無線局の運用を行うにあたっては無線従事者の国家資格を取得する必要がある。それらが陸上特殊無線技士や陸上無線技術士といった資格である。
陸上特殊無線技士の資格は第一級から第三級、それにレーダー級があり、通信系企業、そして昨今ではドローンビジネス業界にとって必要不可欠の国家資格となっている。マニアたるもの、4アマ、3アマなどで満足せず、最低でも業務無線の従事者免許としてポピュラーな二陸特を取得してみたいもの。
とはいえ、この二陸特、数ある無線従事者の国家資格の中でも、取得の難易度は最低ライン。非業務目的で航空機を操縦する際の無線設備の操作に必要な『航空特殊無線技士』では、電気通信術という受話と送話の実技試験があり、試験官への礼儀の欠けまでが採点対象となるが、二陸特ではCBT(Computer Based Testing)方式による多肢選択問題のみで、内容も小学生レベルにちょろい。その証拠に小学生レベルの筆者も取得している。すでに3アマ取得者なら、難易度はさほぼ変わらないと言えそうだ。
当然、そんな超ナンパ資格の二陸特では数ある通信系企業の求人でも引く手数多とはならず、就職や転職の武器となりうるのは特殊無線技士の中でも別格とも言われる『一陸特』または、さらに上位の『陸上無線技術士(一陸技or二陸技)』が最低ラインともされ、基地局保守管理会社(手取り11万円)の入社試験ではペーパー資格者除けのため、ガッツリ嫌がらせのような数学問題も出してくるとのことで、これには苦笑い。
ただ、1989年からは主任無線従事者制度が施行されており、無線設備の監督をする者として主任無線従事者を基地局に1名配置すれば、ほかの無線機を操作する者は無資格で運用できるように電波法は改正されている。したがって、現在では必ずしも無線を使うにあたって国家資格は必要とされないが、警察官に関して言えば、基本的に二陸特を取得しなければならない事情があるのだ。
警察官は警察学校入校中に第二級陸上特殊無線技士の資格を取得する
特殊無線技士の国家資格取得には『養成課程講習会』と『国家試験(国試)』の二種のコースがある。養成課程講習会では数時間の講習と修了試験の合格で取得でき、国家試験に比べて難易度は低い。警視庁の『警視庁警察官採用時教養実施要綱』によれば、警察学校の初任科生が取得を目指すのは第二級陸上特殊無線技士となっており、警察官は警察学校の初任科入校中、授業の中で養成課程講習および課程修了試験を受け、二陸特を取得する流れが一般的となっている。
柔道、剣道又は合気道及び逮捕術の段位又は級位、けん銃操法初級、救急法初級、情報処理能力検定初級並びに第二級陸上特殊無線技士の資格の取得を目標とする。
出典 警視庁警察官採用時教養実施要綱の全部改正について 通達甲(警.教.教 1)第 6 号 平成 24 年3月30日
なぜ警察官は三陸特ではなく、二陸特でなければならないのか
このように、二陸特を取得しない限りは警察官としての業務に就くことはできない。しかし、陸上特殊無線技士には一級から三級まであるが、なぜ警察官は二陸特でなければならないのか。これには明確な答えがある。試験勉強をした人には説明不要だが、その理由は警察官が業務で扱う「速度測定装置」つまり、マイクロ波を使用した交通取り締まり用レーダーにある。下位資格である三陸特ではレーダーの技術操作が行えないのだ。
アナログ警察無線だった30年以上前では警察官の多くが『特殊無線技士(無線電話乙)』を取得していたが、この資格では交通取り締まり用のレーダーが操作できなかった。
そのため、レーダーを操作するには『特殊無線技士レーダー』という区分の資格が必要だったが、当時この資格をもつ警察官は全体の10パーセントにも満たなかったのである。
そして平成元年(1989年)、新たに制定されたのが『陸上特殊無線技士』。従前の資格で操作が可能だったレーダーは第二級陸上特殊無線技士から操作できるようになった。
警察官が第二級陸上特殊無線技士の資格を必要とする理由は単に無線機の操作だけでなく、速度取り締まりでレーダー式速度測定装置を扱うためというわけである。
資格取得後は警察学校で通信訓練も行われ、訓練と業務連絡を兼ねて警察本部とも定期的に交信する。別項で解説の通り、警察の無線交信では通話コードを適切に使用し、情報の秘匿に努めなければならない。
無線の運用中は無線従事者免許証を必ず携帯する
なお、アマチュア局によるアマチュア業務を含め、無線従事者がその業務中に無線機の操作を行う場合は無線従事者免許証を必ず携帯しなければならない。当然、取り締まり中の警察官も例外ではなく、レーダー測定装置を扱う以上は必ず二陸特の従事者免許証を携帯する。
ただ、従事者免許証を持たぬままレーダーによる速度取締りを行なった結果、証拠の効力が認められずにその取り締り自体が無効になるか否かは個別の裁判での判断によるだろう。
余談だが、野外で移動運用中のアマチュア無線家に職務質問する警察官は『本職も無線従事者免許証を携帯云々』と頼みもしないのに二陸特の従事者免許証を見せてくることもあるそうだ。
まとめ
このように、警察官にとって二陸特はとくにレーダーの操作を行うために必要な国家資格であり、警察実務の要とも言える国家資格なのだ。
なお、一般的な警察官が基本的に二陸特資格者であるのに対して、二陸特より取得難易度がはるかに高い第一級陸上無線技術士(一陸技)の国家資格を持っているのが、警察部内の情報通信を担うネットワーク構築に従事する警察庁情報通信局の技官たちだ。
技官は総合職試験(技術系)採用のほか、一般職試験(技術系)プロフェッショナル候補情報通信職員という区分で、無線の国家資格の中でも上位である一陸技の取得者を採用している。