成23年に新たに全国の警察で順次整備された『新・署活系無線PSWシステム』および『データ通信機能を活用したPSD(Police Station Data terminal)システム』の二つを中核とする『地域警察デジタル無線システム』を運用している。
PSWシステムでは『PSW形携帯用無線機』を使用する。
署活系無線は本署のリモコン室およびリモコン指揮者が担当
本署の通信室(通称・リモコン室……別室の無線機を通信室内の操作盤上でリモート操作しているからこう呼ぶ警察本部もある)のリモコン指揮者と呼ばれる無線担当署員(係長クラス)は、24時間体制で警察本部通信指令室から基幹系無線および有線で110番通報などによる出動指令を受理する。
指令を受けたリモコン指揮者は署活系無線にて署外活動中の各外勤員に指示を出す一方、外勤員から本署に上がってきた情報を基幹系無線や専用回線で本部通信指令室に逐一報告する。
このようにして警察本部は各所轄署管内の事件事故発生状況の情報吸い上げを行うのである。
署活系無線で事件事故の発生を知る方法
ラジオライフの『通話が聞けない警察無線で事件の発生を知る方法』に拠れば、署活系は基地局である本署と移動局である外勤員および外勤員相互で行われる各所轄署単位の通信系統。基地局側が360MHz帯のダウンリンク、移動局側が347~348MHz帯のアップリンクを使用するレピーター通信で、交信が行われていないときでも通常約3秒間に1回、搬送波(キャリア)が送出されており、広帯域受信機機などで受信すると「ズザッ」という音が一瞬するのが特徴。交信頻度が高くなれば、キャリアが連続送出され、明らかに平時とは違うズザー、ズザーという音が連続でしばらく鳴り響き、内容は傍受できなくとも、近隣地域で事件事故が発生していることが観測できるという
署活系無線は変な会話が多い
基幹通信である車載通信系の交信が警察の責務を遂行するために必要な通信事項のみに限定され、厳格に運用されている一方で、かつてのアナログ時代の署活系無線といえば、警ら中の外勤員と本署や交番勤務員が昼飯の出前のメニュー確認、くだけた会話などをする際にも使われるなど、車載通信系とは空気がガラリと違う系統である。前述したラジオライフ直伝の『デジタル化された警察無線で事件発生を知る方法』で、ズザーズザーと電波の頻繁な送出を観測して『これは何かが起きている予感……!』と勝手に脳内で妄想していても、実際はハコ長らのマル食手配だったりして!?
交番の近所のラーメン屋のオヤジが片手にラジオライフ(しかも投稿していた)、片手に改造アマチュア無線機、片手にフライパン持って警察無線を傍受していたのも昭和の古きよき時代。腕何本あるんだよ。話に尾ひれがついて『葬儀会社は警察無線を貸してもらってる』とか『葬儀会社の車は赤色灯をつける許可を警察からもらってる』など都市伝説も発生。ただ、80年代に警察無線を傍受して利益を上げていた業界は葬儀会社ではなく、レッカー会社(それも反社のフロント企業)であったのは事実である。
署活系は電波が飛ばないので警察官は困っている
先述の通り、署活系無線は原則として移動局(外勤警察官)が340MHz、基地局(本署)が360MHz。
飛びの悪いUHF帯を使う上に、所轄署の管轄内数十キロ範囲だけを想定通信エリアとしているため、出力も1ワットと微弱。このため、さほどビルも建っていない農村や地方都市ならまだしも、山間地の谷間やビルの谷間ではジャンプしても電波が届かない不感地帯の問題も顕著だった。
しかし、現在では交番の屋根に垂直ダイポールアンテナを立てて中継しているレピータ方式である。VHF帯に比べれば飛びの悪いUHF帯で最大1ワットという微弱電波ゆえの不感地帯問題も改善されている。また以下のような対策を採っている。
ミニパトの屋根につけたアンテナに署活系無線機を繋げば広がる夢と通信距離
なお『無線警ら車』ではないミニパトは車載通信系無線機を積まず、外勤員が車載通信系を傍受する場合は受令機を使う。
そしてミニパト勤務員の連絡はもっぱら署活系だが、ミニパトでもルーフにアンテナを装備する場合もある。署活系無線機(PSW)の付属アンテナでは車内で送信しても電波がよく飛ばないため、PSWとルーフのアンテナを同軸ケーブルでつなげて、送受信環境を一時的に改善させるためのものだ。
北海道警察の札幌方面北警察署などでも、その管轄地区は札幌市北区から北限はかつて滝川警察署管内であった浜益村(現在の石狩市浜益区)まで、面積にして1.208.12平方キロメートルと超広範囲に及ぶため、ミニパトにもホイップアンテナを搭載し、署活系の有効交信距離を稼いでいる。このように僻地では署活系の運用がやや困難となっている。
『広域署活系』の整備
1983年度からは一部県警の僻地対策として、広い地域を管轄する警察署に広域署活系が整備された。通常のUHF帯域の署活系とは別に、飛びの良いVHF帯域のアナログ基幹系の生き残りである『F系』を『広域署活系』として転用、整備していたのである。