『アンフェア』の覆面パトカー劇用車 170系クラウン アスリート

タイトルバナーは『アンフェア』第9話より引用。

関西テレビ制作の人気ドラマ『アンフェア』が劇場版の「アンフェア the end」で完結して5年になる。この間、スピンオフ作品となる「アンフェア the special ダブル・ミーニング」が公開され、同作の根強い人気をうかがわせた。

なお、ドラマシリーズと映画は結末を迎えたものの、原作である『刑事・雪平夏見シリーズ』は10作品までが予定されていることから、再度映像化の期待は持てそうだ。

『なんだかすげェドラマが始まったなあ……』

初っ端からマルモク、マルヒなどのケーサツ用語がつらつらと車載通信系無線で流れる車内。フラットビーム・バイザーは下ろされ、パンプスを履いた可憐な足はアクセルを強く踏み込む。コンソールに搭載されたA社製無線機のDTMFマイクを左手で握り、自局のコールサイン明示などどこ吹く風で被疑者のデータ転送を捜査専務系で捜一に要求しながら、女性刑事が一人、17系クラウンアスリートを駆り、緊急走行で現場へと急ぐ40秒あまりの緊迫のシーンに、筆者は釘付けになった。

なんだよこれ……。

なんだよって、これがのちに9年にわたって続く伝説の刑事ドラマ『アンフェア』の始まりを告げる問題の40秒ってわけよ。

あの2006年の初回放送から14年経ったんだって思うと、シミジミ感慨深いものがある。

アンフェア the special コード・ブレーキング-暗号解読

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本作放映の1年前、他局のドラマで男勝りとかアネゴ肌という無理があるキャラクター設定を篠原涼子が押し付けられていく様を冷ややかに見ていたが、本作の主人公・雪平夏見を演じる彼女もまた、手塚治虫や石ノ森章太郎の漫画に出てくるような、やたらと気の強い女性刑事キャラのように感じてしまうのはどうでもいい話だ。

『公安がらみの案件』的な『警察組織を揺るがす爆弾』を一人の刑事、雪平が託されて……という、のちの展開は新宿鮫を彷彿とさせる。ちなみに新宿鮫も海猿もフジテレビ版よりNHK版のほうが硬派で良かったような気がするのでアンフェアもNHKでリメイク……ってのはダメ?ねえ、だめなの?

ともかく、本作『アンフェア』はリアル志向で行こうという気概が作品の随所に表れていますなあ。雪平の腰道具がM3913(レディスミス仕様だが)だったり。とりわけ、登場する劇用車のトヨタのクラウン・アスリート170系が当時としては非常にリアルな覆面パトカーとして仕立て上げられていたので、この記事ではそれを考察したいってワケ。

さて、警視庁刑事部捜査一課強行犯刑事、雪平夏見にあてがわれているこの17クラウンアスリート捜査車だが、実際に警視庁刑事部が同型車を配備していたことはマニアにとってはよく知られた事実ではないだろうか。指揮用車という名目、つまり幹部クラスの捜査員が乗車する捜査車両として、タマカズは少ないながらも実際に配備されていたのだ。

しかし、そうなるとアスリート覆面が巡査部長たる雪平の足になるのは……?なのだが、警視庁刑事部での配備は間違いないので、正確な考証と言える。

ただ、ラジオライフ2003年2月号『警察特集 パトカー巡礼』の大井松田吾郎師匠によれば、アスリートG捜査用車は当時東京ではブルーバード覆面とともに日常的によく見られたとのことなので、幹部以外にもあてがわれていたのかもしれない。また全国での目撃例(投稿写真)がなかったとのこと。なお、アスリートGが1台でブルーバードが4台半買える価格とのこと……。ちなみに師匠によると『アスリートは顔が怖い』ので、緊急走行すると、他の車両がヒョイヒョイ避けたという。

