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アメリカの警察機関の多くでは外勤のみならず内勤、果ては非番でもけん銃携行が義務になる。
たとえ直接、犯罪捜査にかかわる部署に勤務する警官でなくとも、勤務中は銃を携帯することが規則になっているのだから、日本で言えば免許センター勤務の警察官が恒常勤務で銃を携行しているようなもの。
さらに、各州警察によっては非番時であっても、すべての警官は必ず小型けん銃を秘匿携帯しなければならないという規則があり、業務が終われば本署の銃庫に厳重保管の日本警察とは大違い。
戦後、GHQによって作られた旧警察法における自治体警察時代の日本でも、勤務を終えた警察官がけん銃を自宅に持ち帰ることは認められていたが、自治体警察がアメリカの市警察や保安官を倣って作られた組織という点では合点がいく。
が、現代日本の常識では勤務時間外に警察官が銃を携行するアメリカの文化には驚くだろう。
さて、米国警察で使用される主なけん銃は、やはり優秀なセールスマンがいるのか、法執行機関が一括購入すると大幅値引きしてくれるという理由からなのか、グロックが圧倒的に多い。ニューヨーク市警ではグロックのほか、SIGなどの使用が許可されている。ほかには米軍採用で定評もあり、日本の警視庁捜査一課特殊班員などでも採用しているベレッタ92も90年代から定番だ。
スミス&ウェッソンM&Pを配備する警察も増えているが、M&Pの暴発事故が全米各地の警察で問題になっている。
暴発の原因はM&P自体の欠陥ではなく、警官の不慣れな操作によるものが多いが、グロック導入時に相次いだ暴発事故を想起させる。
一方、グロックを一度は採用しながら「操作に慣熟していない者にとっては逆に危ない」との理由で、前世代のけん銃に戻してしまう警察機関も出ている。
FBIオフィシャル・ガンの口径が10mmオート弾へ更新されたきっかけとなった事件『1986 FBI Miami shootout』とは?
1986年4月11日に発生したマイアミ武装強盗銃撃戦事件(1986 FBI Miami shootout)では、FBIの特別捜査官10人余りが追い詰めた二人の武装強盗と激しい銃撃戦になった。
2名の犯人には法が執行されたが、捜査官側もJerry L. DoveとBenjamin P. Groganの両名が殉職している。なおこの事件は『In the Line of Duty: The F.B.I. Murders』としてテレビ映画化もされており、凄惨な10数分にもおよぶ銃撃戦が生々しく再現されている。
同事件ではFBIの特別チームが『疑わしい車』を偶然発見後、用心深く追跡し、連続武装強盗であると確信を得た捜査官らは覆面パトカー数台で犯人の車を包囲して進行を阻止したところ、犯人らはやにわにフルオートライフルやショットガン、357マグナム・リボルバーを激しく発砲。
FBI捜査官らは覆面パトカーを盾に、携行していたSmith&Wesson M459(9mm口径)やSmith&Wesson M36(38口径)、ショットガンなどで応戦するも、犯人は数発の弾丸を浴びながら、激しく抵抗を続けた。なお、後の調べで犯人らに薬物使用の形跡はなかった。
この事件がきっかけとなり、FBIでは当時配備していた9mm口径の制式けん銃では犯罪の抑止力が欠如していることに気がつき、威力不足の議論と、その代替となる銃の選定が行われた。その結果、FBIでは一発必倒の威力がない9mmを捨て10mm口径を新たにスタンダードな口径として、スミス&ウェッソンM1076を採用したのだ。
しかし、9mmの威力不足をきっかけに行われた10mm口径の施策は、より優れた9mm強装弾や.40S&Wの登場により、結局短命で終わることになる。その後、FBIのオフィシャル・ガンでは.40S&Wが標準となった。
しかし2016年になり、FBIでは.40S&Wから9mm口径へ戻すという異例の施策がとられ、グロック17およびグロック19(いずれも9mm口径)を新たなオフィシャルピストルとして配備した。
この昨今のFBIのガン事情を意外なほどに正確に描いたのが、実に13年ぶりの新シーズン・リリースとなるXファイル 2016だ。今シーズンではモルダー捜査官がフルサイズのグロック17 3rd Gen、スカリー捜査官がコンパクトなグロック19を携行。
モルダー捜査官はシーズン1の時点でグロック19を携行していたが、今回は中年太りのモルダーに似合うためか(?)、フルサイズの17になったようだ。なお、スカリー捜査官がグロックを携行するのは今シーズンが初。
アメリカの警官は個人の好みの銃を使える?
