唐突だが「プリウスの覆面パトカー」が活躍するハリウッド映画がある。
2010年に公開されたアダム・マッケイ監督のアザー・ガイズ 俺たち踊るハイパー刑事!(原題:The Other Guys)という作品だ。
本作は刑事二人が主人公のコメディ映画だが、彼らが捜査に使う覆面パトカーが、なんと真っ赤なトヨタ・プリウスなのだ。真っ赤な覆面パトカーといえば、北海道警察本部刑事部のエクストレイル覆面を思い出す。
派手な色にいささか困惑するこのプリウス、同作では画面せましと大活躍だ。
しかし、活躍というより「アメリカでプリウスという車の立ち位置」が笑いものとして描かれていると言ったほうがよく、作中不自然なほどプリウスに対する言及が出てくるのだ。その点も含めて、日本のみならず、アメリカでもプリウスという車がどのように受けとめられているのか、非常に興味深く面白い。
映画自体は「バディもの」だが、よく知られたバディもののイメージとしては「派手なカーチェイスと乱射で犯人を張り倒して捕まえるでっかい黒人コンビ」などといいったものだろうか。
しかし、本作での主役のコンビは犯人追跡中に二人仲良くビルから飛び降りて地面に落下し殉職。なぜ二人が飛び降りたのかはゲーム脳だったからなのか、主人公はやられないというセオリーを監督が皮肉ったのか不明だが、とにかく、あえなく殉職してしまい、代わりに脇役だった「熱血空回り刑事」と「地味なサラリーマン刑事」が活躍する・・・・・・、というのが導入部である。
警察官として正義感は強いが、熱血過ぎて冷静さを失い、見境がなくなることがよくあるニューヨーク市警の刑事、テリー・ホイツ(マーク・ウォールバーグ)は案の定、ADHDののび太君みたいな大ミスをやらかしてしまい、新任の女性警察官が刑事課のお茶汲みガールにされる日本警察の慣例のごとく”羽ばたけない孔雀”として刑事課の内勤書類係りとして干され、日々屈辱を味わっている。
一方、彼とコンビを組み、毎日顔を同じ机で突き合わせるアレン・ギャンブル刑事(ウィル・フェレル)も内勤刑事だが、彼はデスクワークこそ自分の天職と信じ、嬉々としてデスクトップのSONY VAIOに向かいクソッタレ書類仕事に励む日々。
会計課出身で数学に強い理論家のアレン刑事は大らかな性格のため、他の体育会系刑事たちから、イジメの対象にされており、署内で銃を撃つのが刑事の伝統だと唆されて刑事課内で発砲し、警部から銃を取り上げられる始末。それ以来、アレンの腰のホルダーに収まるのはニューヨーク市警指定けん銃であるグロック19の木製のダミー。
そんな日々の中、今日もニューヨーク市警のヒーローであるダンソンとハイスミスの両刑事が派手なカーチェイスの末に凶悪犯を逮捕し、署内での表彰式で大勢の署員から盛大な拍手を受けていた。
アレン刑事も彼らのその活躍に対して盛大な拍手を浴びせる署員らの一人だが、テリー刑事は情けないからやめろと制止する。また一方で、アレン刑事らに純粋に尊敬のまなざしでヒーローとして見られる彼らダンソンとハイスミスも表向きは我々の活躍はデスクワークの君たちの地道なバックアップの賜物だと礼を述べるが、おそらくは皮肉で、自分たち二人以外の刑事は脇役、すなわちアザー・ガイズ(いわゆるモブキャラである)であるとしか思っていない。
そんな脇役刑事扱いされ、プライドが空回りするテリー・ホイツ刑事に“クジャクのように羽ばたく”チャンスが訪れたのは、さんざん活躍してきたダンソンとハイスミスの主役コンビがある日、犯人追跡中にビルから飛び降りて殉職した日だ。
こうして、ひょんなことからアザー・ガイズであったアレンとテリーはコンビを組み、”足場事件”をきっかけに、ハイパー刑事として活躍を魅せるのだが…… !?
プリウス覆面パトカーに対する同僚刑事たちの反応
というわけで、さっそく二線級の内勤刑事から第一線の外回り営業刑事として出動する彼らだが、劇中でアレン・ギャンブル刑事が駆るトヨタ・プリウスに対する同僚刑事たちからのアテツケが酷すぎる。
赤色灯(米国警察で主流のダッシュライトではなく、昔懐かしいコジャックライトである)を回し、事件現場へ急行する覆面パトカーの車内でテリーに『この車は……』と怪訝な顔で減った問われたアレンが『ボクの車だ……プリウス』と答えていることから、この真っ赤なプリウスはニューヨーク市警の公用車ではなく、アレンが自家用車を覆面に申請して使っていることがわかる。米国警察では自家用車の覆面パトカー申請はよくある。
しかも彼にとって初めての新車だというから、悲劇のフラグを予感させる。
その”プリウス”の名称が女性の身体の一部分の名称と似ていると看破されるなど、テリーをはじめとする同僚の刑事らに言われ放題。いじめられてもただ笑うアレン。イジメに理由なんてないし、楽しければそれでいいじゃんみたいな一部の人が大好きな「心優しくて、脆い少年」を毎回イジメつけて視聴率稼いでた90年代の陰湿な野島伸司のドラマのごとく、イジメつけられた挙句、銃撃で穴だらけになりながらも地道に働く覆面プリウスの姿は泣ける。もはやこれは……プリウスへの愛である。おしん的美徳って日本人だけじゃないんだね。『イジメの認識はなかった。ただの遊びだった』というたまに聞くアホなフレーズも妙に納得してしまう。するなよ。
この映画の日本版予告編がシネマトウデイで見られる。
「パトカーはエコだぜえ(ハイブリッド)」
「この車は……」「僕の車だ。プリウス」
「刑事がこんな車に乗るのか?」出典『アザー・ガイズ』
と、ネタ化されている。なんで?刑事がプリウスの覆面パトカーに乗ってはいけない理由とは?ともかく、覆面パトカーのプリウス、アクセルべた踏み暴走プリウスが見たい人は必見!日本の地上波でいつか放映されることを願うばかりだが、トヨタへの忖度から難しいだろう。
それにしてもなぜ、プリウスは日米問わず、こんなにネタ化されて嘲笑の対象とされてしまうのか。
どうやら、プリウスという車種自体よりも当時の民主党のオバマ大統領と、当時の米国内における『エコカー』ブームそのものが理由のようだ。
余談ですが、プリウスに乗っている人はオバマのステッカーを貼っている確率が高いです。
つまり、エコカーに乗ってる人は民主党支持者が多く、同党は環境保護政策を推し進めていたことから軟弱者とのイメージが先行し、見下されていたのかもしれない。
なお、2020年現在、わが国の日本警察でもプリウスの覆面パトカーは活躍中だ。
渋谷ハロウィン2020で覆面プリウスが若者らに『楽しんでんだよこっちは。邪魔すんじゃねぇ』と挑発されるも粛々と公務を執行
※記事に掲載した画像は映画『アザー・ガイズ』の作中より、批評のために出典を明記した上で引用したものです。