さて、このようにアンフェアは充分にリアル路線をゆく刑事ドラマと言える。捜査車両の再現度を高くしてドラマへの没入感を高める算段(!?)なのだろうか。

最近の刑事ドラマは車のエンブレムを隠すのと、メーカーが協力して実際の捜査車両の同型モデルを提供してくれる(スズキがスポンサーでキザシの提供など)のと両極端だ。『機捜216』のように捜査車両の再現度は高いのに、メーカーへの配慮から韓国車みたいな架空のエンブレムをわざわざデッチ上げて、ティアナやレガシィ覆面の前後に貼り付けられると超気持ち悪く、残念なのよ……。

アンフェアの覆面車の警光灯の載せ方を考察

また、アンフェアでは刑事ドラマでは珍しい警光灯のセンター設置が多用されていた点が興味深い。なお助手席側サンバイザーにはお馴染みのフラットビームが搭載されている点もマル。うーむ、そこらへんもリアル重視でいくのか。

安藤が撃たれて急行する雪平という設定。”顔が怖い”アスリートの赤色警光灯はルーフ中央、助手席にはフラットビーム、ヘッドライトも点灯。リアリティのある緊急走行だ。『アンフェア』第7話より画像を引用。画像は引用の範囲内(研究・批評目的)で使用しており、各作品の著作権はそれぞれの版権所有会社に帰属します。(C)関西テレビ

助手席の相棒がかっこよく片手でルーフに着脱式警光灯をポンではなく、いちいち車から一旦降りて、バランスを考えてルーフの中央に載せるという、横着しないマジメな載せ方を雪平刑事は選んでいるようだ。ただ、それを描いたシーンは無い。相棒の安藤にやらせてるのかなあと思ったが、第1話冒頭での夏見一人での緊急走行のときもそうだったので、夏見ちゃんは『型破りの女刑事』という設定の割には細かいところで忠実に内規を守る人、という印象(笑)

もっとも、本作では雪平車両のみならず、他の捜査車両も真ん中載せであった。

そもそもジッサイの警視庁でも本来はそうしなければならない。斉一を期す式典などでは、ほぼ必ずルーフ中央に載せている場面が見られる。

なお、本来クラウンアスリート捜査車は指揮用車なんだから二個載せじゃないの?と思うのも間違いではない。当サイトでは先日、覆面パトカーの赤色灯を2個載せする理由について記事を書いており、そちらを読んだ方にはもうお分かりの通りだが。

覆面パトカーが着脱式赤色灯を『二個載せ』する理由は?

前述の通り、雪平は指揮官ではないし1灯でも問題ない。覆面パトカーにはイレギュラーな運用がいくらでもあるなんてことを得意げに言うのは恥ずかしい。それこそが杓子定規の交通覆面とは違う捜覆の大きな魅力なのだ。

アンフェアの覆面車のアンテナを考察

アンフェアの170系クラウン・アスリートは無線用アンテナの考証も忠実。

雪平と安藤が捜査車両で駆けつけた直後の場面。リアウインドウ脇にTAアンテナ(パナソニックタイプ)が確認できる。クラウンの優美なシルエットがTAアンテナによって台無しに……。だが、それがむしろ凛とした『働くセダン』していて良い。『アンフェア』第9話より画像を引用。画像は引用の範囲内(研究・批評目的)で使用しており、各作品の著作権はそれぞれの版権所有会社に帰属します。(C)関西テレビ

きちんとTAアンテナが装備されている点がポイント。TAはおそらくパナソニックのアナログテレビ受信タイプ。セイワのTAの実物はヤフオクで10万から20万円でしたからねえ。

雪平と安藤が関係者への聴取を終えて捜査車両に戻る場面。TAとTLアンテナが確認できる。『アンフェア』第2話より画像を引用。画像は引用の範囲内(研究・批評目的)で使用しており、各作品の著作権はそれぞれの版権所有会社に帰属します。(C)関西テレビ

さらにトランクリッド右側にはTLアンテナも装備されている。インプレッサ捜査覆面ですらTAとTLセットでつけてましたからね。このTA/TLの併せワザこそが当時の覆面パトの凛々しき姿!凛として覆面。いいね。

機動捜査隊に配備される機動捜査用車と搭載装備品とは?