米国警察のけん銃は80年代までは38口径のリボルバーが主流だったが、現在ではもはや完全に9mm口径のセミオート(自動式)が主流になっている。
米国の警官は自分の好みの銃を使えるのかは「使える場合もある」とするのが適切だ。ただし、アメリカの警察といえど、制式けん銃が各州の警察機関ごとに決められているのは日本の警察同様であり、選択肢はある程度限られる。
使用される銃は全米警察どこでも前述したグロックやベレッタ、シグP226が圧倒的。NYPDではG19、M5906、P226DAO(すべて自動式)のいずれかの使用が認められているが、6割以上の警官がG19を選んでいるという。
ただ、50歳以上の警官についてはリボルバーを使用できる特例を持つNYPDや、内勤警官のみリボルバーを携帯できるLAPDなどの例もある。
このように、各州、各市の各警察によって様ざまであり、統一的な見解を出すことは難しい。ただ、映画「ダーティーハリー」のように.44マグナムのような銃を使うことを許されている警察というのは皆無。なお「.357マグナム」であれば、80年代、ハイウェイ・パトロール(ステート・トルーパー)などの交通警察でで広く普及した。
非番の警官が使う銃
また、非番時のけん銃についても、あらかじめ規定されたうちのモデルから選んで携行することが多く、それも自費購入が多い。全米の警官から好まれるのが小型のリボルバータイプのけん銃だ。装弾数は5発と少ないが、安全かつ小型で私服の下に隠せて持ち運びも容易だ。
以下の動画はスミス&ウェッソンのリボルバーの内部構造を説明したもの。
参照 https://hb-plaza.com/sw-revolver-safety/
このようにリボルバーには本来、安全装置が内部機構として搭載されているため、手動でオン・オフできるマニュアル式の安全装置をつけないのが主流なのだ。
とくに米国の非番警官が携行することでも知られる小型リボルバーには、ロス市警の非番警官が深夜、近所のコンビニへ行って運悪くコンビニ強盗に遭遇してしまったなどの場合、意思の弱そうな客を演じて強盗を油断させつつ、咄嗟に衣服の下からロス市警の非番警官指定銘柄である小型リボルバーSmith & Wesson, model 649 .38 caliberを抜いて38口径を連射して法を執行するシーンも想定される。YOUTUBEの『非番の警官だけどコンビニ強盗撃ってみた』シリーズは日本でも大人気だ。嫌なシリーズである。
一方で、非番であっても銃の取り扱いは厳重にしなければならない。非番でも強い酒を飲む場合などは携行が免除される例もある。公共の安全よりも、暴発などの事故を防ぐためだ。
非番中でも不適切なシーンでけん銃を携行したために、暴発が起きるなどトラブルが起きる例もある。
例として、非番のFBIエージェントが、けん銃を腰に携行したまま激しいダンスをプレイ中、バク転を行ったためにけん銃を床に落下させ、拾い上げる際に暴発させた2018年の事故。
この事故ではあろうことか見物人が被弾した。この際のけん銃はリボルバーではなく、セミオート・タイプのようだ。
また、2015年には米オハイオ州で非番の警察官が買い物帰りのエレベーター内で、誤ってけん銃の引き金に指をかけ、兆弾(跳弾)で自分が被弾するという事故も起きている。
けん銃を携行しつつ、浮かれ気分でロックンロールなどすると、思わぬアクシデントに見舞われることも間々あるようだ。
自動小銃なども配備する
特殊部隊SWATにおける自動小銃の配備は無論のこと、さらには一般警官が乗務するパトカーにもショットガンもしくはMP5(日本警察でも配備)と呼ばれる9mm口径の軍用サブマシンガン(短機関銃)、M4(陸上自衛隊でも配備)と呼ばれる公用カービン銃がロックつきで搭載されている。一部警察では白バイにも自動小銃が搭載される。
M4は威力が強く、流れ弾による事故も起き得るので、フルオートのないセミオートオンリーのモデルを採用する警察機関も多い(米軍も一部を除いてM4にフルオート機能はオミットしている)。
そのほかに、LAPDなど一部の警察では面白い制度として、ギャングから押収した武器を警察用に改修し、転用する実例がある。これもまた日本警察では極めて実現不可能な制度だが、犯罪者が使っていた銃を使う警官の士気の問題はともかく、予算的にはこれほどおいしいものはないだろう。
なお、日本警察では押収した違法な銃器は証拠期限が切れれば、鉄くず扱いで溶鉱炉へ送られて処理されるが、必要な場合は保存される。