2010年以降は凛々しいどころか、ユーロアンテナがちょこんと申し訳程度に載ってるだけ、しかも例の事件以降、全国でアンテナの車内秘匿に移行しているというのはあまりにもサミシくはありませんか?覆面のアンテナ泥棒事件が前代未聞かつ、全国の警察のみならず、マニアに与えた衝撃ってのはソレほどです。

覆面パトカーのアンテナを種類ごとに解説!偽装アンテナから車内アンテナの増加へ

実際の17クラウンアスリートの捜査覆面ではこのTLアンテナがおそらく移動警電つまりWIDE用で、TAアンテナが警察無線だったのだろう。この組み合わせがなかなかかっこいい。

警察無線の系統 その4 『WIDE通信』

しかし、残念ながら劇中でアスリート搭載の警察無線機(アルインコの無線機を見立てたもの)で雪平が母屋と交信するシーンは1話くらいで、以降は携帯電話で一課長らとのやり取りが多いため、ちょっともったいないですよねェ。ただ、現在の実際の警視庁に関して言えば、刑事には専用の公用携帯『ポリスモード』が貸与され、携帯電話による指揮連絡等が当たり前の時代になっているというのは言うまでも無いことです。

警視庁のPフォンとポリスモードは同庁独自規格のPSD

なお、助手席にはカーロケナビ風の端末搭載のほか、無人の助手席上にはノートPCもあり、警視庁本部の蓮見杏奈からデータ転送が行われる描写も。劇場版アンフェアでは雪平がカーロケに言及するシーンもあって、ちょっと感動。

パトカーの『カーロケ』とは?

まとめ

というわけで、うーん……アンフェア雪平夏見のクラウン・アスリート捜査覆面、考証イイよなあ……という記事でした。

実はマニアがモドキ車両の協力をしてたりして……と思ったら、その可能性が高いようだ。番組のエンドロールでスタッフや協力会社の名前が連なる中に『車両 ファン』と明記されている。

『アンフェア』第2話より画像を引用。画像は引用の範囲内(研究・批評目的)で使用しており、各作品の著作権はそれぞれの版権所有会社に帰属します。(C)関西テレビ

『ファン』というのが劇用車を手配する会社名なのか判然としないが、やはり、特定の人物や事象に対する支持者や愛好者を意味する本来の意味の『ファン』の可能性が高いのではないか。

ちなみに、ラジオライフ誌に拠れば、90年代の刑事ドラマ『刑事貴族(ヒロミ・ゴー版)』でリアルな捜査覆面を作って撮影に使ったら、製作関係者が当局者に呼び出しを受け『なぜここまで本物とそっくりか』と質問されたそうである。RLですら『警察関連の記事』で警察に呼ばれたことは『○室関係はやめてもらっていいですか』の一度しかないらしい……。ひええ……小室ネタはやめておこう。

ドラマ『刑事貴族』における、当局からの呼び出し騒動が製作陣への詰問、説諭、警告、忠告、賛辞のいずれだったのかは不明だが、捜査覆面としてキザシが出るのが意外と普通になってしまった昨今の刑事ドラマを見ているイチ視聴者としては、今後もリアルな捜覆登場を願ってやみませんわ。覆面車内の通信系装備もできるだけ活用するなどの現代の捜査現場では当たり前となった描写もぜひお願いします。

そういう意味ではデジ簡の車載機のほうが、アマチュア無線のモービル機より、最新のIPRによっぽど雰囲気が似てると思いますので、見立てていただけると幸いです。

デジタル警察無線MPR、APR、IPR、その変遷の歴史

追記 2021年に放映されたドラマ『ハコヅメ』ではアルインコ社のDR-DPM60がパトカーの車載無線機として登場したようです。